急性リンパ性白血病小児患者は頭部放射線治療を受けなくてよい

急性リンパ性白血病(ALL)小児患者は、腫瘍が脳で再発するのを予防するための放射線療法がおそらく不要であることが新たな研究でわかった。同研究によれば、腫瘍再発リスクが最も高い小児であっても放射線治療は受けなくてよい。

10年間に及ぶ臨床試験で、研究対象となった小児598人のうち、中枢神経系(CNS)再発があったのは8人だけであった。その8人のうち6人は追加治療が奏効し、研究の発表時点で生存していた。

「CNS放射線療法は特に年少の子どもでは長期的リスクがあることから、今回の研究は非常に重要です」と、NCI小児腫瘍学部門Nirali Shah医師は述べた。同医師はこの臨床試験には関与していない。

「時代の終わりを迎えています」と、本研究を主導したセントジュード小児研究病院のChing-Hon Pui医師は言う。最新の化学療法レジメンをもってすれば、「どのALL小児患者も予防目的で放射線を受けるべきではありません」。

St. Jude Total Therapy Study 16の結果は、Journal of Clinical Oncology誌で10月28日に公表された。

従来の安全性指標

小児白血病では最も多い急性リンパ性白血病(ALL)と診断された子どもの生存率は、過去数十年で大幅に改善された。1960年代以前は、ALL小児患者と診断されてから5年後に再発が証明されず生存している割合は約10%にすぎなかった。 今日では、その割合は90%を上回っている。

現在進行中の研究では、生存率の一層の向上だけではなく、しばしば生涯にわたる長期的副作用の軽減にも焦点を当てている。

ALL小児患者の一部では、疾患の特性として脳に腫瘍が再発するリスクが高くなる。従来、化学療法の初期段階に当たる寛解療法を完了した後、これらの小児患者は脳の放射線療法も受けていた。しかし、この治療法は重篤な副作用を引き起こす可能性がある。

「(そうした副作用の)一部は生涯に及びます」とPui医師は言う。「頭部放射線治療を受けた子どもは、照射野内、主に脳内で(二次)悪性腫瘍が発生する生涯リスクがあります。彼らは思考、記憶、および他の神経認知機能に関わる生涯にわたる問題、そして認知症のリスクがあります。また、内分泌障害を発症する可能性もあります。放射線療法の結果として、概して10年か15年、命を縮める可能性があります」と説明した。

2000年から2007年にかけて実施された先行の臨床試験 St. Jude Total Therapy Study 15で、Pui医師らは、新たにALLと診断された、再発リスクが高い患者も含むすべての小児患者において、予防的頭部放射線療法を省くことができるかどうかを検証した。

その結果、放射線療法を省いて強化化学療法を行った場合、中枢神経系再発があった小児は4%未満であった。全体として、Study 15に参加した小児患者の90%以上が、治療後5年で再発することなく生存していた。通常であれば中枢神経系再発リスクに基づいて予防的頭部放射線を受けたであろう小児における再発率は、以前の研究で放射線治療を受けた小児で認められた数値よりも低かった。

その研究結果が2009年に公表されてから、別の4つの臨床試験でも、同様の小児において予防的頭部照射を行わずに「優れた成果」を得ているとPui医師は言う。「しかし、一部(の医師)は、すべてのALL小児患者で放射線治療を省くことについて依然として懐疑的でした」。

化学療法の強化

Total Therapy Study 16では、頭部照射の省略に加えて、強化化学療法を追加することを検証した。2007年から2017年の間に、新たにALLと診断された小児598人が試験に登録された。

上記患者のうち414人を、化学療法薬PEG-アスパラギナーゼの2回投与のうち1回を、従来の用量で投与する群と、それより高用量で投与する群の2群に無作為に割り付けた。この薬剤は、腫瘍細胞の生存と増殖に利用されるアミノ酸を枯渇させる。白血病再発のリスクが高い一部の小児患者には、他の化学療法薬も高用量で投与した。

