白血病の新たな標的治療
MDアンダーソン OncoLog 2018年2月号(Volume 63 / Issue 2)
Oncologとは、米国MDアンダーソンがんセンターが発行する最新の癌研究とケアについてのオンラインおよび紙媒体の月刊情報誌です。最新号URL
急性骨髄性白血病と芽球性形質細胞様樹状細胞腫瘍の新たな治療標的としてのCD123とBCL2
急性骨髄性白血病(AML)および芽球性形質細胞様樹状細胞腫瘍(BPDCN)は、悪性度が高く、多くの場合致死的な血液腫瘍である。AMLの治癒率は約50%であり、一次治療に奏効しないか、再発した患者の予後は不良である。承認された治療法がほとんどない、まれな腫瘍であるBPDCN患者の転帰はさらに不良である。しかし、最近発見された分子標的薬はAML、BPDCN、およびその他の白血病の新たな治療オプションとなり、これらの治療法の臨床試験が進行中である。
「この数年間で、複数の重要で有望な開発が行われています」とテキサス大学MDアンダーソンがんセンター白血病科准教授のNaveen Pemmaraju医師は述べた。「今では、数種類の新規治療標的によって、治療オプションがわずかしかないBPDCN患者や一部のAML患者の標的治療が可能になっています」。
治療標的となるCD123およびBCL2は、正常細胞に比べて、一部の白血病細胞で高頻度に発現するタンパク質である。CD123標的治療は、AMLおよびBPDCN患者での進行中の臨床試験の対象であり、Pemmaraju医師らは、BCL2標的薬をAML患者での臨床試験で使用し、BPDCNの治療オプションとして探索的に検討している。
CD123
CD123は、免疫サイトカインインターロイキン3受容体であり、AMLおよびBPDCN細胞の大部分を含む一部の悪性細胞表面に過剰発現する。MDアンダーソンの臨床試験では、AMLおよびBPDCN患者のCD123に対する標的治療として、組換え型融合蛋白のSL-401、キメラ抗原受容体(CAR)T細胞、抗体薬物複合体のIMGN632を探索的に検討している。
SL-401
MDアンダーソンで実施中の臨床試験では、3つのSL-401の使用法を探索している。ひとつはBPDCNの一次治療として、もうひとつは標準的な化学療法後も残存したり再発したBPDCN患者の救援療法として、そして標準的な化学療法に奏効したAML患者の地固め療法としてである。
SL-401は、BPDCN患者を対象とした臨床試験で使用された最初の抗CD123薬であった(OncoLog 2015年10月号「芽球性形質細胞様樹状細胞腫瘍に希望となる新たな分子標的(CD123)治療」 参照)。
SL-401のパイロット試験では、半数以上のBPDCN患者が、完全奏効を示した。
これらの有望な結果により、現在、SL-401 の第Ⅰ/Ⅱ相試験(No. 2013-0979)では、MDアンダーソンや他の医療機関で、治療歴がないか、再発または治療抵抗性のBPDCN患者を登録中である。
実施中の臨床試験では、患者は21日サイクルの各1~5日目にSL-401の静脈内投与を受け、疾患進行または忍容できない副作用が発現するまで治療を継続する。
Pemmaraju医師と、白血病科教授でありMDアンダーソンの臨床試験責任医師であるMarina Konopleva医学博士らは、2017年12月の米国血液学会年次総会で、同試験の予備的な結果を発表した。評価可能な32名のBPDCN患者のうち、27名(84%)に奏効が認められた。19名が完全奏効を、8名が部分奏効を示した。
「ほぼすべてのBPDCN患者がCD123発現白血病細胞を有しているため、SL-401は、このまれな疾患に対して、希望と方向性を与える特に有効な薬剤です」と Pemmaraju医師は述べた。
また、Konopleva医師は、標準的な化学療法に完全奏効(骨髄中の芽球が5%未満と定義)を示したが、微小残存病変があるか、または他の再発リスク要因があり、造血幹細胞移植の対象ではない、AML患者の地固め療法としてSL-401の臨床試験(No. 2014-0860)を主導している。この第Ⅰ/Ⅱ相試験の目的は、SL-401の最大耐容量を決定し、微小残存病変の変化、無再発および全生存期間を評価することである。Konopleva医師らは、SL-401による治療前後に採取した骨髄検体中のCD123の発現、他の幹細胞、疾患マーカーの変化も検討する。
