親の喫煙が及ぼす遺伝子変化が小児白血病の発症に影響

母親または父親の喫煙が白血病細胞に影響することが、UCSFの研究により明らかに

カリフォルニア大学サンフランシスコ校(UCSF)主導の研究によれば、いずれかの親が喫煙する子供には、最も多くみられる種類の小児がんの発生および進行に関係する遺伝子欠失が発現しやすくなるという。新生児期に両親がタバコを吸っていた子供には最も強い関連がみられたが、これらの欠失は、妊娠前に禁煙した可能性のある両親の子供にさえ認められた。

急性リンパ芽球性白血病(ALL)と両親の喫煙との関連、特に父親の喫煙はすでに立証されているが、本研究は初めてがん患児の腫瘍細胞内の特定の遺伝子変化を指摘したものであるとUCSFの Helen Dillerファミリー総合がんセンター疫学および生物統計学科研究助手であり本研究の共筆頭著者のAdam de Smith博士は述べた。

「診断時、両親の喫煙が多いほど、患児のALL細胞の遺伝子欠失が多く確認されました」と同博士は述べた。

DNAエラーは際限ない細胞増殖の原因になる

ALLは小児白血病の主要な2種類の型の1つであり、リンパ球と呼ばれる白血球のDNAでエラーが起こり、正常な細胞を締め出して際限ない増殖を引き起こす。ALL患者に認められる遺伝子欠失は、免疫反応で重要な役割を果たす細胞の発生に必要な、細胞周期制御タンパクと重要な転写因子を一掃する。

アメリカがん協会によれば、毎年およそ3,100人の小児と10代の若者たちがALLの診断を受けるという。5年生存率は高く、米国国立がん研究所(NCI)によると15歳未満の患児では90%、15~19歳では75%であるが、長期的影響には二次発がんのリスク上昇など重篤で生命を脅かすものもある。

2017年4月1日付のCancer Research誌に掲載された研究では、UCSFおよびカリフォルニア大学バークレー校、スタンフォード大学および南カリフォルニア大学の研究者らは、この疾患の原因の調査を主導するカリフォルニア小児白血病試験(California Childhood Leukemia Study)が559人のALL患者から採取した治療前の腫瘍サンプルを調べた。研究者らはALL患者で欠失する頻度が高い8つの遺伝子のいずれかが、それらのサンプルでも欠失しているかどうかを確認したいと考えていた。

喫煙習慣が遺伝子欠失の数に影響を与えるかどうかを調べるため、両親にアンケートを実施した。データの裏付け となったバイオマーカーは新生児の血液サンプル中のAHRR遺伝子であり、妊娠中の母親の喫煙に曝 露されたことを示唆している。

研究者らは腫瘍サンプルのおよそ3分の2(353)に少なくとも1つの欠失があることを確認した。欠失は、母親が妊娠中および出産後にも喫煙していた小児にはかなり多く認められた。妊娠中に1日5本タバコを吸う毎に欠失数が22%上昇し、同様に 授乳中では74%上昇した。

患児の診断時年齢は妊娠前の喫煙に関係する

妊娠前に母親あるいは父親が1日5本タバコを吸っていた場合、欠失数は7~8%高かった。興味深い結果は、妊娠前の父親の喫煙とその子供の診断時年齢との関係である。

「6歳以下の患児の症例 では欠失数への有意な影響が認められました」とde Smith博士は述べた。「私たちが得た結果は、妊娠前に父親がタバコを吸っていると、精子DNAの酸化的損傷の原因になることは知られていますが、早期発症ALL患児の欠失発生の傾向が高くなる危険性を示唆しています。妊娠前からタバコを吸っている父親のなかには、母親や子供のいる場所で喫煙を続けている人がいるのも事実です。曝 露の時期にかかわらず、子供に対するタバコによるダメージのメカニズムを説明するためには、さらに研究が必要です」。

男児は妊娠前の喫煙を含め、母親の喫煙の影響を受けやすいことが認められた。これは、男の胎児は成長が早く、遺伝子損傷の原因になる毒素に対して未熟なリンパ球がより脆 弱になるという事実で説明が可能である。

「タバコに曝 露すればするほどALL細胞内に蓄積したDNA損傷がはっきりしてきます」UCSF Helen Dillerファミリー総合がんセンター、疫学および生物統計学教授であり、本研究の統括著者のJoseph Wiemels博士は述べた。

ALLでは喫煙は1つの因子に過ぎない

「ALLの原因はさまざまで、子供の先天的な遺伝子構成、感染パターン、農薬や他の環境の中での曝 露などがありますが、もしタバコがない環境であったら、ALL患児はもっと少なくなるでしょう」同博士は述べた。

「私たちはALLを喫煙により影響を受ける疾患の長いリストに加えるつもりです。この疾患の場合、最も弱い立場であるわれわれの子供たちが影響を受けているのです」。

本研究は、米国国立がん研究所(NCI)、Alex’s Lemonade Stand Foundation, Children with Cancer U.K., Swiss National Science Foundation, Sutter- Stöttner Foundation and the SICPA Foundationの資金提供を受けた。

本研究の共著者は以下である:Maneet Kauer, MPH, who served as co-first author; Semira Gonseth, MD; Steve Selvin, PhD; Luoping Zhang, PhD; Xiaorong Shao, Alice Kang, MPH; and Catherine Metayer, MD, PhD, who served as co-senior author, of UC Berkeley, Calif.; Alyson Endicott, Ritu Roy, Helen Hansen and Kyle Walsh, PhD, of UCSF; Gary Dahl, MD, of Stanford University, Calif.; and Roberta McKean-Cowdin, PhD, of University of Southern California in Los Angeles

翻訳担当者 白鳥理枝

監修 野﨑健司(血液腫瘍科/国立がん研究センター中央病院)、

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