Bortezomib(ベルケード)、多発性骨髄腫において標準治療より長く進行を遅らせる

米国国立がん研究所(NCI)

http://cancer.gov/clinicaltrials/results/bortezomib0604
(Posted: 06/05/2004, Updated: 07/06/2005)海外第3相試験の早期結果で、新標的薬bortezomib(ベルケード)は標準治療に比べ、再発、または他の治療に抵抗性となった多発性骨髄腫患者の病気の進行を遅らせたと示された。


要約
再発多発性骨髄腫の患者に対して実施された多国間第 Ⅲ相臨床試験で、新しい標的薬剤ボルテゾミブ(ベルケード )が、病気の進行を遅らせるという点でデキサメタゾン大量投与の標準治療よりも有効であるという結果が明らかになりました。ボルテゾミブの治療を受けた患者にいくらか深刻な副作用が多く見られましたが、1年生存した患者は標準治療を受けた患者よりもボルテゾミブの治療を受けた患者のほうが多数でした。

出典 2005年6月16日のニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディスン( ジャーナル要旨参照)

背景

2005年、米国では約15,980人が多発性骨髄腫にかかり、また11,300人がその病気で死亡するとみられています。多発性骨髄腫の治療は初めは有効であるが、長期予後は概して芳しくありません。診断後5年生存するのは患者の約29%です。

多発性骨髄腫の患者は免疫不全に陥ります。形質細胞と呼ばれる、細菌感染に抵抗する抗体を産生する白血球の一種が無制限に増殖を始めます。膨大な量の異常な形質(骨髄腫)細胞が骨髄(大きな骨に見られる海綿状組織)の中にある正常な血球を圧倒し、疲労、骨の痛み、貧血症、腎不全、そして反復性感染に至ることがあります。

多くの場合、化学療法により骨髄腫細胞の数が減少し、多くの患者が 2年以上寛解します。しかし、多発性骨髄腫の治療は最後にはその効果を失います。骨髄腫細胞の数が再び増加を始めると、多発性骨髄腫が再発します。

この患者グループに最も有効であると認められた治療法は1つもありませんが、多くの場合、プレドニソンまたはデキサメタゾンなどのステロイド大量投与がよく使用され、続いて骨髄移植が行われることが多くあります。

プロテアソーム阻害剤とは、多発性骨髄腫などの再発または難治性(治療効果のない)血液癌の患者により有効と思われる新世代の標的治療です。第 Ⅱ相臨床試験で実際に効果を発揮した初めての治療法がボルテゾミブ(ベルケード )です。一部の癌に活性の高いたんぱく質に的を絞ることによって、ボルテゾミブは腫瘍の増殖を遅らせ、放射線および化学療法の殺細胞効果を高めます。

米国食品医薬品局( FDA)はボルテゾミブに対し、少なくとも2コースの治療後に多発性骨髄腫が進行した患者に対する「ファスト・トラック」承認を与えました。Assessment of Proteasome Inhibition for Extending Remissions(APEX)臨床試験と呼ばれる第3相臨床試験が実施され、さらに信頼のおける証拠をもたらしました。

試験

米国、カナダ、欧州およびイスラエルの 94施設で実施された臨床試験に、669人の再発または 難治性多発性骨髄腫患者が参加しました。患者全員が以前に、ボルテゾミブ以外の治療を 1~3種類受けていました 。どの治療がいっそう有利に病気の進行を防ぐかを特定することを主要な目的にして、患者は、ボルテゾミブの治療かデキサメタゾン大量投与の標準治療のいずれかに無作為に割り当てられました。 APEXは、安全で有効であると認められた小規模の臨床試験後に実施された最初の大規模無作為比較対照臨床試験(癌研究の最も基準であると考えられる)でした。

試験は劇的にボルテゾミブに有利な結果となりました。また、これに伴いデキサメタゾン治療群の患者の病気が進行し始めてすぐにデキサメタゾン治療からボルテゾミブに切り替える随伴試験が実施されました。デキサメタゾン治療群の 44%が最終的にボルテゾミブ治療群に切り替えられました。

臨床試験の統括医師は、マサチューセッツ州ボストンの Dana-Farber Cancer InstituteのPaul G. Richardson氏です。(プロトコルの概要を参照。)

