小児白血病対策の進展を加速させるTARGETイニシアチブ

希少で治療が難しい複数種の小児がんを研究するNCI助成プログラム研究により、Children’s Oncology Group(小児腫瘍グループ)主導の臨床試験2件の準備が整った。これらは小児急性リンパ性白血病 (ALL)患者に対する新たな治療選択肢を評価する臨床試験である。

TARGET(Therapeutically Applicable Research to Generate Effective Treatments:有効な治療の開発を目的とした治療適用可能な研究)イニシアチブは、特定の小児がんについて包括的ゲノム解析を行う大規模な多国間共同企画である。TARGETイニシアチブの最終目標は、こうしたがんを増殖させる分子変化を特定することによって、このような分子変化を標的とする新たな治療法や取り組みの開発の基礎を築くことである。

「TARGET ALLプロジェクトは、小児がんゲノム研究の 実現可能性を示すための前段階の手段としてスタートしました」と、TARGETのNCI共同ディレクターDaniela Gerhard氏(博士)は話す。「その後、生産性の高い共同研究へと発展を遂げた結果、小児ALLについてそのゲノム基盤の多くを説明できるような広範なゲノム解析ができました」。

ハイリスクALL小児患者から採取した白血病細胞のゲノム解析により、TARGET研究者はこうした 白血病を区別するサブタイプ(型、分類)を特定するに至った。フィラデルフィア染色体様(Ph様)ALLと呼ばれる型である。その後の研究から、Ph様ALLは特定の遺伝子変化を含んでいることが多く、その遺伝子変化があると、既存の分子標的療法の影響を受けやすくなる可能性があることが判明した。

現在、2件の臨床試験において、このALLサブタイプである小児患者に対して既存の分子標的治療のうち2種類を評価するために患者を集めている。

「TARGETは、小児がん治療の改善に向けた、精度の高い腫瘍へのアプローチに対して、ゲノム解析と共同研究がいかに貢献できるかを示す実例です」と、TARGETのNCI共同ディレクターMalcolm Smith氏(医学博士)は話す。

チームサイエンス・アプローチ

TARGETはおよそ10年前に、小児のALLと神経芽細胞腫のうち高リスクサブタイプにおけるゲノム変化を研究する2つのパイロットプロジェクトから開始された。パイロットプロジェクトの成功により、プログラムの範囲を拡大し、こうした悪性腫瘍の他の型が研究対象に追加されるとともに、小児急性骨髄性白血病(AML)、特定の小児腎腫瘍、骨肉腫の型に焦点を絞った新プロジェクトも始まった。

プログラムの拡大は、ゲノム配列決定の「技術革新」と時期が重なったと、TARGET ALLプロジェクト試験責任医師であるフィラデルフィア小児病院のStephen Hunger氏は話す。より包括的な配列決定技術が利用できるようになったため、わずか数百個の遺伝子ではなく患者の全ゲノムデータを生成、解析できるようになったと、同氏は説明する。

TARGETプロジェクトチームのメンバーとして、NCI、全米の大学、がんセンター、小児病院から臨床医、病理学者、科学者、バイオインフォマティクス研究者が参加している。そうした研究者の多くは、NCIの助成を受ける大規模な小児・青年期がん臨床試験グループであるCOGのメンバーでもある。

TARGETプロジェクトで使用する患者試料は主に、COG臨床試験または標準治療プロトコルに登録された小児から採取する。質の高い試料と詳細な臨床情報とが相まって、TARGET研究者は総合解析を行うことが一層可能になる。さらに、COGとのつながりによって、「TARGETで裏づけられる研究の臨床解釈が大いに加速されます」と、TARGETの科学プログラムマネージャーJaime Guidry Auvil博士は話す。

「こうしたグループでの取り組み、全員が各自のスキルを持ち寄る姿勢がなければ、ここまでの成功を収めることは決してできなかったでしょう。私にとっては素晴らしい模範例です。一人が単独で成功できるとは思いませんから」と、Hunger氏も同意する。

小児ALLでの教訓

TARGETや他のゲノム研究で浮き彫りになったのは、「小児がんと成人がんは、たとえ同じ臓器で発生したがんであっても分子レベルで異なることが多い」ことであると、Guidry Auvil 氏は話す。主要な相違点は、小児がんは成人がんに比べて全変異が少ないことであり、変異はさまざまな遺伝子で生じるか、さまざまな頻度で生じる可能性があることであると同氏は説明する。

たとえば、TARGET研究者の報告によれば、ALLを患う若年成人、青年、小児において転帰および治療奏効がそれぞれ異なるのは、患者の腫瘍の裏に潜んだ生物学上の 重要な違いによる可能性がある。

「小児がん特有のゲノム特性があるため、小児がんには成人がんとは異なる治療アプローチ、つまり、個々人の病態に応じた精度の高いアプローチが必要です」とSmith氏は話す。

大半の小児がんでは変異の数は少ないのだが、TARGET研究者らは、こうしたがんのドライバー遺伝子を特定すれば、がんの潜在的な生物学的特徴の理解を深めることができるとともに、より精度の高い治療法の発見につながる可能性があることを実証してきた。

Hunger氏は、彼らのPh様ALLサブタイプに関する研究は、うってつけの例だと言う。2009年、同氏らが発見したPh様ALLとは、別のサブタイプであるフィラデルフィア染色体陽性(Ph+)ALLと似た遺伝子発現パターンを示す高リスクALLサブタイプである。ただし、Ph様ALLはPh+ALLと違い、フィラデルフィア染色体(2つの異なる遺伝子が部分的に結合するDNAの転座によって生じる特徴的な遺伝子融合)がない。

しかし、彼らのその後の解析の結果、Ph様ALL腫瘍には複数の異なる融合遺伝子が存在することが判明した。「この発見により、分子標的治療の可能性が開かれました」とHunger氏は話す。

研究チームは臨床検査を利用して、融合遺伝子によって生成されたタンパク質をもつ白血病細胞は急速に増殖すること、そして、その白血病細胞は、ハイブリッドタンパク質を標的とするルキソリチニブ(商標名:ジャカビ)やダサチニブ(商標名:スプリセル)などのFDA承認薬で死滅する可能性があることを証明した。

COGとの共同研究を通して、これらの知見は2件の臨床試験へと展開していった。COGでは、診断検査を用いてPh様ALL小児患者を特定し、それに続く検査で、標的となる特定の融合遺伝子が患者の白血病細胞に存在するかどうかを判定している。特定の融合遺伝子が存在すれば、その患者は化学療法とダサチニブの併用を検証する試験、あるいは、ルキソリチニブを併用した化学療法を検証する別の試験に参加可能とみなされる。

学びの継続

小児ALLに関するこれらの発見は、「私たちがTARGETで知り得たことの氷山の一角にすぎません」とGerhard氏は話す。他のTARGETプロジェクトは最終段階にあり、それぞれの研究チームは引き続きデータを解析し、COGによる新たな臨床試験の確立と患者転帰の改善に役立つ新しい知見を発表するでしょうと同氏は話す。

研究関係者がこれらの知見を継続して再編成することも可能であると、Gerhard氏は言う。TARGETは最近、各疾患プロジェクトから集められたデータを公表した。このデータは、患者のプライバシーを保護する形で、Genomic Data CommonsData Matrixなどのサイトで入手可能である。

TARGETは、その研究が及ぼす影響や関連データの利用可能性を通じて、「小児がんに関する私たちの理解や治療に影響を与えましたが、これからも長年にわたり影響し続けるでしょう」とSmith氏は話す。

翻訳担当者 山田登志子

監修 喜安純一(飯塚病院 血液内科)

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