治療抵抗性白血病に対するミドスタウリン分子標的療法の改善へ
なぜ急性骨髄性白血病(AML)の一種を対象とする臨床試験の被験薬は効かないことが多いのか、そして、どうすればその有効性を回復できるのかが、ジョンズホプキンス大学キンメルがんセンターの研究者が実施した新たな研究によって明らかになった。
この前臨床試験はBlood Cancer Discovery誌に9月に掲載されており、AMLに対する分子標的療法の開発に伴う薬理学的障壁を乗りこえられるかもしれない。
AML患者の約3分の1にFLT3遺伝子の変異が認められる。正常なFLT3遺伝子は、骨髄幹細胞に成長シグナルと増殖シグナルを送る酵素を生成する。FLT3遺伝子が変異すると白血病細胞が急成長するため、治療後の再発率が上昇し、生存率も低下することが多い。
FLT3変異陽性AMLはeファミリーチロシンキナーゼ阻害薬(TKI)という種類の薬剤に特に感受性が高いため、TKIが新薬開発の第一候補になっている、と筆頭著者のDavid Young医学博士は述べている。本研究を実施したのはジョンズホプキンス大学キンメルがんセンターに在任中のことであり、現在は米国国立衛生研究所(NIH)傘下の国立心肺血液研究所(NHLBI)に所属している。
しかし、上記のTKIや他の薬剤は効かないことが多く、AMLが再発してしまう。ヒト白血病細胞株とマウスを使用した一連の実験によってキンメルがんセンターの研究チームは、ヒトα1-酸性糖タンパク質(AGP)の結合によって薬剤が標的のFLT3変異に到達せず、白血病細胞を死滅できないことを明らかにした。
ジョンズホプキンス大学キンメルがんセンターの小児腫瘍科長とKyle Haydock腫瘍学教授職を兼任するDonald Small医学博士らは、健康なドナーから採取したヒトの血漿または標準的な実験室条件下で培養したFLT3変異陽性細胞株に、レスタウルチニブ、TTT-3002、または米国食品医薬品局(FDA)に承認済みのFLT3を標的とする薬剤ミドスタウリン(ライダプト)をさまざまな濃度で投与した。血漿は血液の透明な部分で、タンパク質やその他の非細胞成分からなる。実験の結果、ヒト血漿を加えるとTKIによるFLT3の阻害が抑制されることが明らかになった。ヒト以外の血中成分ではこのような抑制は認められなかった。さらなる検証の結果、ヒトAGPがこの3つの薬剤に結合して白血病細胞の死滅を阻害することを特定した。
この結果の臨床的関連性を明らかにするために、新規にAMLと診断された成人から血液サンプルを採取し、血漿によるミドスタウリンへの影響を調査した。新規に診断された白血病患者のように重度の炎症が生じている場合、AGP濃度が上昇する。予想通り、これらの症例のヒト血漿アッセイで薬効が失われた。
「ミドスタウリンは非常に特異性と効力が高いです。2017年にFDAが成人のAML患者への使用を承認して以来、転帰が約10%改善しています。とはいえ、AGPと結合してしまうため、『ホームラン』には程遠いです」とYoung医学博士は述べている。
研究チームによる別の実験では、同様にAGPに結合する薬剤を追加することで血漿タンパク質による阻害から薬効が回復する可能性が明らかになった。ミフェプリストン(販売名:ミフェプレックス)はAGPと結合することがわかっており、その親和性は本研究で使用された3つの薬剤と同等かそれ以上である。ヒト血漿タンパク質、ミドスタウリン、ミフェプリストンによるFLT3アッセイを行ったところ、ミフェプリストンがAGPと結合したミドスタウリンと入れ替わり、抗FLT3活性が回復した。マウスでも同様に検証したところ、同様の結果が得られた。
「本研究の目的は、ミドスタウリンを十分に遊離させて本来の効力を発揮できるようにすることでした。ヒトAGPにミドスタウリンとミフェプリストンを加えると、白血病細胞が死滅します。ミフェプリストンがおとりのように作用し、ミドスタウリンがこの糖タンパク質と結合するのを防いでくれるのです」とYoung医学博士は説明する。
研究チームによるとさらなる検証と妥当性の確認が必要ではあるが、ミフェプリストンや同様にAGPに結合する特性のある薬剤に期待されているのは、TKI療法と併用できるかを将来的に臨床試験で検証することや、血漿タンパク質に対する「おとり」として発展させて分子標的療法の効果を高めることである。ジョンズホプキンス大学が所有するドラッグライブラリは、FDAに承認された約3,000種類の薬剤や化合物のリストで、ジョンズホプキンス大学キンメルがんセンターで実施されているがん化学・構造生物学プログラムの共同責任者で本研究の共著者であるJun Liu博士によって管理されている。このリストをスクリーニングすることで、ミフェプリストンのように抗FLT3活性の回復作用が見込める薬剤や、異なる作用機序でTKI療法との相乗作用が見込める薬剤など、有望な候補を多く発見してきた。
「なんらかの方法で人体の薬理に影響を与えれば、既存の薬剤に新たな命を吹き込めるかもしれません」とYoung医学博士は言う。
Young医学博士とSmall医学博士以外の他の共同研究者は以下のとおりである。Bao Nguyen, Li Li, Tomayasu Higashimoto, Mark Levis and Jun Liu.
本研究は、NIHの助成金R01CA090668およびP30CA006973、Alex’s Lemonade Stand Foundation for Childhood Cancer、Giant Food Pediatric Cancer Fund、NIHのFellowship for Pediatric Oncology grant (T32CA060441)、Optimist Foundation Fellowship、Kyle Haydock Professorship in Oncologyの支援を受けた。
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