CAR T細胞
AMLまたはBPDCN患者のもうひとつの臨床試験用薬剤として、UCART123がある。同薬剤は、CD123を標的として遺伝子を組み換えた、必要なときにすぐに使用できる(off-the-shelf)同種CAR T細胞製剤である。現在、UCART123の多施設共同第I相試験(No. 2016-0840)では、BPDCNの初発、再発または治療抵抗性の患者を登録中である。また、追加治療群が再発または治療抵抗性AML患者の登録をまもなく開始する。
第I相試験では、患者は抗がん剤によるリンパ球除去治療を受け、CAR T細胞を阻害する可能性のある既存のT細胞や他のリンパ球を破壊した後、UCART123の単回投与を受ける。同試験の主要評価項目は、新たな治療法の安全性であり、血液腫瘍のCAR T細胞療法について既知であるサイトカイン放出症候群、腫瘍崩壊症候群、移植片対宿主病などの有害事象に特に着目する。
「これは、BPDCN患者を対象として開始したCAR T細胞療法の最初の臨床試験です」とPemmaraju医師は述べた。
IMGN632
IMGN632は、抗CD123抗体とDNAアルキル化剤を結合する。MDアンダーソンでは、本抗体薬物複合体を初めてヒトに投与する試験(No. 2017-0855)で、再発または治療抵抗性のAML、BPDCNおよび他のCD123陽性血液腫瘍患者の登録を最近開始した。同試験では、白血病科教授兼部長のHagop Kantarjian医師が率いる研究者らが、IMGN632の最大耐容量および今後の試験の推奨用量を探索する。また、研究者らは、IMGN632の免疫反応誘導能も検討する。
BCL2
CD123と同様、抗アポトーシス・タンパク質BCL2は、正常細胞に比べて、AML、BPDCNおよび他の白血病細胞で高頻度に発現する。BCL2阻害薬のベネトクラックスは、再発慢性リンパ性白血病の治療薬として米国食品医薬品局(FDA)に承認され、MDアンダーソンなどでの臨床試験でAMLに対する活性が示されている。
実施中の臨床試験では、さまざまな患者集団で、ベネトクラックスとAMLに対する他の治療薬との併用を検討している。「ベネトクラックスは、多種の治療に対する感作物質で、安全性が良好であるため、多くの治療との併用が容易だと思います」とKonopleva医師は述べた。
ある臨床試験(No. 2016-0979)では、18~65歳の、AMLと新規に診断されたか、再発または治療抵抗性の患者がベネトクラックスと標準的な強化化学療法レジメンのフルダラビン、シタラビン、フィルグラスチム、イダルビシン(FLAG-IDA)の投与を受けた。白血病科准教授のCourtney DiNardo医師が主導するこの第Ⅰ相試験では、薬剤併用の安全性および忍容性を検討し、本レジメンの有効性を予備的に評価する。
他の試験では、標準的な強化化学療法を忍容できない60歳以上のAML患者を対象として、ベネトクラックスの併用療法を評価している。これらのうちの1試験(No. 2015-0898)では、ベネトクラックスとMEKキナーゼ経路を阻害するコビメチニブまたは発がん性Mdm2タンパク質の低分子阻害薬idasanutlinとの併用の安全性および有効性を評価している。Konopleva医師と白血病科准教授のNaval Daver医師らは、2017年12月の米国血液学会年次総会で、この非ランダム化試験の用量漸増フェーズの予備的結果を発表した。全体的な奏効率(完全奏効+血小板回復不完全または血液学的回復不完全な完全奏効)はコビメチニブ併用群とidasanutlin併用群でそれぞれ20%と33%であった。しかし両群ともに、奏効率は、低用量の投与を受けた患者に比べて、同試験の延長フェーズで使用される用量の投与を受けた患者で高かった。
ベネトクラックスの第Ⅲ相試験2試験では、年齢(75歳以上)または併存疾患のため、標準的な化学療法に不適格で、60歳以上の治療歴のないAML患者に着目している。一方の試験(No. 2016-0985)では、患者はメチル化阻害薬アザシチジンにベネトクラックスまたはプラセボのいずれかの併用療法に無作為に割り付けられる。もう一方の試験(No. 2017-0398)では、シタラビンによる低用量の化学療法にベネトクラックスまたはプラセボのいずれかの併用療法に無作為に割り付けられる。
