白血病薬イマチニブの長期結果とがん治療の革新

がん領域における概念の変化

約11年間の追跡の結果、イマチニブによる長期治療によって慢性骨髄性白血病(CML)が長期間制御され、蓄積毒性作用や遅発性毒性作用も認めないことが示された。2017年3月9日にNew England Journal of Medicine (NEJM)誌で発表されたIRIS試験の結果について、Dan Longo氏は「がん治癒への道のりは始まったばかりですが、CML治療に対するイマチニブの使用が、がん領域の新たな方向性を示しました」とコメントした。

付随の解説では、さまざまながん種に対する治療法の成功例について取り上げている。例えば、小児の急性白血病、数種類のリンパ腫、精巣がんは、多くの場合治癒可能になった。術後化学療法によって、早期乳がん患者の生存期間が延長した。化学療法の基本原理は、分裂細胞を標的とすることである。しかし、その他のがん種の患者に化学療法を用いる試みでは、治癒に至ることはまれで毒性作用をもたらす結果となっている。乳がんおよび前立腺がんは、さらにホルモン療法感受性がある。

CMLに対する研究成果によって、タンパク質チロシンキナーゼを阻害できる多くの薬剤がもたらされた。イマチニブは、in vitroおよびマウスでの実験において、ウイルス性がん遺伝子v-ablおよび血小板由来成長因子受容体の活性を抑制した。また、BCR-ABL陽性細胞の増殖も阻害した。その後、Druker氏らが、イマチニブを投与したCML患者を対象とした第1相試験のデータを報告した。血液学的完全寛解は患者54人中53人に認められ、7人の患者においてはフィラデルフィア染色体が検出されなかった。がん領域におけるその他の薬剤では、このような成果は挙げられていなかった。

それから10年後に、IRIS試験の試験責任医師は、イマチニブ群の患者では生存率が83%であると報告している。本試験の期間中に、イマチニブ群患者の83%で細胞遺伝学的完全寛解が得られた。患者の約5人に1人が、1年以上安定した深い分子遺伝学的寛解を得た。治療を中止した患者の約40%において3年以上寛解が持続し、残りの患者は再発した。このように、イマチニブは長期間のCMLの抑制に大きな成功を収めたが、治癒したと考えられる患者はいたとしてもわずかであると考えられる。

同解説において、Dan Longo氏は次のように書いた。「イマチニブの開発は、がん領域を根本的に変えました。分裂細胞に作用する薬剤から、がん種ごとの生態を理解することに優先順位が変わりました。ひとたび腫瘍の遺伝子解析が始まると、その複雑さががんの疾病分類学における変革を引き起こしたのです」。

実際に、分子レベルでのがんの解析や、ドライバー変異を阻害することが可能な経口抗がん剤の開発は、がん領域における概念の変化を示している。腫瘍の不均一性や耐性のメカニズムによって、いまだ治療法の進歩が制限されているが、リキッドバイオプシーは、治療に対する腫瘍の適応を検出、予測し、二次治療の選択に役立つ可能性がある。治療決定のための遺伝子に関する指針の上には、さまざまながん種に対する免疫療法における近年の目覚ましい進歩がある。

一般的ながんの予後は改善しているが、新たな治療法はどれも、大多数の患者を治癒させるとは考えられない。しかし、腫瘍の発生機序を理解することで毒性が低く、より効果的な治療法につながる可能性があり、標的の同定、耐性の分子レベルでのメカニズム解明、新世代の抗がん剤の開発、別の標的との治療法の組み合わせ、治療が奏効しやすい患者の同定がいかに重要かということが、イマチニブの研究結果によって示された。

参考文献:Longo DL. Imatinib Changed Everything. N Engl J Med 2017; 376:982-983.

翻訳担当者 生田亜以子

監修 喜安純一 (飯塚病院、 血液内科)

原文を見る

原文掲載日 

【免責事項】
当サイトの記事は情報提供を目的として掲載しています。
翻訳内容や治療を特定の人に推奨または保証するものではありません。
ボランティア翻訳ならびに自動翻訳による誤訳により発生した結果について一切責任はとれません。
ご自身の疾患に適用されるかどうかは必ず主治医にご相談ください。

白血病に関連する記事

【ASH24】BCL-2阻害剤+BTK阻害剤は白血病(CLL)に有望の画像

【ASH24】BCL-2阻害剤+BTK阻害剤は白血病(CLL)に有望

新たな固定期間薬剤併用療法(3剤目の血液がん治療薬の有無にかかわらず、第2世代BTK阻害剤アカラブルチニブ{販売名:カルケンス}とBCL-2阻害剤[ベネトクラクス]{販売名:ベネクレル...
高リスク急性骨髄性白血病(AML)治療に関する新知見3演題の画像

高リスク急性骨髄性白血病(AML)治療に関する新知見3演題

ダナファーバーがん研究所の研究者らは、急性骨髄性白血病(AML)患者の治療改善に役立つ新たな知見をもたらす3つの研究を主導している。研究チームは、2024年12月7日から10日までサン...
【米国血液学会(ASH24)特別版】ーMDアンダーソン研究ハイライトの画像

【米国血液学会(ASH24)特別版】ーMDアンダーソン研究ハイライト

MDS、白血病、リンパ腫の新しい治療法や研究成果、有望な長期試験データ、貧血克服のための潜在的標的を特集するテキサス大学MDアンダーソンがんセンターの研究ハイライトでは、がんの...
高リスク慢性リンパ性白血病に3剤併用AVO療法は有望の画像

高リスク慢性リンパ性白血病に3剤併用AVO療法は有望

ダナファーバーがん研究所の研究者らは、特にTP53異常を持つ高リスク慢性リンパ性白血病(CLL)患者に対する治療における有望な進歩を発表した。これは、高リスクCLLにおける期間限定の3...