エロツズマブの併用により、再発性多発性骨髄腫における進行リスクが大きく低減

ASCOの見解
ASCO次期会長、経営学修士、米国臨床腫瘍学会フェロー(Fellow of the American Society of Clinical Oncology:FASCO)、Julie M. Vose医師
「血液がんの中で3番目に多い多発性骨髄腫における知識、治療は、過去10年間で目覚ましい進歩を遂げました。本研究は、革新的なアプローチ、つまり従来の骨髄腫の治療法に精密な標的免疫療法を併用したアプローチに関するもので、再発した患者さんに新たな希望をもたらすような、非常に有望な結果が得られました」。

第3相試験の中間結果から、革新的免疫療法が、再発性多発性骨髄腫患者のための新たな治療選択肢となる可能性が示唆されている。新規モノクローナル抗体エロツズマブ[elotuzumab]をレナリドミド[lenalidomide] ・デキサメタゾン[dexamethasone] 併用標準治療に追加投与したところ、標準治療のみの場合に比べて寛解期間が平均約5カ月間延長されたためである。

「従来通りであれば、レナリドミドとデキサメタゾンのみ投与されるはずの再発性多発性骨髄腫の患者さんに新規標的薬エロツズマブを追加することにより、転帰がさらに改善されます。特に強く印象に残ったのは、エロツズマブ群と対照群との差が経時的に増大するとみられたことであり、このエロツズマブ併用免疫療法のパワーを如実に表しているといえます」とジョージア州アトランタにあるエモリー大学ウィンシップがん研究所のチーフメディカルオフィサーであり、エモリー医科大学血液・腫瘍学部門の教授でexecutive vice chairでもある本研究筆頭著者Sagar Lonial医師は語る。

エロツズマブは、SLAMF7に付着する。SLAMF7とは、骨髄腫細胞上および免疫細胞の一種であるナチュラルキラー(NK)細胞上に発現する細胞表面タンパク質である。エロツズマブは、直接骨髄腫細胞を標的とし、またNK細胞の骨髄腫細胞を殺す能力を増強する、すなわち2方面から「がん」を攻撃すると研究者たちは確信している。

現在、多発性骨髄腫の治療において承認されているモノクローナル抗体はない。本研究は、多発性骨髄腫におけるモノクローナル抗体療法に関する最大規模の研究であるとともに、本疾患の治療において、標的免疫療法を用いることによる有益性が示された最初の第3相試験でもある。

今回の試験では、646人の再発性多発性骨髄腫患者がレナリドミド・デキサメタゾン併用群(対照群)あるいはエロツズマブ・レナリドミド・デキサメタゾン併用群に無作為に割り付けられた。

追跡期間中央値24カ月でのエロツズマブによる進行リスクおよび死亡リスクの低減率は30%であった。エロツズマブ群の患者における無増悪期間(平均19.4カ月)は、対照群の患者(平均14.9カ月)よりも有意に長かった。また、ハイリスク因子(遺伝子異常del(17p)およびt[4;14])を有する2つの部分集団の患者においても、平均リスクを有する患者と同等の有益性がエロツズマブから得られるとみられた。尚、従来の標準療法は、ハイリスク患者においては有効ではない傾向が示さている。

全般的に、エロツズマブの忍容性は良好であり、本剤による患者の「生活の質」の低下あるいは症状の悪化は認められなかった。最初、数回投与した後、軽度の輸注反応がエロツズマブ群の患者の10%で発生した。

2014年、エロツズマブは、再発性多発性骨髄腫患者の治療に対するレナリドミド・デキサメタゾンとの併用において、画期的治療薬としての指定(breakthrough therapy designation)を、米国食品医薬品局(FDA)から受けた。この指定は、重篤あるいは生命を脅かす疾患における治療薬の開発および審査過程の促進に役立つ。継続中の臨床試験では、新たに診断された多発性骨髄腫患者の治療におけるエロツズマブ併用の可能性が探究され、また既存療法とエロツズマブとの多様な組合せについての検証が行われている。

本研究は、ブリストル・マイヤーズスクイブ社およびAbbVie社から資金提供を受けた。

本試験の抄録の閲覧(英語)

参考情報

翻訳担当者 八木 佐和子

監修 林 正樹(血液・腫瘍内科/社会医療法人敬愛会中頭病院)

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