CAR-T細胞療法による急性毒性の評価、等級付け、および管理法

CAR-T細胞療法関連毒性(CAR T cell-therapy-associated TOXicity:CARTOX)ワーキンググループによる推奨

キメラ抗原受容体(CAR)T細胞療法は難治性悪性腫瘍の治療として有望なアプローチであるが、専門的なモニタリングおよび管理を要する特有の急性毒性を伴う。しかし、急性毒性のモニタリングおよび管理についての手順は確立されていない。このまだ満たされていないニーズに対処するため、CAR T cell-therapy-associated TOXicity (CAR-T細胞療法関連毒性:CARTOX)ワーキンググループが結成された。CARTOXワーキンググループは、複数の研究機関からさまざまな分野の研究者らが参加している。参加研究者らは各種CAR-T細胞療法を用いて患者を治療した経験を有する。Nature Reviews Clinical Oncology誌上で発表された記事では、CARTOXワーキンググループ参加研究者らは自身の研究機関で採用している集学的アプローチを報告し、CAR-T細胞療法を受けた患者が発症する急性毒性のモニタリング、等級付け、および管理に関する推奨を発表した。

この治療により長期的な寛解が認められることは、この免疫療法が治癒をもたらしうる治療法であることを示唆している。CAR-T細胞療法薬の集中製造体制についての実現可能性および凍結保存したCAR‑T‑細胞製剤の安全性については多施設共同臨床試験で実証されている。

2017年8月30日、米国FDAは、小児および若年成人患者における再発または難治性の前駆B細胞急性リンパ性白血病の治療に対し、抗CD19 CAR‑T細胞製剤であるtisagenlecleucelを初承認した。それと同時に、FDAはCAR-T細胞療法によりサイトカイン放出症候群(CRS)を発症した2歳以上の患者の治療薬としてトシリズマブも承認した。2017年10月18日、FDAは、2種類以上の全身治療を受けた後に再発したあるいは抵抗性を示した大細胞型B細胞リンパ腫成人患者の治療に対し、CAR-T細胞療法薬であるaxicabtagene ciloleucelを通常承認した。

CAR-T細胞療法で最も多く見られる毒性はサイトカイン放出症候群(CRS)およびCAR-T細胞療法関連脳症症候群(CRES)である。CRSの特徴は高熱、低血圧、低酸素症、および多臓器毒性であり、CRESの特徴は毒性による脳障害状態であり、精神錯乱およびせん妄、ならびに時に攣縮および脳浮腫の症状を伴う。劇症性血球貪食性リンパ組織球症(HLH)は、マクロファージ活性化症候群(MAS)としても知られているが、そのHLHのまれな症例が報告されている。その特徴は、重度の免疫活性化、リンパ組織球組織浸潤、免疫介在性多臓器不全である。

そのような毒性は、CAR-T細胞療法以外の標的改変T細胞療法、例えば、TCR遺伝子療法および二重特異性T細胞誘導抗体(BiTE)などによる治療を受けた患者、ならびにCARナチュラルキラー(NK)細胞による前臨床試験でも認められている。

CRSおよび HLH/MASの両方が抗CD19/CD3 BiTEであるブリナツモマブによる治療を受けた患者において認められている。大半の患者においてこれらの症状は管理可能であるが、モニタリングや集中治療室での治療を要する患者もいる。また、死亡に至る可能性もある。

CARTOXワーキンググループの代表者らは複数の医療専門分野の研究者らで構成されている。その専門分野には、血液腫瘍学、固形腫瘍、幹細胞移植、神経学、救命救急、免疫学、および薬科学などである。CARTOXワーキンググループの代表者らは、4種類以上の抗CD19 CAR-T細胞プラットフォームを用いて、白血病あるいはリンパ腫成人患者100人以上の治療に関与している。抗CD19 CAR-T細胞プラットフォームは、当初、学術機関で開発され、その後、多施設試験でのさらなる臨床開発のために民間企業とライセンス契約されたものである。CARTOXワーキンググループは文献の既存のエビデンスおよびCAR-T細胞治療におけるワーキンググループ全体の経験について議論した。また、成人患者におけるCRS、CRES、およびHLH/MASのモニタリング、等級付け、および管理に関する勧告と実務的な指針をワーキンググループ全体で作成した。

