FDAが慢性移植片対宿主病にBelumosudilを承認

慢性の移植片対宿主病(GVHD)は骨髄および幹細胞移植に多い合併症であるが、このたび新たな治療法が加わった。7月16日、米国食品医薬品局(FDA)は、すでに他の治療法を2種類以上試したことがある12歳以上の人を対象に、belumosudil[ ベルモスジル](販売名:Rezurock)を承認した。

今回の承認は骨髄または幹細胞移植による治療後、がんの寛解期にある慢性GVHD患者65人を対象とした第2相臨床試験の結果に一部基づいている。上記患者の4分の3がベルモスジルに反応し、GVHDの症状が改善した。

慢性GVHDの標準治療は、プレドニゾンなどのステロイド剤の高用量投与であり、約半数の患者に効果があるが副作用が多いため長期使用には限界がある。また他に30種類以上の治療法があるものの、慢性GVHDに対してFDAが承認しているのは1種類のみで、患者にどの治療法が最も効果的であるかを知る方法はない。

「これまでほとんどの移植治療において、私たちは他の目的で開発された薬剤を(慢性GVHD患者に)投与し、効果があるかどうかみていました」と、本試験責任医師のStephanie Lee医師(公衆衛生学修士、フレッド・ハッチンソンがん研究センター)は述べる。

同じく試験責任医師のSteven Pavletic医師(NCIがん研究センターの免疫不全細胞治療プログラム)は、「慢性GVHDの治療薬として、動物実験から臨床応用まで開発が進んだのは史上初めてのことです」と述べている。

慢性移植片対宿主病

GVHDは、移植された免疫細胞(移植片)がレシピエントの体(宿主)を攻撃することによって生じる。この疾患は、ほぼすべての臓器に影響を及ぼし、痛みや衰弱を伴う数多くの症状を引き起こすことがある。

GVHDは、骨髄および幹細胞移植が標準治療の一つである血液腫瘍患者にとって不安材料の一つである。

「幹細胞移植技術の安全性が高まり、患者がより長く生きられるようになったため、この遅発作用が大きな問題となりました」とPavletic医師は説明する。「これらの患者は、がんを治癒すると今度は頭からつま先まで冒される新たな自己免疫疾患に苦しんでいるのです」。

この疾患は、急速に発症する場合(急性GVHD)とゆっくりと発症する場合(慢性GVHD)がある。慢性GVHDは通常、移植後12カ月以内に発症し、治るとしても3~5年かかる。米国では毎年約5,000人が慢性GVHDを発症している。

慢性GVHDの一般的な症状としては、皮膚の肥厚や発疹、口の渇きや口内炎、ドライアイ、関節のこわばり、肺疾患、繰り返す感染症などがある。場合によっては、重度の慢性GVHDにより死に至ることもある。

ベルモスジルの臨床試験

FDA承認につながった臨床試験では、試験参加者65人がベルモスジルを錠剤で1日1回服用した。この薬は免疫細胞の活性を抑制し、GVHDのもう一つの特徴である瘢痕組織の形成を防ぐことで作用する。本研究はベルモスジルを製造するKadmon Pharmaceuticals社の支援を受けて行われた。

試験開始時点で46人(71%)の参加者が重度の慢性GVHDを患っていた。大半の参加者は、この疾患に対して3種類以上の治療を試験前に受けていた。

研究チームは、2014年にPavletic医師らが策定したガイドラインを用いて、各患者の症状を長期的に評価した。症状は慢性GVHDの影響を最も受けやすい8つの臓器、すなわち、目、口、皮膚、関節、肝臓、消化管、肺、結合組織(筋膜)について評価した。

参加者4人(6%)において、ベルモスジルにより8つの臓器すべての疾患症状が完全に消失した。別の45人(69%)では、治療により症状が部分的に改善した。つまり、少なくとも1つの臓器で有意な改善がみられ、他の臓器では症状が悪化しなかった。

