OncoLog 2015年2月号◆ナチュラルキラー細胞療法による血液がん治療の向上

2015年2月号(Volume 60 / Number 2)

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ナチュラルキラー細胞療法による血液がん治療の向上

強力ながん治療は、がん細胞と闘う体の本来の機能を極端に弱らせる可能性がある。このようながん治療を行っている患者、特に続いて幹細胞移植を行う可能性のある患者に対する免疫回復と免疫機能を改善するため、実験室で増殖させたナチュラルキラー細胞による治療法が研究されている。-Dr. Dean Lee

開発と背景

急性骨髄性白血病(AML)や慢性リンパ球性白血病(CLL)などの高リスク血液腫瘍は、骨髄機能破壊的化学療法あるいは放射線療法を主とし、その後造血幹細胞移植を行うのが一般的である。しかし、残念ながら骨髄機能破壊的レジメンは、がんに対する強い免疫応答により十分な効果を発揮するが、同時に患者の免疫力をも弱めてしまう。

「私たちが体の中に持っている免疫細胞はがんを殺すことができますが、細胞障害性治療を行うと常にこれらを全滅させてしまう」とテキサス大学MDアンダーソンがんセンターの小児科准教授Dean Lee医学博士は述べた。同種幹細胞移植は、骨髄機能破壊的療法後の免疫回復の目的でよく行われるが、免疫細胞を再生させるには時間がかかる。また移植片対宿主病を生じる可能性もあり、そのため生存そのものが危うくなる恐れがある。

患者自身の免疫機能を高める方法として期待されているのが、ナチュラルキラー細胞の利用である。ナチュラルキラー細胞は、あらゆるがん細胞および前がん細胞に対する選択的細胞障害作用を、生来の機能として持っている。よってナチュラルキラー細胞を用いた治療を、単独あるいは同種幹細胞移植や自家幹細胞移植への橋渡しとして化学療法後に行うと、がんに対する免疫応答を改善し、同時に幹細胞移植による副作用の一部を予防できるかもしれない、とLee医師は考えている。

「化学療法後にナチュラルキラー細胞を用いた免疫療法を行うことで、化学療法単独と化学療法後の同種幹細胞移植の間の副作用を調整することができるのではないかと注目しています」と幹細胞移植・細胞療法科助教Nina Shah医師は述べた。

ナチュラルキラー細胞療法に関する臨床試験の大多数は、現在のところアフェレーシスにより得たナチュラルキラー細胞による治療である。アフェレーシスで白血球をドナーの血液から採取し、T細胞を白血球のプールから除去して残りの白血球細胞を治療に用いる。急性骨髄性白血病を含む一部の患者では、この治療により良好な結果を得ている。しかし、この方法で得られる細胞数は限られており、しかもこのような注入方法は比較的精製度に欠け、ナチュラルキラー細胞の濃度はわずか20%–30%である。

しかし最近の技術進歩により、患者に注入するナチュラルキラー細胞を非常に高い濃度で得られるようになった。「私たちの研究室では、遺伝子操作によりナチュラルキラー細胞の増殖に必要なシグナルをすべて正確に再現する支持細胞を作成しました。今は1バイアルの血液から何十億ものナチュラルキラー細胞を、2-3週間で培養することができます」とLee医師は述べた。

【図中語句訳】
Peripheral blood mononuclear cells 末梢血単核細胞
Deplete contaminating T cells 混在するT細胞の除去
Restimulate every 7 days 7日毎に刺激
Co-culture with K562 aAPC  K562(慢性骨髄性白血病由来細胞株) aAPC(抗原提示細胞)と共培養
Numerically-expanded NK cells NK細胞数の増加
Purified-expanded NK cells 増殖NK細胞の精製
Infuse,test,cryopreserve 注入、試験、凍結保存Key
Core transgenes 導入コア遺伝子
Membrane-bound Cytokine 膜結合サイトカイン
NK cell NK細胞
Other lymphocytes or monocytes 単球または他のリンパ球
K562

