急性骨髄性白血病(AML)患者における化学療法後の遺伝子変異残存は予後不良と関連
米国国立がん研究所(NCI)/ブログ~がん研究の動向~
化学療法により寛解を達成した急性骨髄性白血病(AML)患者のうち、治療開始から1カ月後に骨髄細胞で白血病関連遺伝子変異が残存していた患者では、顕著な再発リスクの増加および生存期間の短縮が認められたことが新たな研究で示された。
Journal of the American Medical Association (JAMA)誌8月25日号に掲載された本研究で、診断時にAML細胞における一連の白血病関連遺伝子変異を同定しても、がん再発予測においては現在の標準的治療法と大差ないことが示された。しかし、化学療法後の遺伝子変異の残存は、再発リスクの増加および生存期間の短縮と関連した。
血液および骨髄のがんであるAMLの治療は近年改善されているが、患者の20%は初回(導入)化学療法後に寛解を達成せず、また寛解に入った患者においても半数近くに最終的にがんの再発が認められる。しかし、再発の可能性が最も高い患者を同定するための良い方法はまだ確立されていない。
これらの新たな知見は、化学療法により長期寛解に導入できたかのように見えても高い再発リスクを有する患者を同定するための「ゲノム解析法の確立に向けた第1歩」であると、本研究の著者は記した。
過去の研究による手がかり
骨髄移植により多くのAML患者を治療できるが重篤な合併症のリスクを伴う。そのため、患者ごとの再発リスクに応じて、移植によるベネフィットを得られる可能性が最も高い患者を同定することが医師にとって重要である。再発リスクが高い患者および低い患者を同定できる確立された臨床学的因子があるが、大多数の患者は、がん細胞の数種類の遺伝的特徴に基づき中等度リスクに分類される。そのため研究者らは、中等度リスク群の中で再発リスクが高い患者を正確に同定しうる他の方法を見出そうと努力してきた。
何年もの間、本研究の筆頭著者であるセントルイスにあるワシントン大学のTimothy Ley医師と彼の研究チームは、予後についての情報を得られる可能性のあるAML関連遺伝子変異を同定するため、ゲノム配列決定法を用いてきた。しかし驚くべきことに、検出した遺伝子変異のほとんどが再発リスクまたはその他の転帰に関連しなかったことがわかっている。
「われわれは、ゲノムの全非コード領域を含め全てを調査しましたが、本当に有益なものはなく、非常に残念でした」と、Ley医師は述べた。
しかし後になってわかってきた、と同氏は続けた。腫瘍は細胞群で構成されており、それぞれが異なる遺伝子変異を有する。これらの細胞群、すなわちサブクローンは「再発の一因となりうるため重要である」と、Ley医師は述べた。「(さまざまな)サブクローンは化学療法に対してさまざまな反応を示しますが、それらの反応を定義する遺伝的ルールについてはわかりません」。
がんに関連する細胞遺伝学的クローン変化を有する骨髄細胞が初回化学療法後に残存する場合、患者は再発する可能性が高いということを発見した過去2件の研究を振り返ることにより、研究者らは「細胞遺伝学者からヒントを得た」と、Ley医師は述べた。しかし、細胞遺伝学的に正常なAML細胞にも発がん性遺伝子変異が存在するため、Ley医師と研究チームは、化学療法後におけるゲノム上の遺伝子変異の残存が再発リスクに応じて患者を分類するためのより正確な方法ではないかと考えた。
遺伝子変異の残存が「分子モニタリング」に有用
このJAMA研究において、Ley医師のチームは、導入化学療法後に形態学的完全寛解(正常な血球数への回復および形態異常のある細胞が認められない状態)を達成した50人の成人AML患者から採取した骨髄検体のエクソーム配列解析を実施した。化学療法前の配列解析により同定された白血病関連遺伝子変異が、治療後にも残存するかどうかを確認することが目的であった。患者が最初に診断されたとき、および導入化学療法のおよそ30日後、治療により骨髄が回復する時期に採取した検体を解析した。患者50人中32人が、従来の細胞遺伝学的手法に基づき中等度リスクに分類されていた。
導入化学療法の30日後に白血病関連遺伝子変異を一つでも有していた患者の無イベント生存期間の中央値は6.0カ月、全生存期間の中央値は10.5カ月であった。対照的に、治療によりこれらの遺伝子変異を有する骨髄細胞が全く検出できなくなっていた患者では、無イベント生存期間の中央値は17.9カ月、全生存期間の中央値は42.2カ月であった。同様の結果が中等度リスクに分類された患者32人で認められた。
この結果により、「AMLにおける分子モニタリングの役割およびAML治療中の遺伝子変異動態に対する重要な知見が得られる」と、ニューヨークにあるスローンケタリング記念がんセンターのFriederike Pastore医師およびRoss Levine医師は、付随論説において記した。この結果を検証し、AML患者のモニタリングのためのゲノム解析法をフローサイトメトリー法と比較するとともに、これらの手法が併用可能かどうかを評価するため、さらなる研究が必要である、と彼らは続けた。
この研究は将来有望であるが、「がん患者を治療するためにゲノムデータを使用することは時期尚早です」と、Ley医師は警告した。
治療につながる情報を得るための配列データ使用の最も単純な検討方法は、遺伝子変異を同定し、次にその遺伝子変異を標的とする薬剤を使用することであるが、腫瘍には異質性があるためがん治療はより一層複雑な問題である、と彼は説明した。
「診療において、ゲノムデータを患者の治療方法の指針とするためにどのように使用するか、という問題を解決するには程遠い」とLey医師は述べた。「最も有益な手法や、患者の治療のためにこの知識を活用する最善の方法を確立するためには、さらに多くの研究が必要です。しかしながら、われわれは着実に有望な進歩を遂げています」。
(キャプション)急性骨髄性白血病患者の骨髄病理スライド
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