MDA研究ハイライト:欧州血液学会(EHA22)発表【1】白血病

本特集では、欧州血液学会(EHA)2022年大会におけるテキサス大学MDアンダーソンがんセンターの研究者による口頭発表の予定についてご紹介する。

1)ポナチニブとブリナツモマブの併用はフィラデルフィア染色体陽性急性リンパ性白血病(ALL)患者に高い奏効率を示す(アブストラクト番号:S114

チロシンキナーゼ阻害剤ポナチニブ(販売名:アイクルシグ)および白血病細胞のCD19を標的とするモノクローナル抗体ブリナツモマブ(販売名:ビーリンサイト)は、フィラデルフィア染色体陽性(Ph+)急性リンパ性白血病(ALL)の患者に対して単剤で高い有効性を示す。両剤の併用療法は、化学療法幹細胞移植(SCT)に代わる、リスクや副作用のない治療法として期待されている。Nicholas Short医師が発表した第2相試験では、初発(ND)または再発・難治性(R/R)のフィラデルフィア染色体陽性急性リンパ性白血病患者およびリンパ芽球期の慢性骨髄性白血病(CML-LBP)患者55人を対象に、化学療法を行わないポナチニブとブリナツモマブの併用療法の安全性と有効性が評価された。分子的完全奏効は初発患者の96%、再発・難治性患者の92%、リンパ芽球期慢性骨髄性白血病患者の83%で確認された。初発患者の2年無イベント生存率(EFS)および全生存率(OS)はそれぞれ93%であった。再発は認められず、初回寛解時に幹細胞移植は不要であった。この併用療法は、忍容性が高く、フィラデルフィア染色体陽性急性リンパ性白血病患者に安全で有効であることが示唆された。フィラデルフィア染色体陽性急性リンパ性白血病の初発患者における今回の有望な結果は、この治療法によりこれらの患者において化学療法および幹細胞移植が不要となる可能性を示唆している。Short 医師は6月12日に本結果を発表する。

2)FLT3 変異型急性骨髄性白血病(AML)においてトリプレット併用療法は高い奏効率をもたらす(アブストラクト番号:S127

FLT3-ITD変異型(FLT3+)急性骨髄性白血病(AML)は、通常、既存の治療法に対して抵抗性を示す悪性度の高い疾患であり、治療初期には高い奏効率を示す一方で、奏効期間が短く、生存率が低くなることが知られている。強力な選択的FLT3阻害剤であるキザルチニブ(QUIZ、販売名:ヴァンフリタ)は、急性骨髄性白血病細胞株および実験モデルにおいてベネトクラクス(VEN、販売名:ベネクレクスタ)と相乗的に作用する。Musa Yilmaz医師が発表した第1/2相試験では、再発・難治性急性骨髄性白血病患者23人と初発FLT3-ITD変異型急性骨髄性白血病患者5人を対象に、ベネトクラクス、キザルチニブおよびデシタビン(脱メチル化化学療法剤)の3剤併用療法の安全性と有効性が評価された。再発・難治性患者では、完全奏効(CR)率は78%、全生存期間(OS)中央値は7.6カ月、初発患者では、完全奏効(CR)率は100%、全生存期間中央値は14.5カ月であった。RAS/MAPK遺伝子変異を有する患者の奏効率は40%と、変異のない患者(94%)と比較して低く、これらの変異が耐性をもたらす可能性が示唆された。グレード3/4の主な副作用は、肺感染症(42%)および好中球減少性発熱(30%)であった。今回の結果は、FLT3-ITD変異型急性骨髄性白血病患者に対するこの治療法について、さらなる研究が必要であることを示唆している。Yilmaz医師は6月11日にこの結果を発表する予定である。

3)分子標的治療薬 emavusertib が特定の変異を有する骨髄異形成症候群および急性骨髄性白血病(AML)に有望な活性を示す(アブストラクト番号:S129

SF3B1およびU2AF1の変異は、炎症を制御し、がん細胞の成長と生存を促進する活性化IRAK4の過剰発現を促進し、高リスク骨髄異形成症候群(HR-MDS)や急性骨髄性白血病(AML)の患者の予後不良と関連している。emavusertibは、IRAK4、および同じく急性骨髄性白血病で頻繁に変異しているFLT3を阻害する標的治療薬である。Guillermo Garcia-Manero医師が主導した第1/2a相試験では、emavusertibの単独投与(第1相試験)またはアザシチジンもしくはベネトクラクス(販売名:ベネクレクスタ)との併用投与(第2a相試験)の安全性と有効性が検証された。第1相試験で治療を受けた49人の患者において、emavusertibの副作用は管理可能で、グレード4~5の治療関連有害事象は認められなかった。SF3B1変異またはU2AF1変異を有する、急性骨髄性白血病患者5人および高リスク骨髄異形成症候群患者7人において、完全奏効率(CR)はそれぞれ40%および57%であった。FLT3変異型急性骨髄性白血病患者3人のうち、1人は完全奏功を達成し、2人は FLT3変異陰性となった。一方、これらの変異を有さない患者で認められた効果は限られていた。現在進行中の本試験の初期データでは、emavusertibは、忍容性が高く、特に特定の変異を有する患者に対して有望な活性があることが示唆されている。Garcia-Manero医師は6月11日にこの結果を発表する予定である。

日本語記事監修 :佐々木 裕哉(白血病/MDアンダーソンがんセンター)

翻訳担当者 伊藤 彰

原文を見る

原文掲載日 

【免責事項】
当サイトの記事は情報提供を目的として掲載しています。
翻訳内容や治療を特定の人に推奨または保証するものではありません。
ボランティア翻訳ならびに自動翻訳による誤訳により発生した結果について一切責任はとれません。
ご自身の疾患に適用されるかどうかは必ず主治医にご相談ください。

白血病に関連する記事

高リスク慢性リンパ性白血病に3剤併用AVO療法は有望の画像

高リスク慢性リンパ性白血病に3剤併用AVO療法は有望

ダナファーバーがん研究所の研究者らは、特にTP53異常を持つ高リスク慢性リンパ性白血病(CLL)患者に対する治療における有望な進歩を発表した。これは、高リスクCLLにおける期間限定の3...
米国血液学会ASH2024:3剤併用療法は複数の白血病で高い奏効率を示す他の画像

米国血液学会ASH2024:3剤併用療法は複数の白血病で高い奏効率を示す他

3件の臨床試験で測定可能残存病変の陰性化および全奏効率に関する良好な結果が得られた抄録:216、219、1011
テキサス大学MDアンダーソンがんセンターの研究者らが主導した3件...
米FDAが、KMT2A転座を有する再発/難治性の急性白血病にレブメニブを承認の画像

米FDAが、KMT2A転座を有する再発/難治性の急性白血病にレブメニブを承認

有効性は、KMT2A転座を有する再発または難治性(R/R)急性白血病の成人および小児患者104人(生後30日以上)を対象とした非盲検多施設共同試験(SNDX-5613-0700、NCT0406...
米FDAが新たに診断された慢性骨髄性白血病(CML)にアシミニブを迅速承認の画像

米FDAが新たに診断された慢性骨髄性白血病(CML)にアシミニブを迅速承認

2024年10月29日、米国食品医薬品局(FDA)は、慢性期(CP)のフィラデルフィア染色体陽性慢性骨髄性白血病(Ph+ CML)と新たに診断された成人患者を対象に、アシミニブ(販売名...