【図の原文ページへ】

MDアンダーソンで開発された生体外ナチュラルキラー細胞の増殖技術。末梢血から得た単核細胞を放射線照射で刺激し、ナチュラルキラー細胞を増殖させる。その後、T細胞を除去し、精製したナチュラルキラー細胞をヒト慢性骨髄性白血病細胞K562から得た抗原提示細胞と人工的に共培養する。aAPC:人工抗原提示細胞; NK:ナチュラルキラー。Denman CJ, et al. PLoS One. 2012;7:e30264. © 2012 Denman et alより作図

Lee医師の研究室で開発された生体外ナチュラルキラー細胞増殖法では、膜結合型インターロイキン-21を発現している人工抗原提示細胞を用いる。この方法を用いると、培養後3週間で現在のところ他のどの方法よりも大量のナチュラルキラー細胞を増殖させることができ、最終的にナチュラルキラー細胞を99%以上の濃度で獲得できる。MDアンダーソンでは、血液腫瘍、脳腫瘍、その他固形がんの患者を対象としたナチュラルキラー細胞による第1相臨床試験をすでに開始している。

治療の受けやすさ

ナチュラルキラー細胞療法の場合、がんに対して選択的に作用する可能性が高いことに加えて、おそらく他の免疫細胞療法よりも採取しやすい。特定の腫瘍を認識するT細胞を選択または操作する必要のあるT細胞療法とは対照的に、ナチュラルキラー細胞にはすでにがん細胞を認識するレセプターが存在している。「一人ひとりの患者に適合するナチュラルキラー細胞を一つ一つ選択する必要はないのです」と、Lee医師は述べる。さらに、現在までのエビデンスによれば、ナチュラルキラー細胞はどのがん種に対しても有効であることが示されている。したがって、ナチュラルキラー細胞はがん種ごとに生産方法を変えることがなく、オーダーメイドの細胞療法よりもコストがかからないとみられる。

実際、Lee医師によれば、ナチュラルキラー細胞はおそらく普通の献血から採取することができる。「現在、血液バンクでは通常の献血1回で得られる血液量1パイント(約473 ml)に含まれる白血球は廃棄しています」と同氏はいう。「しかし、その廃棄される白血球を使って、ナチュラルキラー細胞の大量増殖に利用できることを私たちは突き止めました。日常的に捨てているものがむしろ臨床上重要な物質となるかもしれないのです。白血球を廃棄に追いやらず、処理しさえすればいいのです」。

ナチュラルキラー細胞を採取し、効率的に用意することができるなら、そのときにはナチュラルキラー細胞療法はがん患者がいつでも受けやすい治療法となるとみられる。来る1件の固形がんに関する試験では、ナチュラルキラー細胞を血液バンクの血液を用いて生成し、凍結保存後、いつでも解凍して患者へ注入できる在庫製品のように取り扱うことが実現可能か検討する予定である。

MDアンダーソンで開始しているナチュラルキラー細胞に関する試験では、大半が末梢血由来のナチュラルキラー細胞を使用しているが、Shah医師は臍帯血から採取したナチュラルキラー細胞を増殖する方法を最適化している。研究では、Shah医師はMDアンダーソンにあるElizabeth Shpall 医師主導の大規模な臍帯血バンクを活用した。「臍帯血バンクを活用するメリットは、すでに冷凍庫の片隅に集められている点で、誰も採血の手順を踏まなくてよいのです」とShah医師は述べる。

さらに、臍帯血のナチュラルキラー細胞を増殖させる新たな人工抗原提示細胞の利用により、ナチュラルキラー細胞療法に十分な細胞数をわずか2週間で増殖させることができる。「これまでも臍帯血からナチュラルキラー細胞を増殖させていましたが」とShah医師は続ける。「ここまで早く確実ではなく、われわれが臨床の現場で利用できる方法とはいえませんでした」。

Shah医師は、多発性骨髄腫患者を対象に、臍帯血由来のナチュラルキラー細胞を高用量化学療法後の自家幹細胞移植と併用投与する第1相試験を主導している。したがって、この試験の患者は同種幹細胞移植を受けずに同種免疫療法を受けることになる。