さらに、特に中枢神経系での再発リスクが高い小児359人に対して、治療開始時に脊髄に直接(髄腔内に)投与する別の3種類の薬剤を2回追加投与した。

患者が治療中に白血病を再発する、あるいは治療に反応しなかった場合を除いて、化学療法の投与全期間はわずか2年余りであった。この研究結果の公表時点で、試験参加者の92%が診断後10年で再発が証明されず生存していた。

PEG-アスパラギナーゼの増量で、試験参加小児の転帰は改善しなかった。体内のどこか、特に中枢神経系で再発するリスクは、2つの用量群で同じであった。PEG-アスパラギナーゼおよびその他の従来の化学療法薬の増量によって、治療の安全性も低下した。総じて、治療中に死亡した小児の割合はStudy 15では約1.5%であったのに対して、Study 16では3%であった。

対照的に、髄腔内化学療法の2回追加投与により中枢神経系再発リスクが下がったが、副作用は大して増えなかった。中枢神経系再発リスクが高い小児のうち、中枢神経系再発がみられたのは Study 15で4.0%であったのに対して、Study 16ではわずか1.5%であった。

これらの中枢神経系再発は、CAR T細胞療法を含む二次治療でうまく治療できるとPui医師は説明した。

全体として、Study 15および16で治療を受けたほぼ1,100人の小児患者(一人も放射線治療は受けていない)のうち、中枢神経系再発が原因で死亡したのは、B細胞ALLの患者1人とT細胞ALLの患者1人のみであった、と同医師は説明した。

2つの時代の終わり

新たにALLと診断された小児で中枢神経系放射線療法を省略することの安全性が確認されたことに加えて、Total Therapy Study 16は化学療法の強化という観点でも時代の終わりを示しているとPui医師は説明する。生存率の向上と治療の副作用とのバランスをとるために従来の薬で今以上にできることはなさそうであり、「化学療法の強化は限界に達しています」と述べた。

Shah医師も同意見である。「私たちが認識しなければならないことは、患者の中には白血病の生物学的理由のために、遺伝的に化学療法抵抗性を示す高リスク患者が存在するということです」と言う。「そのため、化学療法の強度をどんどん上げることは正しい戦略にはなりません」。

今後、ALL小児患者を対象とした臨床試験では、分子標的療法と免疫療法の最適な使用方法の習得に重点を置く必要があるとPui医師は述べた。これらの薬剤のいくつかはすでにALL小児患者向けに承認されており、モノクローナル抗体の1種で、2017年に承認されたブリナツモマブ(ビーリンサイト)、CAR T細胞療法第1世代の1種であるチサゲンレクロイセル](キムリア)などがある。

「今、われわれには学ぶべきことがたくさんあります。化学療法でしてきたように(分子標的薬と免疫療法)を(最適に)組み合わせる方法を習得しなければなりません」と、Pui医師は言う。将来、このような治療法を初回治療に追加することによって、過酷であるが現状では必要な化学療法の期間を医師らは短縮できるようになるかもしれないと説明した。

どのような子どもで再発リスクが高くなるかの解明を進め、疾患の早期段階で最新の治療戦略を受けられるようにするための研究も必要であるとShah医師は説明した。医師らが現在、定期的に利用している細胞遺伝学的プロファイリングは、腫瘍細胞の染色体異常を探すもので、高リスク疾患の特定に役立つと言う。

小児は一般に成人よりも強化化学療法への忍容性が高いが、生涯にわたり副作用が出る可能性も依然としてあると付け加えた。そうした副作用には、肝疾患、神経障害(歩行や走行に障害が出る可能性があるもの)、および不妊症などがある。

「私たちはこうした子どもたちが生存し続けるだけでなく、普通の生活を送ることを望んでいます」とPui医師は結んだ。そのため、将来的には「毒性のある化学療法を別の方法に換える必要もあります」。

翻訳担当者 山田登志子

監修 松本 恒(放射線診断/仙台星陵クリニック)

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