一部の慢性骨髄性白血病患者ではニロチニブを中止可能

米国食品医薬品局(FDA)は、慢性骨髄性白血病(CML)患者におけるニロチニブ(商品名:タシグナ)の推奨投与方法に対する大幅な変更を承認した。

FDA は12月22日、ニロチニブの添付文書について、本薬剤を服用中でがんが長期間寛解状態にある一部のCML患者において、安全に投与を中止できるとする内容へ更新することを承認した。しかし患者は、再発していないことを確認するために定期的な検査を受けなければならない。

これまで、診療現場では白血病に進行がみられるまでニロチニブが継続的に投与されていた。そのため、治療が数年、数十年、あるいは一生続く可能性があった。ニロチニブを継続的に投与することでCMLを抑制し続けることができるが、ニロチニブにはそう痒や発疹、悪心、下痢、疲労感などの副作用がある。これは、患者1人あたり年間10万ドル以上の保険料が支払われる要因にもなっている。

新たな添付文書のもとでニロチニブを中止する必要条件を満たすには、少なくとも3年間本薬剤を服用し、CMLを引き起こす遺伝子変異を有する細胞が血中にほとんど存在しないこと(持続的な分子遺伝学的奏効)を証明しなければならない。

ニロチニブ治療を中止した患者は、FDAの承認を受けた検査薬による定期的な検査を受け、白血病が再発する可能性に備えてモニタリングを行う必要がある。

添付文書変更の根拠となった2つの臨床試験では、ニロチニブを中止した患者のほぼ半数が再発を経験したが、ニロチニブの再開によりほぼ全例で再び寛解に達した。

一部の患者におけるニロチニブの中止は、「モニタリングが慎重に行われる限り安全です」と、NCIがん治療・診断部門のRichard Little医師はいう。

ニロチニブ中止の安全性を確認するための検査

ニロチニブはチロシンキナーゼ阻害剤(TKI)という種類の薬物である。遺伝子変異によって産生され、CMLを引き起こすタンパク質を阻害することでがん細胞の増殖を抑える。

新たにCMLと診断された患者は、通常ニロチニブか他の2つのTKI、すなわちイマチニブ(商品名:グリベック)またはダサチニブ(商品名:スプリセル)のいずれかを用いて治療が行われる。

FDAはENESTfreedomとENESTopの2つの第2相臨床試験の結果に基づいてニロチニブの添付文書を変更した。

ENESTfreedom試験には、ニロチニブを少なくとも2年間服用した215人の患者が登録された。すべての試験参加者が試験の一部としてさらに1年間ニロチニブの服用を継続した。1年後、寛解を維持していた190人の患者がニロチニブを中止した。

その後の経過観察期間中、最初の48週間は4週間ごと、次の48週間は6週間ごと、その後は12週間ごとに血液検査よるモニタリングが行われた。

最初の48週間の経過観察が終了した時点で、ニロチニブを中止した98人(52%)の参加者が寛解を維持していた。残りの91人のうち86人は検査で再発が確認され、ニロチニブの服用を再開した。その結果、1人を除くすべての患者が再度寛解に達した。試験期間中に致死的にCMLが進行した患者はいなかった。

ENESTop試験の初期結果はENESTfreedomときわめて類似していた。ENESTopの研究者らは、イマチニブの投与を受けた後にニロチニブを計3年以上服用した163人の患者を登録した。

試験期間中に追加で1年間のニロチニブ治療を行い、寛解を維持した126人の参加者で本薬剤を中止した。最初の48週間は4週間ごとに血液検査によるモニタリングが行われた。

48週間後、73人(58%)の患者で寛解が維持された。51人(41%)の患者が再発を経験し、ニロチニブを再開した。このうち50人は奏効し、奏効しなかった1人は別のCML治療薬に切り替えられた。

2つの試験の約25~40%の患者は、ニロチニブ中止後の最初の48週間に筋肉痛、骨痛、あるいはその両方を経験した。これらの副作用は、ニロチニブを中止した患者で以前からみられていた。ENESTfreedom試験の著者らは、筋肉痛や骨痛のリスクが時間と共に減少するかどうかを明らかにするには長期の経過観察が必要であると記している。

より高い奏効、より安全な中止とは?

ENESTfreedomの著者らは、ニロチニブ中止後の持続的な分子遺伝学的奏効の可否を個々の患者で予測できるかどうかが今後の研究の重要な課題であるとしている。

いずれの試験でも予測因子は特定されなかったが、どの患者が安全に中止を試みることができるかについて、医師らはかなり妥当な基準を持っているとLittle医師は指摘する。つまり、白血病に対してニロチニブが速やかに奏効し、長期間寛解状態にある患者が寛解を維持する可能性が高い。

逆に、白血病に対してニロチニブが奏効するまでに長期間を要した患者、寛解に至るまでに複数の薬物を必要とした患者、長期間寛解を維持できなかった患者は候補者としてリスクが高いとLittle医師はいう。

またこの違いは、処方通りにニロチニブを服用することの重要性を強調しているとLittle医師は主張する。

ニロチニブは、CML治療に用いられる他のTKIと同様に錠剤である。そのため患者は毎日、場合によっては何年にもわたって服用を続けることに責任をもたなければならない。

「分子遺伝学的奏効を達成するには、患者自身が非常に積極的に薬物治療を受ける必要があります」とLittle医師はいう。

さらに、「数年間錠剤を処方通り正しく服用して初めて、治療を無事に中止できる可能性が非常に高くなる、という認識を持って患者は治療を開始すべきです」と続ける。「しかし、そうしなかった場合は順調に中止できなくなる可能性があります」。

Little医師によると、これら2つの試験の結果は、他のTKIの安全な中止方法を検討した過去の研究と同様に、より多くの患者で速やかに、かつ持続的に奏効を得るにはCML治療をどう調整すべきかについて議論を巻き起こしているという。

TKIに免疫療法などの他の治療法を加えることで、より速やかに長期間持続する寛解が得られるかどうか、現在研究が行われているとLittle医師は説明する。

「より多くの患者を分子遺伝学的寛解に導き、治療を順調に中止することができれば、個々の患者にとっても、またCMLに対する国民医療費の面でも非常に大きなメリットになるでしょう」と結論した。

翻訳 工藤章子
監修 野﨑健司(血液・腫瘍内科/大阪大学大学院医学系研究科 )
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原文掲載日  1/19/2018

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