経口投与可能な免疫調節薬メジグドミドが特定の骨髄腫に奏効

ダナファーバーがん研究所

骨髄腫細胞を内側から破壊し同時に免疫系の攻撃にもさらす新薬が、再発し現在利用可能なすべての治療法に反応しなくなった多発性骨髄腫患者において、デキサメタゾンとの併用で顕著な効果を示したことが、ダナファーバーがん研究所や世界中の研究所で実施した臨床試験で明らかになった。本試験の結果は、8月31日、New England Journal of Medicine 誌のオンライン版に付随論説とともに掲載された。

新薬メジグドミド(mezigdomide)は1日1回自宅で服用できる錠剤であるため、患者ごとにオーダーメイドする必要があり、静脈内投与で、場合によっては長期入院を必要とする他の多くの免疫療法薬とは異なり、奏効が特に有望であると研究者らは指摘した。また研究者らは、過去3年間に米国食品医薬品局(FDA)の承認を得た2つのCAR-T細胞療法、二重特異性モノクローナル抗体、抗体薬物複合体Belantamab Mafodontin(ベランタマブ・マフォドンチン)を含む抗B細胞成熟抗原(BCMA)標的療法を受けたことがある患者の半数で、メジグドミドが奏効を示したことにも勇気づけられた。

第1/2相試験では、多発性骨髄腫の標準治療(3つのクラスの薬剤の併用療法)を受けたことがあり、かつ BCMAを標的としたCAR-T細胞療法を受けたことがある患者を一部含む178人が登録された。参加者は、メジグドミド1mgを3週間毎日服用し、その間デキサメタゾン40mg(高齢患者は20mg)を7日ごとに服用した。追跡期間中央値6カ月の時点で、40%以上の参加者が治療に対して客観的奏効、すなわち腫瘍量の50%以上低下を達成していた。3例は持続的完全奏効(最も感度の高い検査でも疾患が検出されないことを意味する)を示した。

「我々の知見は、メジグドミドとデキサメタゾ ンの併用が、非常に治療困難な骨髄腫患者において重要な臨床活性を有することを示しています」と北米およびヨーロッパの共同研究者とともに本試験を主導したダナファーバーの Paul Richardson 医師は語った。「BCMA 標的療法を受けたことのある患者さんや、病変が骨髄外に拡がり、アグレッシブに髄外病変を形成するような、特に予後不良な骨髄腫患者さんに奏効が認められたことは、特に注目に値します」

メジグドミドは、遺伝子のオン/オフを切り替える転写因子であるIkarosおよびAiolosというタンパクの活性を完全に分解するように設計された。IkarosおよびAiolosに大きく依存する骨髄腫細胞では、その損失は致命的な打撃となる。対照的に、単核球と呼ばれる血液細胞では、これらのタンパク質が失われると、免疫系で最も巧みにがんと闘うT細胞の特定グループが活性化される。

この強力な二重作用により、メジグドミドは、同様ではあるが異なるメカニズムで作用する免疫調節薬(IMiD)として知られる類似の薬剤よりも骨髄腫に対して強力であることが前臨床研究で示されている。

本試験の参加者は、骨髄腫患者集団の幅広い層を代表していた。 年齢は42歳から85歳で、そのうちの最高齢者はCAR-T細胞療法などの強力な免疫療法に不適格とされた。全員が少なくとも3つ以上の治療を受けており、再発し現在承認されている薬剤に耐性を示す3クラス抵抗性と考えられていた。 そのため、参加者のほとんどは予後不良の細胞遺伝学的特徴やその他の予後不良の特徴を有する高リスクの疾患を有しており、標準的な治療法では通常は十分な効果が認められない。

追跡調査期間中央値 6.25 カ月の時点で、奏効率(治療効果があった患者の割合)は 40.6%であった。骨髄腫細胞が骨髄外の他の組織や臓器に腫瘍を形成する髄外病変を有する患者の奏効率は 30%であった。また、抗BCMA療法を受けその後進行した患者では、奏効率は 「驚くべき 」50%であったとRichardson医師は述べた。

治療を受けた全患者の無増悪生存期間中央値(病勢が悪化するまでの期間の中央値を示す)は4カ月強であったが、これは初期のデータを反映したものであり、おそらく時間の経過とともに増加するだろうとRichardson医師は指摘した。重要なことは、効果持続期間中央値がほぼ8カ月と長かったことである。非常に良好な部分奏効を示した患者においては、奏効は平均9カ月以上持続したが、この数字も時間の経過とともに改善する可能性がある。

本試験に参加した患者から採取した骨髄および末梢血サンプルを用いて行われた関連の臨床試験により、ポマリドミドに抵抗性を示した骨髄腫患者や、免疫系への作用はそれほど顕著ではないが同様の作用を示す骨髄腫治療のもう一つの主要薬剤であるレナリドミド(販売名:レブラミド)に抵抗性を示した骨髄腫患者において、メジグドミドが高い活性を示すことが明らかとなった。これにより、T細胞活性とナチュラルキラー細胞を強力に増強するメジグドミドが、前臨床試験で示唆されたように、これらの先行薬剤に対する抵抗性を決定的に克服できることが臨床的に証明された。

重要なことは、メジグドミドとデキサメタゾンの併用による副作用は一般的に管理可能であったことである。特に多くみられた合併症は好中球減少症であったが、成長因子の投与と必要に応じてメジグドミドを減量することで容易に回復可能であった。治療による副作用のために試験から脱落した患者はほとんどいなかった。


「我々は、この一連のデータが、差し迫った医療ニーズが満たされていない患者に対するこの治療法の価値を実質的に示す証拠となることを期待しています。また、この経口薬が、他の根幹となる治療薬との併用で試験され、予備的な結果がすでに有望であり、現在進行中の大規模な第3相臨床試験の一部として評価されていることをさらに支持します」とRichardson氏は述べた。

  • 監訳 吉原哲(血液内科・細胞治療/兵庫医科大学)
  • 翻訳担当者 青山真佐枝
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  • 原文掲載日 2023/08/30

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