FDAが多発性骨髄腫の治療にパノビノスタットを承認

米国食品医薬品局(FDA)ニュース

速報

米国食品医薬品局(FDA)は本日、多発性骨髄腫患者の治療薬としてパノビノスタット[panobinostat](Farydak)を承認した。

多発性骨髄腫は、骨髄にある白血球の一種、形質細胞に起因する血液の癌のひとつである。米国国立癌研究所(NCI)によれば、毎年約21,700人のアメリカ人が多発性骨髄腫と診断され、10,710人がこの病気で死亡している。

多発性骨髄腫は主に中高年にみられ、形質細胞を急速に増殖させて骨髄から正常な他の血液細胞を排除してしまう。骨髄の形質細胞が過剰になると体内の別の場所に移動することがあり、それによって体の免疫系が弱くなったり貧血を起したり、ほかにも骨や腎臓に障害を生じることがある。

パノビノスタットには、ヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)として知られる酵素の活性を阻害する作用がある。この阻害作用によって、多発性骨髄腫患者にみられる形質細胞の過度の発生が遅くなるか、この危険な細胞が死ぬことになる。

パノビノスタットは、多発性骨髄腫の治療薬として承認された初のHDAC阻害剤である。ボルテゾミブと免疫調節剤をはじめ、事前に少なくとも2種類の標準治療薬を使用した患者のためのものである。パノビノスタットは、化学療法のボルテゾミブおよび抗炎症薬のデキサメタゾンと併用して使用する。

「パノビノスタットは、多発性骨髄腫の治療薬として承認された以前の薬剤とは異なる新しい機序で作用するため、多発性骨髄腫治療薬として魅力的な薬剤になる可能性があります。多発性骨髄腫の進行を遅らせることが明らかになっているので、パノビノスタットの承認は特に重要です」と、FDAの医薬品評価研究センターにある血液・腫瘍内科製品室長のRichard Pazdur医師は話している。

2014年11月、FDAの腫瘍薬諮問委員会は、検討したデータに基づけば、多発性骨髄腫の再発患者に対する本剤の利点はリスクを上回るものではないと同局に勧告した。諮問委員会のあと、製薬会社は異なる適応、すなわち事前にボルテゾミブと免疫調節剤を含む少なくとも2種類の標準治療薬を使用した多発性骨髄腫患者へのパノビノスタットにおける有効性を裏づける追加情報を提出した。

ボルテゾミブとデキサメタゾンと併用した時のパノビノスタットの安全性および有効性は、事前にボルテゾミブと免疫調節剤を含む少なくとも2種類の標準治療薬を使用した多発性骨髄腫患者を対象とした試験の参加者193人によって実証されている。試験参加者をパノビノスタットおよびボルテゾミブとデキサメタゾンの併用または、ボルテゾミブとデキサメタゾンのみのいずれかに無作為に割り付けた。

試験の結果から、疾患が進行するまでの期間(無増悪生存期間)がパノビノスタットを併用した患者では約10.6カ月と、ボルテゾミブとデキサメタゾンのみの患者の5.8カ月に比べて延長したことがわかった。さらに、治療後の腫瘍の縮小または消失(奏効率)がパノビノスタット治療群の59%にみられたのに対し、ボルテゾミブとデキサメタゾン群では41%であった。

パノビノスタットの添付文書には患者と医療従事者の注意を喚起する黒枠警告があり、重症の下痢、重症および致死的な心疾患、不整脈、心電図(ECG)の変化がパノビノスタットを使用した患者にみられたことが記載されている。このようなリスクがあるため、パノビノスタットの承認には医療従事者にリスクとリスクを最小限に抑える方法を伝える情報伝達計画を内容とするリスク評価・軽減戦略(REMS)が付いている。

パノビノスタットに最もよくみられた副作用は、下痢、倦怠感、悪心、四肢の浮腫、食欲減退、発熱、嘔吐、脱力感であった。検査異常として最もよくみられたものは、血中リンの低値(低リン血症)、血中カリウムの低値(低カリウム血症)、血中ナトリウムの低値(低ナトリウム血症)、クレアチニン高値、血小板数の低値(血小板減少症)、白血球数の低値(白血球減少症)、赤血球数の低値(貧血)であった。また、医療従事者は消化管出血や肺出血および肝障害(肝毒性)の危険があることを患者に伝える必要がある。

FDAはパノビノスタットを優先審査して希少疾病用医薬品(オーファンドラッグ)指定とした。優先審査制度とは、重篤な疾患や病態の治療を目的とする医薬品であり、現在使用可能な治療に比べ、有意な改善をもたらす可能性のある医薬品を迅速に審査する制度である。オーファンドラッグ指定は、稀な疾患の治療を目的とする医薬品に与えられる。

FDAは同局の迅速承認制度に基づいてこのような措置をとった。この制度によって、臨床的有用性を適度に予測できる代替エンドポイントに医薬品の効果があることを示す臨床試験成績に基づき、重篤な疾患や生命を脅かす疾患の治療を目的とする医薬品を承認することができる。本制度は、患者が通常よりも早く、製薬会社が確認のための臨床試験を実施している間に有望な新薬を使用できるようにするものである。パノビノスタットによって生存期間または疾患に関連する症状が改善されるがどうかはまだ確立されていない。製薬会社はパノビノスタットの臨床的有用性を検証して説明するための確認試験を実施することが求められている。

パノビノスタットは米国ニュージャージー州イーストハノーバーに拠点を置くノバルティス社が製造販売している。

翻訳担当者 ギボンズ 京子

監修 吉原 哲(血液内科/コロンビア大学CCTI)

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