幹細胞移植後の消耗性合併症に抗ウイルスT細胞療法が安全かつ有効
がん患者のBKウイルス関連出血性膀胱炎に対して細胞療法が既製の治療法となる可能性
健康なドナーから採取したBKウイルス(BKV)特異的T細胞が、BKウイルス関連出血性膀胱炎(BKV-HC)に対する既製の治療(off-the-shelf therapy)として安全かつ有効であることが、テキサス大学MDアンダーソンがんセンターの研究者らが主導した第2相試験により明らかになった。BKウイルス関連出血性膀胱炎は、白血病やリンパ腫の患者への同種幹細胞移植後によくみられる苦痛を伴う合併症である。この研究成果は、2021年4月30日にJournal of Clinical Oncology誌に掲載された。
BKウイルスを標的としたT細胞の注入後に迅速な効果が認められ、14日後には67.7%の患者で完全または部分的な症状改善がみられた。注入後28日目には、効果がみられた患者は81.6%に増加した。グレード3またはグレード4の移植片対宿主病(GVHD)や他の注入に伴う毒性は発現しなかった。
BKウイルスによる消耗性合併症への対応
「BKウイルス関連出血性膀胱炎の症状は苦痛が非常に大きく、患者の状態は著しく悪化し、長期的にはがんの転帰を悪化させる可能性があります。残念ながら、有効な治療法はありません」と、責任著者である幹細胞移植・細胞治療学教授のKaty Rezvani医学博士は述べる。「私たちには、BKウイルス関連出血性膀胱炎のより良い治療法を開発して提供する使命があり、今回の結果を受けてこの治療法がMDアンダーソンの患者に安全かつ有効であったことが明らかになりました」。
BKウイルスはヒトポリオーマウイルスであり、ほとんどの人は幼少期に感染するとRezvani博士は言う。BKウイルスは通常、免疫系によって抑制され、腎臓、膀胱、尿管などの尿路を覆う表層細胞内に潜伏して不活性状態に保たれている。
適合ドナーから幹細胞の提供を受ける同種幹細胞移植では、免疫系を抑制して拒絶反応を防ぐための治療が必要となる。しかし、これが原因でBKウイルスが再活性化し、重度の膀胱炎を引き起こし、数日から数週間の入院を余儀なくされることもある。治療にはcidofovir(シドフォビル:日本では未承認)という抗ウイルス剤が使われているが、重大な毒性がある。
抗ウイルスT細胞療法の開発
これらのウイルス感染が患者の回復に大きな影響を与えることがわかり、Rezvani博士の研究チームは、MDアンダーソンのMoon Shots Program®の一環であるMDS and AML Moon Shot®の支援を受け、抗ウイルスT細胞療法の開発を主導した。Moon Shots Program®は、科学的発見を迅速に発展させて患者の命を救う重要な臨床的進歩につなげるための共同研究である。
研究チームは、健康なドナーから採取した血液サンプルからBKウイルス表面上のさまざまな抗原を特異的に認識して標的とするT細胞を分離して増殖させることに成功した。これらの細胞を、幹細胞移植・細胞療法の教授であるElizabeth J. Shpall医師の指導のもと、臨床試験用のGMP(医薬品の製造管理および品質管理の基準)に準拠した実験室で培養した。1人のドナーから、20~50回分の抗ウイルスT細胞を製造し、必要とされるまで保存しているとRezvani博士は述べる。
New England Journal of Medicine誌に掲載された以前の試験では、BKウイルス特異的T細胞が、BKウイルスと遺伝的に類似したポリオーマウイルスであるJCウイルス感染症治療に有効であることが示された。JCウイルスは、稀少で死に至ることもある脳感染症である進行性多巣性白質脳症(PML)の原因となるウイルスである。
BKウイルス特異的T細胞の臨床試験で良好な成績
本試験では、MDアンダーソンで同種幹細胞移植後にBKウイルス関連出血性膀胱炎を発症した患者59人が登録された。患者の年齢の中央値は47歳で、血液関連のさまざまな症状の治療中であり、急性骨髄性白血病が最も多かった。参加者のうち、女性は40.7%、男性は59.3%であり、白人が55.9%(33人)、ヒスパニックが18.6%(11人)、アフリカ系アメリカ人が15.3%(9人)、中東系が6.8%(4人)、アジア系が3.4%(2人)であった。
患者に、ヒト白血球抗原(HLA)が部分一致したT細胞を1回注入し、必要に応じて2週間ごとに追加注入した。
注入後、抗ウイルスT細胞が原因と考えられる副作用は認められなかった。注入に伴う毒性、血球数の減少、移植不全などはみられなかった。治療後数週間から数カ月の間に、数名の患者に低グレードの遅発性移植片対宿主病(GVHD)が発症したが、同種幹細胞移植後の早期に予測されるGVHD発症率の範囲内であったとRezvani博士は言う。
部分奏効が得られるまでの期間の中央値は14日、完全奏効までの期間の中央値は21日であった。推定される完全奏効率は、45日目までに70%近くに達し、注入した細胞が持続的に作用していることがわかった。奏効は長く持続し、一度奏効した後に症状が再発した患者はいなかった。
試験参加者を調査した結果、注入されたT細胞の増殖と患者への効果は正の相関関係にあることがわかった。
「この治療法が安全であったこと、大多数の患者さんに迅速な効果がみられたことは大変励みになりました」とRezvani博士は言う。「この治療法は非常に安全性が高いため、症状が現れたらすぐに外来処置ができます。これまでに治療を受けた患者さんの人生を変えることができました」。
将来的には、多施設共同研究でこの知見を検証し、この治療法を必要とする多くの患者に提供することを目指している。
共著者および開示事項の全リストは本論文の全文とともにこちらで閲覧可能である。本研究は、Moon Shots Programに加え、米国国立衛生研究所(R01CA211044-05, CA016672)による支援を受けた。
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