単一細胞解析法が多発性骨髄腫の生物学的メカニズム解明の手掛かりに

パイロット研究の結果によると多発性骨髄腫患者の血液中にある腫瘍細胞が多発性骨髄腫発症の引き金となる遺伝学的変化に関する新しい情報源になる可能性がある。

本研究では多発性骨髄腫患者の血液から腫瘍細胞を単離後、解析した。血液から採取した腫瘍細胞は骨髄から採取した腫瘍細胞と同等以上の多発性骨髄腫に関連する遺伝学的変化に関わる情報をもたらすことを研究者らは見出した。

採血のみを必要とする単一細胞解析法は、骨髄検査と比較して患者に対して低侵襲で痛みが少ない。研究者らによると、単一細胞解析法は多発性骨髄腫発症に関する遺伝学的情報をもたらす可能性もあるという。この結果はScience Translational Medicine誌11月02日号に発表された。

「ごく少量の血液中の腫瘍細胞でも極めて詳細な遺伝学的情報を得られることが本研究により示されました」と本研究の共著者であるJens Lohr氏(医学博士、ハーバード大学・マサチューセッツ工科大学ブロード研究所)は述べた。Lohr氏らの見通しによると、この方法は100万個の細胞から1個の骨髄腫細胞を検出できるという。

治療が奏効しなくなる時

多発性骨髄腫患者に対する治療選択肢は米国食品医薬品局による新規承認件数と共に、ここ数年で増加している。しかしながら、ほとんどの患者では最終的に、治療が奏効しなくなる。

本研究の目的は、医師が再発時を含む任意の時点での多発性骨髄腫における遺伝子変化を発見・監視できる解析法の開発することにあるとダナファーバーがん研究所で多発性骨髄腫患者の治療を担当するLohr医師は述べる。

「薬剤耐性は多発性骨髄腫で解明が待たれる重要な事項の1つです。私たちはこの単一細胞解析法という新しい手法を用いて薬剤耐性の傾向がある患者を追跡調査することで薬剤耐性のメカニズムを明らかにしたいと考えています。この解析法はごく少量でも血液中や骨髄中の薬剤耐性多発性骨髄腫細胞の特定に使用できるのです」とLohr医師は述べる。

「多発性骨髄腫のみならず様々ながん種において血液中の腫瘍細胞を単一腫瘍細胞解析の手法を用いて検討する試みについて研究者は強い関心をもっている。」と本研究に関与しなかったNCIがん生物学部門に所属するKevin Howcroft博士も述べる。

「しかし、どれくらい多くの腫瘍細胞が血液中を循環しているのか、また、腫瘍細胞の解析により腫瘍の挙動を突き止めることができるかどうかはわかっていません」とHowcroftは続ける。

単一細胞解析法の評価

本研究から明らかにされた結果は以下の通りである。Lohr医師らは最初に多発性骨髄腫患者24人の血液から、少なくとも12種類の単一腫瘍細胞を取り出した。この方法では生物学的マーカーを使用して、検体中の形質細胞(多発性骨髄腫の起源となる細胞)を取り分けて濃縮する。その後、顕微鏡下で個別の腫瘍細胞を手作業で単離する。

次に、Lohr医師らは血液中の細胞由来DNAを用いて多発性骨髄腫で変異を起こし得るゲノム35箇所を解析し、血液由来細胞におけるDNA変異と同一患者から採取された骨髄組織検体で同定された変異とが同一であることを見出した。

一部の患者においては、単一細胞解析法は骨髄検体で検出されなかった腫瘍化に関わる遺伝学的変化が見つかった。この理由として、骨髄検体からは解析に十分な量のDNAが得られなかった可能性や、骨髄検体でこうした遺伝学的変化を有する骨髄腫細胞が十分に含まれていなかった可能性が挙げられるとLohr医師らは述べた。

「骨髄で検出されなかった遺伝学的変化が末梢血での遺伝学的変化として見つかったという事実から、骨髄検査のみに依存すると情報を見落とす可能性があります。因みに骨髄検査では通常1カ所からしか検体を採取しません」とLohr医師は述べた。

骨髄腫細胞のさらなる解析を目的に、Lohr医師らは骨髄腫細胞から抽出したRNAシークエンス解析を行った。Lohr医師らはRNAシークエンス解析の結果を用いて骨髄腫細胞と正常形質細胞を識別することができた。そして検体中の骨髄腫細胞の集団を同定することも可能であった。

「DNAシークエンス解析とRNAシークエンス解析により細胞の遺伝学的変化の全体像について情報を得ることができます」とHowcroft博士は述べた。「遺伝子発現の研究によっても多発性骨髄腫において重要な役割を果たす染色体異常の存在が明らかになる可能性がある。」とLohr医師らは述べた。

前駆病変

「単一細胞解析法によって研究者らはMGUS(monoclonal gammopathy of undetermined significance:意義不明の単クローン性ガンマグロブリン血症)のような多発性骨髄腫の前段階病変に対する理解を深めることにつながるでしょう。とLohr医師は述べる。1年間にMGUS患者の約1%が症候性骨髄腫(多発性骨髄腫)に進行する。

「医師は通常MGUS患者に骨髄検査を行いません。というのは、彼らを病気であると考えないからです」とLohr医師は述べた。

現時点では、MGUSを有する人の中で最終的に多発性骨髄腫を発症する可能性がある人を特定する方法は存在しない。本研究にはMGUSの人が含まれ、かつ、単一細胞解析法から、MGUSの人の中にでがん遺伝子であるNRASの発がん変異が認められることが示された。

この結果から重要な検討課題が生じたとLohr医師は述べた。すなわち「MGUSの人はやがて多発性骨髄腫に進展するのか。一方で、そういった人にがん遺伝子変異が認められながらも多発性骨髄腫に進展しないことがあるのはなぜなのか」ということである。

研究者らは単一細胞解析法を使用して、MGUSを有する人を長期間追跡調査し、多発性骨髄腫への進展と関連する生物学的マーカー候補を特定できる可能性があるとLohr医師は加える。

今後の展開

本研究は予備的研究であり、さらなる研究が必要であるとLohr医師らは語気を強めた。

「この単一細胞解析法が臨床判断に影響を与える可能性を検討する必要があります。そして、単一細胞解析法から得られた情報から薬剤耐性機構を解明できるかどうかを検討していく必要があります」とLohr医師は述べた。

この単一細胞解析法が多発性骨髄腫における生物学的本質の解明に導く可能性をHowcroft博士は予測した。「この解析法により、われわれが多発性骨髄腫に関してまだ知らない新しい知見をもたらされることでしょう 。今後の発展を期待しています。」と同氏は述べた。

【画像の解説】

多発性骨髄腫患者の血液から採取された腫瘍細胞から腫瘍化に関わる遺伝学的変化が明らかになるということを研究者らは見出した。

解説:広報

翻訳担当者 渡邊岳

監修 佐々木裕哉 (血液内科・血液病理/久留米大学病院)

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原文掲載日 

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