多発性骨髄腫の初期治療へのダラツムマブ上乗せ効果を示す試験結果
米国国立がん研究所(NCI) がん研究ブログ
新たに多発性骨髄腫と診断された患者を対象とした大規模ランダム化臨床試験で、標準治療レジメンにダラツムマブ(販売名:ダラキューロ配合皮下注)を追加することで、標準治療レジメン単独よりも高い効果が得られることが明らかになった。
ダラツムマブの治療を受けた試験参加者では、標準治療のみを受けた参加者に比べて、がんが悪化あるいは死亡することなく生存する期間が大幅に延長していた。
中央値4年後において、ダラツムマブ+標準治療を受けた患者の84%、ボルテゾミブ(販売名:ベルケイド)、レナリドミド(販売名:レブラミド)、デキサメタゾンを併用する標準治療を受けた患者の68%が、がんが悪化することなく生存していた。
「これは無増悪生存期間における顕著な利益なのです」と、マイアミ大学シルベスター骨髄腫研究所所長C.Ola Landgren医学博士(この臨床試験には関与していない)は述べた。
ダラツムマブの治療を受けた患者ではまた、治療後にがんの徴候(微小残存病変、MRDと呼ばれる)が検出されない傾向がみられた。PERSEUSと呼ばれるこの試験の結果は、New England Journal of Medicine誌に掲載されるとともに、米国血液学会年次総会において12月12日に発表された。
2020年、小規模な臨床試験において、この標準治療レジメンへのダラツムマブの追加が、新たに多発性骨髄腫と診断された患者に大きな利益をもたらすことが示された。
この薬剤の併用処方をすぐに開始した医師がいる一方で、より確かなデータが得られるのを待ち続けた医師もいると、スタンフォード大学血液腫瘍医Surbhi Sidana医師は説明した。
「新たな試験から得られた結果は、第3相試験の無増悪生存期間のデータを期待していた人々にとって、この問題に決着をつける非常に重要な確認データとなります。待ち望んでいた患者においては、これで治療法が変わることになります」とSidana医師は米国血液学会年次総会で述べた。
ダラツムマブは他の薬剤の組み合わせとの併用が米国食品医薬品局(FDA)により承認されているが、新規に診断された多発性骨髄腫に対するボルテゾミブ、レナリドミド、デキサメタゾンとの併用は、まだ承認されていない。
ダラツムマブの静脈内投与と皮下投与
多発性骨髄腫と診断された多くの若年者に対する初期治療には、薬剤の組み合わせによる治療、幹細胞移植など複数の段階がある。
この治療方法は10年以上前から実施されていると、PERSEUS試験のリーダーであり、オランダにあるエラスムスMCがん研究所のPieter Sonneveld医学博士は述べた。
研究者らはこの10年間、薬剤の組み合わせの微調整や、新しい薬剤との入れ替えや追加による新たな組み合わせにより、がんを根絶できるか、再発を遅らせることができるかどうかを調べてきた。
「PERSEUS試験では、ダラツムマブを追加することで標準治療の改善を試みました」とSonneveld医師は述べた。
ダラツムマブは標的がん治療薬であり、多発性骨髄腫細胞を死滅させると同時に、免疫細胞にがん細胞を死滅させるように働きかける。投与方法は、血管からの注入(静脈内投与)と皮膚の下への注射(皮下投与)がある。
どちらの投与経路でも多発性骨髄腫に対する効果は同程度であるが、ダラツムマブの皮下投与では副作用が少なく、患者への時間的な負担がはるかに軽い。静脈内投与は数時間かけて行われるが、皮下投与は数分しかかからないとLandgren医師は説明した。
2020年の試験では、ダラツムマブは静脈内投与された。しかし、それ以降は皮下投与が好まれるようになったとLandgren医師は述べた。PERSEUS試験では、ダラツムマブは皮下投与された。
PERSEUS試験
新たに多発性骨髄腫と診断された患者700人以上が参加した本試験は、ヨーロッパとオーストラリアの14カ国で実施され、ダラツムマブを製造するJanssen社より一部資金の提供を受けた。
参加者は全員、幹細胞移植を受けられる患者、すなわち一般的に年齢が若く、全身状態が良好な患者であった。すべての参加者は、以下の標準治療に加えて、ダラツムマブの皮下投与を行う群あるいは行わない群に無作為に割り付けられた。
- ボルテゾミブ、レナリドミドおよびデキサメタゾンによる導入療法
- 幹細胞移植
- ボルテゾミブ、レナリドミドおよびデキサメタゾンによる地固め療法
- レナリドミドによる維持療法
ダラツムマブ投与群の患者には、導入療法、地固め療法、維持療法の一環としてダラツムマブが投与された。
研究者らは中央値で約4年間、複数の指標を用いて患者の転帰を追跡調査した。すべての指標において、標準治療レジメン+ダラツムマブは標準治療レジメン単独よりも有効であった。
