ザヌブルチニブ承認で白血病(CLL)に対する標的治療が向上
慢性リンパ性白血病(CLL)または小リンパ球性リンパ腫(SLL)の患者に対して、薬剤ザヌブルチニブ(販売名:ブルキンサ)が食品医薬品局(FDA)により最近承認されたことによって、一般的なCLL治療よりも副作用が少なく、より有効な治療が選択肢に加わった。
1月19日に発表されたこの承認は、ザヌブルチニブの2つの大規模臨床試験に基づいている。
SEQUOIAという最初の試験では、初回治療(一次治療)としてザヌブルチニブを投与されたCLL患者は、リツキシマブ(リツキサン)と化学療法薬ベンダムスチンを併用した同試験の患者と比較して、がんが悪化することなく生存する期間が長かった。
ALPINEと呼ばれる2番目の試験では、ザヌブルチニブを、同じ種類の薬剤であり一般的に使われているがいくつかの困難な副作用があることが知られているイブルチニブ(イムブルビカ)と比較した。両剤ともにCLL細胞の増殖と生存を促進するBTKと呼ばれるタンパク質を阻害する。
ALPINE試験では、二次治療、すなわちCLLに対して少なくとも1コースの治療後にがんが再発した患者に対する治療として、2種類の薬剤を検討した。
治療開始後2年時点で、ザヌブルチニブを投与された患者の78%以上が、がんの増殖がなく生存していたのに対し、イブルチニブを投与された患者では66%であった。ザヌブルチニブは一般的に予後不良を示す遺伝子変異を有するがん患者において特に有効であった。
また、ザヌブルチニブはイブルチニブと比べてCLLの再発抑制に優れていただけでなく、副作用が少なかった。
ザヌブルチニブの製造元であるBeiGene社が資金提供したALPINE試験の結果は、New England Journal of Medicine誌に掲載され、2022年12月13日の米国血液学会(ASH)年次総会で発表された。
ザヌブルチニブは、マントル細胞リンパ腫など他のいくつかのがんの治療薬としても承認されている。
約10年前にCLLに対して初めて承認されたイブルチニブは、本疾患の患者にとって「ブレークスルー(飛躍的進歩)」であったと、米国国立心肺血液研究所リンパ系悪性腫瘍研究室上級研究員Adrian Wiestner医師(いずれの試験にも関与していない)は述べた。
ザヌブルチニブのようなCLL新薬の出現によって、「良いものがさらに良くなっている」とWiestner医師は続けた。
より優れたBTK阻害薬?
慢性リンパ性白血病(CLL)は、血液と骨髄の緩徐に増殖するがんで、主にリンパ節にみられる場合は小リンパ球性リンパ腫(SLL)とも呼ばれ、米国では成人における白血病として最も頻度の高い疾患のひとつである。
BTKは、正常な白血球の一部のみならず、CLLにみられるがん化した白血球の増殖と生存を支える重要な役割を担っている。イブルチニブ、ザヌブルチニブ、同じくCLLの治療にも使用されているもう1つの薬剤であるアカラブルチニブ(Calquence)は、BTK活性を阻害することで作用する。
これらの阻害薬は、がん細胞内の活発な情報伝達の流れを遮断するとWiestner医師は説明した。BTK阻害薬は、できるだけ長くBTKタンパク質の活性を遮断することを目的として、通常、無期限に服用するように処方されると付け加えた。
ザヌブルチニブは、アカラブルチニブと同様、新しいタイプのBTK阻害薬で、特にイブルチニブの欠点に対応するように設計されている。たとえば、ザヌブルチニブはBTKタンパク質とより正確に結合し、より多くのBTKタンパク質とより長期にわたり結合し、治療中に体内で高濃度に維持される、と研究著者らは述べた。
ザヌブルチニブは、体内で持続的に濃度が維持されるところがイブルチニブやアカラブルチニブと異なる。ダナファーバーがん研究所CLLセンター長でALPINE試験責任者の Jennifer R. Brown医師は、12月のASH学会の教育セッションで、「がん細胞によりBTKタンパク質がさらに生成される間、ザヌブルチニブはまだ残存しており、それを再び阻害することができる」と述べた。
