同種移植においてクローン性造血が有益であるとの驚くべき研究結果

近年確認されたクローン性造血(CH)とは、がんを有しない健常な人の血液中に血液腫瘍に関連する変異が検出される現象であり、高齢者に多くみられる。クローン性造血を有する人は無症状ながら、血液腫瘍や心臓発作、脳卒中などの有害な転帰を来すリスクが高い。

驚くべきことに、クローン性造血が場合によっては健康に利益をもたらす可能性があることが、ダナファーバーがん研究所による研究で初めて明らかになった。有益であった症例は同種幹細胞移植または骨髄移植の患者である。12月5日、オンラインで開催された第62回米国血液学会(ASH)年次総会で、クローン性造血を有する高齢のドナーから移植を受けた患者の方が、クローン性造血を有しないドナーから移植を受けた患者よりも再発リスクが低く、生存期間が長かったことが報告された。

R. Coleman Lindsley医学博士と共に研究を率いたダナファーバーのChristopher Gibson医師は、「移植以外の状況ではクローン性造血は有害な転帰を伴うため、当初はクローン性造血を有するドナーから移植を受けた患者でも同様の転帰を予想していました。ところが、結果は正反対でした。実際には、クローン性造血を有するドナーから移植を受けた患者の大半で、基礎疾患であるがんの再発リスクが減少したために生存期間が延長しました」と述べた。

クローン性造血とは、特有の変異を有する血液細胞の、遺伝子学的に他と異なる分集団(クローン)を指す。若年者では少ないが、70歳超では10~20%に発現すると推定されている。

ダナファーバーの研究者らは、クローン性造血が移植によってドナーからレシピエントへと知らず知らずのうちに渡される可能性があることを以前から示していた。「クローン性造血を検出する唯一の方法は血液の遺伝子配列検査ですが、これは移植ドナー候補者の検査時に必ず行う手順ではありません。私たちは、クローン性造血がドナーからレシピエントへと渡されても、ドナー細胞に新たに白血病が発現するとは限らないことを初めて明らかにしていました。しかし、その研究は、その他の転帰に対する影響を評価するには検出力が不十分でした。それ以来、私たちは追跡調査を行ってきました」とGibson医師は語った。

研究者らは、1,727組のドナー/レシピエントのペアを対象に、40歳以上のドナーが有するクローン性造血がレシピエントの臨床転帰に及ぼす影響を評価した。1,727個のドナー検体中、388検体にクローン性造血が確認された。ドナー検体にみられた変異で最も多かったのは、DNMT3A遺伝子における変異であった。この変異が移植レシピエントの全生存期間の延長と再発リスクの減少に関連していた。検体にみられたその他の遺伝子変異は生存率の向上には関連していなかった。

「ドナーのDNMT3A変異によって再発リスクが減少する理由はまだわかりませんが、この変異によってドナーT細胞の免疫活性が高まることがデータから示唆されています。T細胞は移植の有効性を決定する最も重要な要因の一つです」とGibson医師は話した。この理論は、移植片対宿主病を予防するためにシクロホスファミド(販売名:エンドキサン等)の投与を受けた移植レシピエントには、クローン性造血を有するドナーからの移植の効果がみられなかったことを示した臨床試験のデータに合致する。その理由はおそらく、慢性移植片対宿主病の予防手段としてのシクロホスファミドが、移植片からドナーT細胞を排除するためと考えられた。クローン性造血を有するドナーから移植を受けたその他のすべての患者では、慢性移植片対宿主病のリスクが高まるにもかかわらず、その有害な転帰よりも再発の減少が上回り、生存率が向上した。

「今回の発見は臨床治療に直接影響を与える可能性がある画期的なものです」とGibson医師は語った。たとえば、一部の移植センターでは、移植前検査でクローン性造血が検出されたドナー候補者を除外してきた。Gibson医師によれば、そのような候補者を除外する必要はなく、状況によってはDNMT3A変異を有するドナーの方が、この変異を有しない同様のドナーよりも好ましい場合があることが新たな発見により明らかになった。

Gibson医師は、本研究の結果を12月5日(土)セッション732のアブストラクト80で発表する。

米国血液学会でのダナファーバーの活動について詳しくは、www.dana-farber.org/ashを参照のこと。

翻訳担当者 角坂功

監修 吉原哲(血液内科・細胞治療/兵庫医科大学)

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