ビタミンA誘導体と三酸化ヒ素の併用で小児白血病(APL)の化学療法を減らせる可能性

【米国国立がん研究所(NCI)プレスリリース】

ビタミンAの代謝物であるオールトランスレチノイン酸と三酸化ヒ素(三酸化二ヒ素)の併用は、標準リスクおよび高リスクの急性前骨髄球性白血病(APL)患児に高い効果を示すことが臨床試験で明らかになった。この試験に参加したほぼすべての患者が2年間再発することなく生存した。標準リスクのAPL患児はいずれも従来の化学療法を必要とせず、高リスクのAPL患児は化学療法薬イダルビシン(Idamycin PFS)をわずか4回投与しただけであった。米国小児腫瘍学グループが実施し、米国国立衛生研究所の一部である米国国立がん研究所が資金を提供した本試験の結果は2021年11月11日にJAMA Oncology誌に掲載された。

「この結果は偉業であり、治療の新たな標準となるでしょう」と今回の多施設共同無作為化第3相試験を助成した米国国立がん研究所のがん治療評価プログラムのMalcolm A. Smith医学博士は語った。「20年前、APL患児は後に心臓病を引き起こす薬剤を含む集中的な化学療法を受けていました。そのような治療と比較して、オールトランスレチノイン酸と三酸化ヒ素は急性および長期の副作用が少ないのです」。

「小児科医として、また腫瘍内科医として、患者が直面している問題や、治癒のためにどのような治療を受けなければならないかについて患者のご家族と本当につらい話をしなければなりませんでした」と臨床試験責任医師であるアラバマ小児病院とアラバマ大学バーミンガム校のMatthew Kutny医師は語る。「そのため、強度や副作用が少なく、同時に生存率が驚くほど高い治療法を提供できることを大変嬉しく思います」と語る。

小児および青年のAPLは急性骨髄性白血病の診断の5%から10%を占める。このような血液および骨髄の腫瘍の症状には多量の出血、あざが出来やすくなること、赤血球数の減少、発熱、疲労がある。以前はAPL患児の治療に心臓にダメージを与える可能性のあるアントラサイクリン系薬剤が使用されていた。

アントラサイクリン系薬剤を含む化学療法薬剤に加え、三酸化ヒ素とオールトランスレチノイン酸による治療を受けたAPL患児は2年間の無イベント生存率が高く、再発のリスクが低いことが米国小児腫瘍学グループによる初期の臨床試験で明らかになった。無イベント生存とは、一次治療後、病状の悪化や再発、死亡がない状態が続く期間のことである。

オールトランスレチノイン酸と三酸化ヒ素の併用は現在、標準リスクの成人APL患者に対し望ましい初期治療である。高リスクの成人APL患者に対し一部の化学療法に加え、維持療法(白血病の再発を防ぐための追加治療)も行われる。

米国小児腫瘍学グループの試験(AAML1331; NCT02339740)で、標準リスクまたは高リスクのAPLと新たに診断された1歳から22歳までの患者154人が少なくとも28日間オールトランスレチノイン酸の経口投与と三酸化ヒ素の静脈内投与による治療を毎日受けた。また、高リスクのAPL患者に治療の初期段階でアントラサイクリン系薬剤であるイダルビシンを4回投与した。高リスクの患者とは白血球数が10,000/μL以上の患者と定義されていて、長きにわたり白血球数が多いと転帰不良と考えられていた。

しかし、この試験における2年間の全生存率は標準リスクAPL患者で99%、高リスク患者で100%であった。また、2年間の無イベント生存率はそれぞれ98%と96%であった。標準リスクのAPL患者1人が治療初期に死亡し、3人(標準リスクのAPL患者1人、高リスクのAPL患者2人)が再発した。

重度の副作用を経験した患者は10%以下であり、その副作用が発生したのは治療の初期段階でのみであった。副作用には血糖値の上昇、肝障害、出血があった。高リスクのAPL患者の中にはイダルビシン治療による口内炎ができた人もいた。APLの重篤な合併症としてAPL分化症候群があり、命に関わる炎症を引き起こす可能性がある。医師は参加者がこのような副作用やその他副作用に対処できるよう支持療法を提案した。

維持療法の必要がなかったため、2年以上から約9カ月に治療期間が短縮されたとKutny医師は指摘している。オールトランスレチノイン酸と三酸化ヒ素による治療の長期的な効果については、さらに経過観察が必要であるとKutny医師は語る。

「ヒ素と言えば毒物を連想するが、強力な薬剤にもなります」とKutny医師は指摘する。「三酸化ヒ素は何千年も前から中国の伝統的な医学で使用されてきました。実際、薬剤と毒物の違いはその用量です。私たちは、他の健康な組織を傷つけることなく、この種の白血病細胞を死滅させるのに効果的な正確な投与量を長い時間をかけてみつけ出しました」。

三酸化ヒ素は、オールトランスレチノイン酸と協調して白血病細胞が生存や増殖するために必要なタンパク質の働きを阻害する。子どもが服用しやすいよう三酸化ヒ素を経口投与する方法を米国小児腫瘍学グループが現在研究しているとKutny医師は語る。

カリフォルニア州モンロビアにあるセントボードリック財団は、小児がんの研究助成金の大口出資者であり、AAML1331試験の実施にあたり米国小児腫瘍学グループのメンバーサイトにも支援している。

翻訳担当者 松長愛美

監修 佐々木裕哉(白血病/MDアンダーソンがんセンター)

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