ALPINE試験では、再発または難治性のCLLもしくはSLLの成人652人をザヌブルチニブ群またはイブルチニブ群(両剤ともに錠剤で投与)に無作為に割り付けた。全参加者がCLLに対してBTK阻害薬以外による1種類以上の治療歴があった。
少なくとも何らかのがん退縮が認められたのは、イブルチニブ群で76%であったのに対し、ザヌブルチニブ群では約86%であった。
イブルチニブを投与された患者が、がんが悪化することなく生存した期間(無増悪生存期間)の中央値は3年弱であった。ザヌブルチニブ群では、がんが悪化した人が少なかったため、無増悪生存期間の中央値を決定できなかった。
予想に反して、ザヌブルチニブは治療をより困難にする特異的な遺伝子変化であるTP53遺伝子の変異または17p欠失と呼ばれる染色体変異のいずれかを有するがん患者に特に有効であった。
ザヌブルチニブの投与開始後2年時点で、がんが悪化することなく生存していたのは、これらの変異の一方または両方を有する患者の78%であったのに対し、イブルチニブ投与患者では56%であった。
これらの高リスク患者でのザヌブルチニブによる無増悪生存期間の差は、「本当に驚くべきものです」とBrown医師はASH学会で述べた。
副作用は少ないが、リスクは残る
CLLに対するBTK阻害薬は無期限に投与されるため、副作用が大きく懸念される。これまでの報告では、イブルチニブ投与患者の約4分の1が副作用のために治療を中止している。
ALPINE試験で投与開始から中央値で約2年後に副作用のため治療を中止した患者は、ザヌブルチニブ群で15%であったのに対し、イブルチニブ群では22%であった。
特に多くみられた副作用はイブルチニブ群とザヌブルチニブ群で同様で、白血球減少症、上気道感染、貧血、関節硬直などであった。
重度高血圧の発現率は2つの投与群で同程度であったが、その他の心臓関連の副作用は、ザヌブルチニブ投与群の方が少なかった。不規則な心拍を特徴とする心房細動は、ザヌブルチニブ群の方がイブルチニブ群より少なかった。
ザヌブルチニブ群では心臓関連の問題で死亡した患者はいなかったが、イブルチニブ群では6人に致死的な心イベントが生じた。
CLL患者に対する治療アプローチの最適化
CLLに対してイブルチニブよりザヌブルチニブを優先することは、本疾患の治療に関するNational Comprehensive Cancer Networkのガイドラインに既に反映されているとWiestner医師は述べた。彼はイブルチニブの製造元のひとつであるAbbVie社から資金提供を受けている。
イブルチニブを服用しているが、副作用のために中止予定の患者については、「ザヌブルチニブに切り替えることで大きな利益を得られる可能性があります」と Brown 医師は述べた。これは実施中の試験で得られた結果からも支持されている。
ザヌブルチニブは、CLLの一次治療として推奨される複数の選択肢の1つである。したがって、研究者が取り組むべき大きな問題は、標的治療薬のベネトクラクス(ベネクレクスタ)など、CLLに利用可能な他の治療法との最適な併用方法であるとWiestner医師は述べた。
特に関心が高い分野は、「BTK阻害薬と他のクラスの薬剤の併用療法を用いるなどの方法で治療を1〜2年に凝縮し、(継続)治療を必要としない持続的な深い寛解を達成する」治療戦略の開発であると同氏は続けた。
- 監訳 吉原 哲(血液内科・細胞治療/兵庫医科大学)
- 翻訳担当者 吉田加奈子
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- 原文掲載日 2023/01/27
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