イボシデニブ+アザシチジン併用は白血病(AML)の新たな選択肢となるか
初回治療として強力化学療法を受けることのできない急性骨髄性白血病(AML)と呼ばれる悪性度の高い血液腫瘍患者の一部にとって新たな選択肢がまもなく加わる可能性がある。
AML患者の約6%から10%はIDH1と呼ばれる遺伝子の変異により病気が誘発される。強力化学療法が受けられないこの種のAML患者を対象とした大規模な国際共同試験で、イボシデニブ(販売名:Tibsovo)という薬剤を化学療法薬剤のアザシチジンと併用すると、アザシチジン単剤と比較して大幅に寛解導入をもたらす効果があった。イボシデニブはIDH1が産生するタンパク質の活性を阻害する。
この臨床試験で両薬剤を投与した結果、患者の全生存期間は中央値で2年となり、アザシチジンとプラセボ投与の約8カ月と比較して改善がみられた。
本試験の結果は4月21日付のNew England Journal of Medicine誌に掲載された。
一般的に、併用療法を受けることで患者の副作用が悪化することはなかった。実際、併用療法を受けた患者は、アザシチジン単剤療法を受けた患者と比較して試験中の生活の質が良好であったと報告されている。本試験は、イボシデニブの製造元であるServier Pharmaceuticals社から資金提供を受けている。
試験結果の解釈が複雑となる要因の1つは、この試験がAML患者に対するアザシチジンとベネトクラックス(販売名:Venclexta)の併用療法の食品医薬品局(FDA)承認と重複したことであると米国国立心・肺・血液研究所の骨髄性悪性腫瘍研究室(laboratory of myeloid malignancies)室長のChristopher Hourigan博士は解説する。この承認により、標準的な化学療法を受けることのできないAML患者に対しアザシチジンとベネトクラックスの併用療法の使用が可能になった。
アザシチジンとベネトクラックスの併用療法は、白血病のIDH1変異の有無にかかわらず投与可能である。
治療の選択肢が増えることは患者にとって常に良いことであるとHourigan博士は語る(同氏は今回の試験に参加していない)。しかし、この新たな試験結果には課題がある。それは「IDH1変異のある患者において(この2つの併用療法を)白血病専門医が比較する際に参考にならない」からであるとHourigan博士は続けた。
FDAは現在、IDH1変異のあるAML患者の初期治療薬としてイボシデニブとアザシチジンの併用療法を承認するため、Servier Pharmaceuticals社の申請を審査中である。
リスクとベネフィットのバランス
可能であれば、新たにAMLと診断された患者は複数の化学療法薬剤からなる強力なレジメンを実施する。これは病気を完全寛解に導くこと、つまり骨髄内の白血病細胞を撲滅することを目指している。しかし、寛解導入療法と呼ばれるこのような薬剤併用療法は体への負担が非常に大きい。
AML患者の多くは高齢者であるとOlatoyosi Odenike医師は述べる。同氏はシカゴ大学(University of Chicago)の白血病プログラム(leukemia program)ディレクターで、今回の研究には参加していない。このような患者や「その他の併存症を多く併発している人たちは導入療法を乗り切る力が高くありません。そのため、このような治療が利益よりも不利益をもたらすという問題が生じます」とOdenike医師は解説する。
75歳以上の極めて健康な人でもAMLは寛解導入療法に反応しないことがあるとOdenike医師は付け加えた。
「白血病細胞には強力化学療法でも効果が得られないと判明している遺伝子変異や染色体異常がいくつかあり、それらは高齢者でより多くみられます」とOdenike医師は語る。「この場合、おそらく体力的に治療に耐えられるかもしれませんが、本当にメリットがあるのでしょうか」。
米国ではアザシチジンとベネトクラックスの併用が承認される前、寛解導入化学療法に適さない人、すなわち体調が良くないため寛解導入化学療法を受けられない、または安全に受けられる年齢を過ぎた人は症状を緩和し生存期間を延長する目的でアザシチジンが単剤で投与されていた。
今回の試験が始まった後の2019年、FDAはIDH1遺伝子に変異がある人に対するイボシデニブの承認を拡大した。本剤は、75歳以上の高齢者または強力化学療法を受けることが困難な他の健康状態にある人に単剤での使用が承認された。
この患者群に対し2つの薬剤を併用することがアザシチジン単剤よりも優れているかどうかを確認するためにこの新たな試験は計画された。
爆弾 対 緩慢燃焼
本試験では、患者146人のうち約半数がアザシチジンとイボシデニブの併用、残りの半数がアザシチジンとプラセボの併用に無作為に割り付けられた。この試験では、参加者は月1回の治療を6サイクル以上受けるよう計画されたが、病気が抑制されている限り治療の継続が可能であった。
主要転帰である無イベント生存期間には、無作為の割り当てから治療による寛解失敗(6カ月で測定)、寛解からの再発、または何らかの原因による死亡までの期間が含まれた。また、全生存期間、治療毒性、生活の質についても追跡調査が行われた。
この試験は2018年の初めに開始され、すでに併用群の患者の死亡数がアザシチジン群と比較してはるかに少なかったため、試験を監視するデータパネルにより中止が提言された2021年半ばに、予定より早く患者の登録を中止した。その時点で参加者は中央値で1年余りの追跡調査を受けていた。