論文では、著者らはCARTOXの管理・治療手順を提示・討議し、代表的な臨床症例について言及した。

CAR-T細胞療法に対する支持療法の留意事項

CAR-T細胞注入前および注入中:

・中枢神経系(CNS)疾患を除外する目的で脳MRIを治療前に行う

・毒性がみられた場合、静脈内輸液およびそれ以外の輸液用に中心静脈アクセスをとる。ダブル/トリプル ルーメンカテーテルの利用が望ましい。

・不整脈検出のため、CAR T細胞輸注当日に遠隔測定法による心モニタリングを開始し、CRSが消失するまで継続する。

・巨大な腫瘍を有する患者に対しては、腫瘍崩壊症候群の予防措置をとる。標準的な院内ガイドラインに従う。

・痙攣発作予防のためにレベチラセタム750mgの経口投与を12時間ごとに30日間行う。投与は、CRES発症リスクが知られるCAR-T細胞療法薬輸注当日から開始する。

・CAR-T細胞療法後、7日以上の入院が推奨される。

CAR-T細胞輸注後の患者モニタリング:

・4時間ごとにバイタルサインを評価、経口水分摂取量および静脈内輸液量ならびに尿排出量を注意深くモニタリング、体重を毎日測定する。

・患者の既往および身体所見を毎日確認する。

・毎日、血球数計測、完全な代謝プロファイリング、凝固プロファイリングを行う。

・C 反応性蛋白およびフェリチンの濃度を毎日測定する。輸注当日から開始する。

・CRSの評価および等級付けを1日2回以上、および患者の病態が変化した場合は必ず行う。

・CAR-T細胞療法関連毒性10 ポイントスケール神経学的評価(CAR‑T‑cell-therapy-associated toxicity 10‑point neurological assessment [CARTOX-10])を用いてCRESの評価および等級付けを少なくとも8時間ごとに行うべきである。

・適切な補液量を確保するために生理食塩水による維持静脈内輸液を行う。

通知および緊急事態における手順:

・下記の所見のいずれかが認められた場合必ず医師に通知する:収縮期圧140 mmHg超 あるいは90 mmHg未満;心拍数120 bpm超 あるいは60 bpm未満、もしくは不整脈;呼吸数25回/分超あるいは12回/分未満;動脈血酸素飽和度が室内気で92%未満;尿排出量1,500ml/日未満;血中クレアチニン濃度あるいは肝機能検査結果が上昇傾向を示す;四肢の振戦あるいは痙攣;精神の変調(覚醒、志向、発話、作文能力、あるいはCARTOX-10スコア)。

・体温が38.3 ℃以上の患者に関し、血液培養(中枢及び末梢)、尿検査および尿培養、ポータブル胸部 X 線撮影を行い、医師に通告する。

・好中球減少および発熱が認められる患者に関し、経験的広域スペクトル抗菌薬投与を開始する。

・医師の許可なしにステロイド薬を投与してはならない。

・患者がCRESを発症した場合、食物、水分、および薬剤の経口摂取を控え、医師に通告する。

・体温が38.3℃以上の場合、必要に応じた投薬、アセトアミノフェン(第一選択薬)あるいはイブプロフェン(第二選択薬、禁忌でない場合投与)、および冷却ブランケットの利用;生理食塩水500~1,000mLをボーラス投与、初回ボーラス投与後、SBPが90 mmHg未満のままである場合は再度輸注。

・医師の指示がある場合に限り、トシリズマブあるいはSiltuximab[シルツキシマブ]による抗IL6療法を開始する。

さらに、著者らは下記症状の管理に関し、極めて有用な推奨を記事上で行っている:各グレードのCRS症状および徴候、CRES,CAR-T細胞療法後のてんかん重積状態、頭蓋内圧亢進、ならびにCAR-T細胞療法関連HLH/MAS。

参考文献

Neelapu S, Tummala S, Kebriaei P, et al.Chimeric antigen receptor T‑cell therapy — assessment and management of toxicities.Nature Reviews Clinical Oncology; Published online 19 Sep 2017. doi:10.1038/nrclinonc.2017.148

翻訳担当者 三浦恵子

監修 吉原哲(血液内科・細胞治療/兵庫医科大学)

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原文掲載日 

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