多様性

ナチュラルキラー細胞では、治療効果を得るのにレシピエントと一致させる必要性はない。実際、ある種の主要組織適合性抗原(MHC)がドナーとレシピエント間で一致していないほうが、MHCが一致しているよりもナチュラルキラー細胞療法の効果が高くなった。HC不一致骨髄移植を受けた血液腫瘍患者を対象とした試験では、ある種の不一致がナチュラルキラー細胞療法の有効性および生存期間延長の予測因子となった。さらに、ナチュラルキラー細胞機能に影響を及ぼす遺伝子の遺伝が個人毎でさまざまに異なるため、好ましい免疫遺伝形質を持ったドナーが、特に有効なナチュラルキラー細胞を持つソースとして指名される可能性がでてきた。

加えて、ナチュラルキラー細胞療法は、静脈内注入というよりむしろ直接的に腫瘍部位に送達できる可能性がある。最近MDアンダーソンで承認された試験では、脳腫瘍患者において患者自身のナチュラルキラー細胞を増殖させ、脳腫瘍の切除部位に注入する。この試験は、ナチュラルキラー細胞が脳腫瘍を認識できるが、血液脳関門によって腫瘍部位に送達されないとした仮説を検証するものである。

未解決の問題

同種ナチュラルキラー細胞は、それが新たな人工抗原提示細胞を用いて増殖させたものであっても、注入後の寿命が短い可能性がある。「T細胞と同様にナチュラルキラー細胞も腫瘍に反応して体内で増殖するかどうかは不明なのです」と Lee医師は言う。白血病患者がT細胞療法を受ける場合、適切な状況下であればT細胞数は腫瘍細胞数を上回るが、ナチュラルキラー細胞療法を受ける患者では細胞数を維持するために複数回の注入などの手段が必要となるであろう。

ナチュラルキラー細胞療法がレシピエントにとってどれだけ忍容性があるかも不明で、この治療に禁忌とされる患者特性はまだ特定されていない。ナチュラルキラー細胞の注入は移植片対宿主病を起こさないと思われるが、同種ナチュラルキラー細胞の注入は、なお免疫機能の刺激に関連する有害作用があるかもしれない。有害作用には、自家反応、発熱、血管からの漏出、または低血圧などが考えられる。ただし、こうした有害作用はMDアンダーソンで実施されているナチュラルキラー細胞療法関連のいずれの試験でも認められていない。来るMDアンダーソンで実施予定の第1相試験では、引き続きナチュラルキラー細胞療法に対する患者の忍容性を検証する。

今後の動向

ナチュラルキラー細胞は同種幹細胞移植よりも有害作用が少ないものの、特定の腫瘍マーカーを標的とするT細胞に比べて特異性も低い。ある種の腫瘍を認識するようナチュラルキラー細胞を操作すると、ナチュラルキラー細胞療法の効果が高まる可能性がある。Shah医師のグループは現在、ナチュラルキラー細胞を骨髄腫細胞の抗原を標的とする操作方法を試験中である。

他にも患者自身のナチュラルキラー細胞を預けておき、化学療法後に再注入する方法も考えられている。Lee医師は、「長い間、患者ががんを患った場合、患者自身のナチュラルキラー細胞はもはや有効でないに違いないと私たちは考えてきました。すなわち、ドナーから得られたナチュラルキラー細胞のほうが有効だろうと。しかし今では、十分な細胞数で、または適切な部位に送達されれば、患者の細胞は依然として有益であると確信するだけの根拠があるのです」。

ナチュラルキラー細胞療法については他にも、特定のドナーを探したり、個別に治療をアレンジしたりするというよりむしろ、臨床医が保管しておき、必要な時に利用できる製品の創出が可能になるかもしれない。ナチュラルキラー細胞は存在する末梢血バンクおよび臍帯血バンクに由来するため、きわめて大量に比較的速く増殖させることができ、必要な時まで凍結させておき、あらゆる種のがん細胞治療に利用できる・・そんなシナリオも間近に迫っていそうである。

— Sarah Bronson

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翻訳担当者 武内優子、樋口 希

監修 田中謙太郎(呼吸器・腫瘍内科、免疫/テキサス大学MDアンダーソンがんセンター)

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