例えば、ダラツムマブ投与群では、完全奏効または厳格な完全奏効(従来の血液検査などでがんの徴候が認められない)、MRD陰性(高感度のDNA検査でがんの徴候が認められない)などの深い奏効が得られる割合が高かった。
ダラツムマブ+標準治療 | 標準治療 | |
4年後の無増悪生存率 | 84% | 68% |
完全奏効または厳格な完全奏効 | 88% | 70% |
MRD陰性 | 75% | 48% |
少なくとも1年間MRD陰性 | 65% | 30% |
ダラツムマブ投与群で少なくとも1年間MRD陰性が続いた患者では、維持療法としてのダラツムマブの投与を中止可能とし、がんのない状態が維持された。維持療法のために長期的に服用する薬剤の量を減らすことが、幸福感や生活の質(QOL)の向上につながることが多いため、これは重要なことであるとSonneveld医師は述べた。
標準治療にダラツムマブを追加することで、がんの増悪または死亡のリスクが60%近く低下した(ハザード比0.42)と研究者らは結論づけた。
「この変化の大きさは、多発性骨髄腫を対象としたこのような第3相試験では前例がありません」とSonneveld医師は述べた。
ダラツムマブにより患者の生存期間がどれだけ延長するかについては、まだ十分な追跡調査が行われていない。試験は進行中であり、引き続き全生存期間を追跡調査する予定であると研究者らは述べた。
ダラツムマブ上乗せによる副作用
ダラツムマブ投与群の患者では、感染症、好中球減少症や血小板減少症などの副作用が多くみられた。
ダラツムマブ投与群では、重篤な副作用を経験した患者の割合が標準治療群よりも高かった(57%対49%)。しかしながら、副作用のために治療を中止した患者は、ダラツムマブ投与群では少なかった(9%対22%)。
ダラツムマブ投与群の11%、標準治療群の7%の患者が、2種類目のがん、つまり多発性骨髄腫ではないがんを発症した。幹細胞移植を受けられた患者は、ダラツムマブ投与群の方が標準治療群よりわずかに多かった(90%対87%)。幹細胞移植の重篤な副作用は、さらなるがんを発症するリスクがあることである。
副作用に関連した合併症で死亡した患者の割合は、両群とも同程度であった(ダラツムマブ投与群4%、標準治療群5%)。
治療選択肢の中のひとつ
PERSEUS試験で得られた結果から、多発性骨髄腫患者の治療法に新たな選択肢が加えられることになるだろうとLandgren医師は述べた。
新たに多発性骨髄腫と診断された患者に対して、ダラツムマブを別の薬剤の組み合わせと併用することは、既にFDAにより承認されている。その一つとして、ボルテゾミブ、デキサメタゾン、サリドマイド(サロミド)の組み合わせがある。
さらに、その他の選択肢も出てくる可能性がある。現在進行中のADVANCE試験では、新たに多発性骨髄腫と診断された患者を対象に、ダラツムマブ+別の3剤併用療法(カルフィルゾミブ[カイプロリス]、レナリドミド、デキサメタゾン)を、3剤併用療法単独と比較している。
また、別の臨床試験では、ダラツムマブと同じタンパク質を標的とするイサツキシマブ(サークリサ)を、カルフィルゾミブ、レナリドミドおよびデキサメタゾンに追加した場合の効果を検討している。米国血液学会年次総会でも発表された本試験の予備結果から、新たに診断された多発性骨髄腫に対してこの併用療法が有望であることが示唆された。
現時点で明らかになってないことは、ダラツムマブの有効性を得るために、移植前後のすべての治療段階でダラツムマブを患者に投与する必要があるかどうかであるとLandgren医師は述べた。
現在進行中のある臨床試験では、この疑問について検討がなされている。この試験では、ダラツムマブがボルテゾミブ、サリドマイドおよびデキサメタゾンに追加された。この臨床試験の初期の結果で、ダラツムマブは標準治療レジメンの3段階すべてに追加された場合に最も効果的である可能性が示唆されている。
- 監訳 喜安純一(血液内科・血液病理/飯塚病院 血液内科)
- 翻訳担当者 田村克代
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- 原文掲載日 2024/1/19
この記事は、米国国立がん研究所 (NCI)の了承を得て翻訳を掲載していますが、NCIが翻訳の内容を保証するものではありません。NCI はいかなる翻訳をもサポートしていません。“The National Cancer Institute (NCI) does not endorse this translation and no endorsement by NCI should be inferred.”】
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