結果

病気の進行が始まるまでの期間が、ボルテゾミブを投与された患者では、デキサメタゾン治療群が 3.49カ月に対し、6.22カ月とほぼ2倍となりました。両治療群の患者は、ほぼ同じ期間(中央値43日間)でそれぞれの治療に反応しましたが、その反応は、デキサメタゾン治療群(中央値5.6カ月)よりもボルテゾミブを投与された患者(中央値8カ月)のほうがより長期に持続しました。

最終的に、完全または部分寛解を得た患者が、デキサメタゾン治療群では 18%であったのに対し、ボルテゾミブ治療群では38%でした。両治療群とも、臨床試験に参加する前に1種類の治療を受けただけの患者で高い奏効率が見られました。

全生存率という点で、ボルテゾミブの治療群に切り替えられたデキサメタゾン治療群の患者を考慮に入れても、ボルテゾミブ治療群の患者は優位に改善しました。 1年間生存率がデキサメタゾン治療群の患者が66%に対し、ボルテゾミブを投与された患者は80%で死亡のリスクが43%減少しました。

ボルテゾミブ治療群には副作用が重要な問題で、デキサメタゾン治療群の患者 96人(29%)に対し、ボルテゾミブ治療群では121人の患者(37%)が臨床試験の中止を余儀なくされました。

最も重篤な (グレード4)副作用の発生率が両治療群とも同様であったのに対し、それほど重篤ではないがそれでもなお深刻であるグレード3の有害事象が、デキサメタゾン治療群では44%に対し、ボルテゾミブ治療群は61%でした。患者の血液および神経に対するグレード3の毒性は、ボルテゾミブ治療群が有意に際立っていましたが、このような副作用は治療可能でした。湿疹、不眠、骨および四肢の痛みおよび筋けいれんが、デキサメタゾン治療群において有意に悪化しました。

APEXの結果は、当初2004年の米国癌治療学会年次総会で発表されました。

コメント

APEXの臨床試験はFDAの ボルテゾミブ承認の決定を支持する結果となっていると、ミネソタ州のロチェスター、メイヨークリニックの Angela Dispenzieri医師は付随の論説で語りました。新しい多発性骨髄腫治療法が一世代の間開発されていないことを言及していますが、「将来の見通しは明るい」とDispenzieri医師は考えています。その他臨床試験の予備報告では、ボルテゾミブに高い奏効率が認められている、特に別の治療と併用した場合そうであると、Dispenzieri医師は述べています。

確かにボルテゾミブは「再発骨髄腫の場合において、特にデキサメタゾンのような別の治療法と併用して、広く使用されつつある」と国立癌研究所 Cancer Therapy Evaluation ProgramのThomas Davis医師は語りました。「毒性の問題は、APEXが示すように、副作用が非常に異なっているため併用すると軽減する。」とDavis医師はつけ加えました。

ほとんどの薬剤には再発骨髄腫に有意な有益性が認められなかったため、「ボルテゾミブは、有望と思われる新しい治療法で、多くの注目を集めるでしょう。このレベルの細胞に対する活性は非常に興味深いものです。ベルケード は、新世代のプロテアソーム阻害剤の中で初めて本格的に開発され、再発骨髄腫において単剤で有効であるので、初期治療として使用すれば、さらに有効となるのでないかという期待が持てる。」と Davis医師は説明しました。

制限事項
ボルテゾミブ治療群の1年間生存率は統計的に有意に高い数値を示していましたが、臨床試験は、主に多発性骨髄腫を悪化させないという点でボルテゾミブは有効だったかを確実に判断するよう計画されていました。

さらに、臨床試験は初期の段階で臨床試験が中止され、デキサメタゾン治療群の患者の治療をボルテゾミブ治療に切り替えても良いという倫理的な決断が下されたため、 APEX臨床試験が、長期にわたり追跡を行ったとしても、ボルテゾミブで患者の長期生存率が延長するか、また延長した場合どのくらい延長するかを明確に判断するのは困難であると、 国立癌研究所の癌研究センターの Wyndham Wilson医学博士は語りました。

Davis医師はWilson博士の意見に同意しましたが、再発多発性骨髄腫患者の臨床試験はこのような長期生存率の データを収集することは困難であろうと指摘しました。新しい治療法が、 APEXが示したような特筆すべき有効性をもたらすのであれば、患者は実験的治療に切り替えられますが、その結果、医師達の、延命効果を割り出す能力が犠牲になります。それでもなお、「ボルテゾミブの活性について私達が分かっていることから、患者が長期にわたり有意な有益性を受けているとが示唆される」と、Davis医師は語りました。

(ポメラニアン 訳・林 正樹(血液・腫瘍科) 監修 )

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