「ベネトクラックスと低用量のシタラビンまたはメチル化阻害薬の併用は、強化化学療法を受けられない高齢のAML患者に対して忍容可能な安全性プロファイルと非常に有望な活性を示しています」とKonopleva医師は述べた。
ベネトクラックスのBPDCNに対する有効も評価するため、Pemmaraju医師やKonopleva医師などの多施設の研究者グループは、BPDCN細胞株やマウスモデルでベネトクラックスを検証した。これらの非臨床試験でベネトクラックスの活性を確認した後、Pemmaraju医師らは、いずれの他の治療オプションにも奏効を示さなかった再発または治療抵抗性のBPDCN患者2名にベネトクラックスを適用外治療薬として提供した。1名はベネトクラックス投与前からあった症状により死亡したが、いずれの患者もベネトクラックスに奏効した。
「ベネトクラックスで治療を受けた2名のBPDCN患者でのこの結果に基づいて、BPDCN患者を対象とした本薬剤の臨床試験を継続していきます」とPemmaraju医師は述べた。彼は、今春に本試験で患者の登録を開始するだろうと述べた。
前進
CD123またはBCL2を標的とする併用療法のさらなる臨床試験が、AMLまたはBPDCN患者を対象にまもなく実施される。たとえば、SL-401とメチル化阻害薬アザシチジンの併用は、非臨床試験でAMLに対して相乗作用を示し、再発AML患者を対象とした本併用療法の臨床試験がまもなく開始される。
また、他の血液腫瘍を対象としたベネトクラックスとさまざまな薬剤との併用療法の臨床試験の結果によって、AMLまたはBPDCN患者を対象とした同様の併用療法の試験もいずれ可能になるだろう。B細胞リンパ腫患者を対象とした進行中の試験(No. 2017-0025)では、ベネトクラックスと各サイクルで用量を調整したエトポシド、シクロホスファミド、ドキソルビシンにプレドニゾン、ビンクリスチン、リツキシマブを併用している。別の試験(No. 2015-0860)では、慢性リンパ性白血病患者を対象として、ベネトクラックスとBTK阻害薬のイブルチニブを併用投与している。
「CD123またはBCL2阻害薬とさまざまな他の治療法との併用は、AMLおよびBPDCN治療で重要な役割を果たすでしょう。併用療法のベネフィットを受ける患者集団を特定することが我々の務めです」とKonopleva医師は述べた。
【写真キャプション】
芽球性形質細胞様樹状細胞腫瘍による皮膚病変の治療前(左)、BCL2阻害薬ベネトクラックスで4週間治療後(右)。画像はCancer Discovの許可を得て使用(2017;7:156-164)。
For more information, contact Dr. Marina Konopleva at 713-794-1628 or mkonople@mdanderson.org or Dr. Naveen Pemmaraju at 713-792-4956 or npemmaraju@mdanderson.org.
FURTHER READING
Montero J, Stephansky J, Cai T, et al. Blastic plasmacytoid dendritic cell neoplasm is dependent on BCL2 and sensitive to venetoclax. Cancer Discov. 2017;7:156-164.
Pemmaraju N. Novel pathways and potential therapeutic strategies for blastic plasmacytoid dendritic cell neoplasm (BPDCN): CD123 and beyond. Curr Hematol Malig Rep. 2017;12:510-512.
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原文掲載日
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