6カ月後の完全寛解は、アザシチジンとプラセボ群で11%であったのに対して、併用群では38%であった。6カ月を超えても、併用群ではさらに寛解に至る人が認められた。
このような遅延性の反応は、白血病の標的薬剤では珍しい話ではないとPrapti Pate医師は解説する。同氏は、テキサス大学サウスウェスタン医療センター(University of Texas Southwestern Medical Center)の非常勤准教授、Servier Pharmaceuticals社の上級医長であり、イボシデニブとアザシチジンの別の試験に参加した。
「私は、(標準的な)化学療法は核爆弾が爆発するようなものだと患者に言っています」とPatel医師は語る。「(骨髄に)入りこむと、良いものも悪いものもすべて浄化されます」。その結果、標準的な化学療法の場合、寛解が急速に起こるのだとPatel医師は解説する。
一方、白血病の標的薬剤は、腫瘍細胞を徹底的に死滅させない傾向があるとPatel医師は付け加えた。
このような薬剤は、代わりに腫瘍細胞の成長を抑制するが、効果が出るまでに時間がかかる。化学療法による白血病の寛解は通常最初の1カ月以内に起こるが、標的薬剤の場合は「3カ月、6カ月、またはさらに長期に及ぶこともあります」とPatel医師は解説する。
全体で、アザシチジンとイボシデニブを投与された患者の約半数が完全寛解を達成したのに対し、アザシチジンとプラセボの投与を受けた患者ではわずか15%にすぎない。完全寛解した人のうち、半数以上は骨髄にIDH1変異の痕跡が見られない。このような変異の消失は、反応が長く続く可能性を示す兆候であるとPatel医師は解説する。
試験期間中、併用療法群で28人(39%)が死亡したのに対し、アザシチジンとプラセボの併用療法群は46人(62%)が死亡した。
併用投与を受けた人たちは、健康関連の生活の質が試験開始時と同等であった、または改善したと報告された。アザシチジンとプラセボを投与された人たちの改善は報告されなかった。
試験参加者ほぼ全員に赤血球や白血球の減少など治療による重篤な副作用が1つ以上認められた。アザシチジンとプラセボを投与された人に感染症がより多くみられた。アザシチジンとイボシデニブを投与された患者に出血と分化症候群(免疫系に起因する一連の危険な合併症)がより多くみられた。
多くの選択肢、多くの疑問
このような結果から、AML患者を治療する多くの腫瘍医は「患者に提供可能なさらなる療法としてこの併用に注目するでしょう」とOdenike医師は語る。IDH1変異のあるがん患者はアザシチジンとベネトクラックス、またはアザシチジンとイボシデニブで治療が可能である。
現在、イボシデニブは単剤での使用が承認されているが、「アザシチジンとベネトクラックスを投与した場合よりも寛解率が低いため、腫瘍医はイボシデニブを単剤で使用しない傾向があります」とOdenike医師は解説する。
しかし、Odenike医師は「今後生じる疑問は、どれ(どの併用)が優れているかです」とHourigan博士の関心事に同調する。「患者であれば知りたいところですが、現時点では十分な情報がありません」と語る。いずれの併用療法も、ランダム化試験においてアザシチジン単剤に対し同等の延命効果を示したが、試験間の直接比較は不可能である。
一部の患者は、どの副作用が一番気になるかで治療を選ぶ可能性もあるとOdenike医師は付け加えた。
特に、現在は臨床試験が他の研究課題に移行しているため、直接比較が実施されない可能性があるとHourigan博士は語る。「すでに3剤併用療法に移行しており、アザシチジン、イボシデニブ、ベネトクラックスの3つを(同時に)検証する臨床試験があります」と語る。
現在問われている別の疑問の中には、寛解導入療法にイボシデニブを追加することにより健康な患者の寛解率が改善されるかどうかがあるとOdenike博士は解説する。Odenike博士らは最近、この方法が安全であることを示す大規模試験への第一歩である小規模試験を完了した。
「白血病にFLT3変異がある人など、AMLはこの方法に対して前例があります」とOdenike博士は語り、「強力化学療法にFLT3阻害剤を追加すると、生存率が改善します」と明らかにした。
このような臨床試験は、AML治療における新たな転換を浮き彫りにしているとPatel医師は解説する。AMLが診断後数時間以内に治療が必要な医療緊急事態である人もいれば、白血病細胞のDNA配列解読に要する約1週間を待つことができる人もいる。この遺伝子情報をもとに、すでに承認されている標的薬剤の使用または標的薬剤の臨床試験参加が可能になる場合がある。
研究者らの希望は、この遺伝子配列決定に要する空白期間をさらに短縮すること、そして患者の腫瘍の遺伝子プロファイルをもとにさまざまな標的治療選択肢と現在の標準治療を比較する試験を開始することであるとHourigan博士は語る。今後も浮上する「どれが最良か」という疑問に答えるためにこのような比較が必要だとHourigan博士は説明する。
新たな標的療法は一部の人には高い効果をもたらす可能性もあるが、高額であり、かなりの経済的負担をもたらす可能性があるとHourigan博士は付け加えた。「そのため、最も効果的な方法で使用できるよう厳密な試験を実施したいと考えています」。
日本語記事監修 :喜安純一(血液内科・血液病理/飯塚病院 血液内科)
翻訳担当者 (ポストエディット)松長愛美
原文掲載日
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