これらの症状改善は中央値で50週間持続し、ベルモスジルに反応した参加者のうち、追加治療を必要としたのは半数以下であった。さらに参加者の20%は慢性GVHDに対するステロイド服用を中止し、65%はステロイドの用量を減らすことができた。

全体的には、肺や皮膚など治療が困難な臓器を含む、評価したすべての臓器で改善がみられた。この疾患は一部の臓器に不可逆的な変化をもたらすため、それらの臓器の症状を解消するのは難しいことであると、7月15日付Blood誌に掲載された研究報告に記載されている。

Lee医師らが行ったベルモスジルの先行試験では、試験参加者の半数でQOL(生活の質)が改善したことも判明している。「このような慢性疾患では、QOLは大問題です。慢性GVHDの患者は、日々そのことで苦しんでいます」とLee医師は述べる。

ベルモスジルのもう一つの利点は、他のほとんどの薬と併用しても安全と思われることだとLee医師は言う。「慢性GVHDの治療では患者が多種類の薬を服用しており、それらの薬の相互作用のせいで他の薬が使えないことがあるので、この点は助かります」とLee博士は言う。

ベルモスジルの2つの臨床試験で最も多くみられた副作用は、感染症、活力低下、吐き気、下痢であった。一部の患者は、副作用のために治療を一時的(29%)または恒久的(18%)に中止した。また、1人が臓器不全および感染症により死亡したが、治療との関連性は不明であった。

GVHDガイドラインの効果

約20年前、「骨髄移植の研究者らは、この疾患に対して何か手を打つべきだと理解していましたが、どのように研究するかについてのツールやルールはありませんでした」とPavletic医師は言う。

そこで2003年、NIHは学際的チームを結成し、慢性GVHDに焦点を当てた包括的研究プログラムを開発した。Pavletic医師をリーダーとして世界中の研究者が協働するこのチームは、前臨床試験や臨床試験での慢性GVHDの診断、ステージ分け、研究に用いるガイドラインとツールを作成した。

患者ごとに慢性GVHDの症状を数値化することにより、その症状が改善しているのか悪化しているのかが初めてわかるようになったとLee医師は言う。「これで基礎が築かれました。新しい薬が出てきたら、それを試験する枠組みとインフラが整ったのです。こうした取り組みの結果、今回のFDA承認までたどり着きました」。

ベルモスジルの承認は大きな前進であるが、試験では大半の患者が部分的な改善しか得られなかったため、さらなる研究が必要だとPavletic医師は述べる。「より良い薬を開発したり、薬を組み合わせたり、より早い段階で投与したりできるように、われわれは一層努力しなければならないということです」。

慢性GVHDに対する新しい治療法が加わったことで、選択肢が非常に多くなり、患者管理がより複雑になったとLee医師は言う。30種類以上ある治療法のうち、どの治療法が患者に最適なのかを判断するのは医師にとって難しいのが現状である。

「各患者に最適の治療法をみつけ出す取り組みは、より複雑になっています。これはうれしい悩みですが、私たちはさらに理解を深める必要があります」とLee医師は述べる。

慢性GVHDの予防と早期治療

Pavletic医師とLee医師は、慢性GVHDの治療法の研究に加えて、同疾患の発症や重症化を予防する方法も模索している。Pavletic医師のグループは、どのような患者が慢性GVHD発症に至るのかを予測する方法を開発しており、予測ができれば、該当する患者は同疾患の予防に役立つ薬を服用することもできるようになる。こうした予防薬は重篤な副作用のリスクを伴うため、本当に必要な患者に限って投与できれば助かると、Pavletic医師は説明する。

一方、Lee医師のグループは、GVHDが悪化する前に患者が治療を受けられるように同疾患の初期徴候をみつけ出そうと研究を行っている。毒性がなく患者が服用しやすい効果的な薬があれば、「永続的な障害や臓器の損傷を未然に防ぐことができます」と彼女は言う。

翻訳担当者 山田登志子

監修 野﨑健司(血液・腫瘍内科/大阪大学大学院医学系研究科 )

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