ブリナツモマブは一部の小児白血病(ALL)の初回治療として化学療法の効果を高める

免疫療法薬ブリナツモマブ(販売名:ビーリンサイト)は、急性リンパ性白血病(ALL)の一部の患者にとってすでに標準治療薬となっている。大規模な臨床試験で良好な結果が得られたことから、この薬は今後、この病気に罹患する多くの小児患者に対する標準的な初回治療薬の一部となることが期待されている。 

NCIの支援を受けた本試験には、新たにB細胞急性リンパ性白血病(ALL)と診断された1歳から10歳までの小児1,400人以上が参加した。患児は全員、標準リスクALL、つまり、初回治療後に腫瘍が再発する可能性を高めるような特性のない腫瘍であった。B細胞性ALLと診断される小児の約60%が標準リスクALLである。

試験において、ブリナツモマブと標準化学療法レジメンの併用治療を受けた小児は、化学療法のみを受けた小児と比較して、無病生存率が大幅に向上した。追跡期間の中央値2.5年時点で、両群の無病生存率はそれぞれ96%、88%であった。

無病生存期間とは、治療開始後、がんの再発、二次がんの診断、または死亡のいずれかが生じるまでの期間である。この試験で無病生存期間が改善した主な要因は、ブリナツモマブを投与された小児において再発がはるかに少なかったことであると、本研究分担医師であるRachel Rau医師(シアトル小児病院)は説明した。

Rau医師は12月7日、米国血液学会(ASH)の年次総会でこの研究結果を発表した。研究結果は同日、New England Journal of Medicine誌に掲載された。

Rau医師は、化学療法へのブリナツモマブ追加は、「標準リスクALLのほとんどの[小児]にとって新たな標準となる」と述べ、治療は安全でもあると報告した。副作用のほとんどは軽度で、標準的な方法で管理できるものだった。

これらの新たな結果と、2024年6月のFDAによるブリナツモマブ拡大承認により、この薬は、この病気の患児の多くにとって、頼れる初回治療の一部となるはずだと、NCIがん治療・診断部門のMalcolm Smith医師は説明した。

しかし、Smith医師は、予後良好と診断された小児への使用は推奨されないと警告した。これらの小児は標準化学療法だけで治癒する可能性が非常に高いため、ブリナツモマブの追加で「得られるかもしれない利益」は極めて小さいと同医師は続けた。

標準リスクALLの小児患者の治癒率の改善

B細胞性ALLは最も一般的な小児がんであり、治癒率は小児がんの中で最も高く、約90%である。しかし、この数字は20年近くほとんど変わっていないと、小児血液腫瘍治療の専門家であるAndré Baruchel医師(パリ、ロベール・ドブレ大学病院)は説明する。

この高い治癒率は「昔からある薬、その大半が1970年代半ばから利用可能だった薬の利用で」得られたものだと、Baruchel医師はASH会議での本試験結果を発表した際に語った。

進歩がないのは努力が足りないからではないと彼は強調する。過去20年間の多くの試験では、薬剤を追加したり、薬剤の投与量を増やしたりして治療をより集中的にするなど、さまざまなアプローチが試みられてきた。しかし、そうしたアプローチは「うまくいっていないようだ」と彼は述べた。

ブリナツモマブは、二重特異性T細胞誘導抗体として知られる免疫療法薬の一種で、B細胞性ALLの小児において無再発生存期間を延長することが確認された初の免疫療法薬である。ブリナツモマブは当初、約10年前にB細胞性ALLの治療薬として承認されたが、最近まで、その主な適用は疾患が再発した患者を対象としていた。

標準リスク疾患の小児においては長い間、さまざまな治療段階(導入および維持療法など)を通じて多剤化学療法が標準初回治療であった。

しかしRau医師によれば、化学療法薬が主力薬として使われてきた年月はあまりに長すぎるという。

化学療法で達成できることは「限界に達している」と同医師は言う。「何らかの変革を遂げるには、化学療法とはまったく異なる作用をし、化学療法の副作用をこれ以上悪化させない薬剤が必要である」と続けた。

高リスクB細胞性ALLを患う小児および成人における有効性と、腫瘍細胞を殺すために免疫系を動員する作用を考慮すると、ブリナツモマブは要件を満たしている、とRau医師は述べた。

ブリナツモマブは再発が少なく、安全性の懸念はない

本臨床試験AALL1731は、NCIが資金提供しているChildren’s Oncology Group (小児腫瘍グループ)が実施しており、米国全土のほか、カナダ、オーストラリア、ニュージーランドの病院で治療を受けた小児を対象とした。また、ブリナツモマブの製造元であるAmgen社とセント・ボールドリック財団も一部資金を提供した。

参加者の年齢中央値は約4歳であった。参加者は全員、標準リスクのB細胞性ALLを患っており、標準化学療法に基づく導入療法および地固め療法を受けていた。その治療に対する患者の腫瘍の反応の仕方に基づいて (骨髄に残っている腫瘍細胞、すなわち微小残存病変(MRD) の評価を含む) 、参加者を再発について低リスク、平均的リスク、高リスクに分類した。

一部の例外を除き、平均的リスクと高リスクの患者を2つの治療群のいずれかに無作為に割り付けた。ブリナツモマブ群の患者の場合、ブリナツモマブによる2サイクルの治療は、地固め療法の完了後に開始される化学療法治療と交互に行われた。ブリナツモマブ治療の1サイクルは、持続点滴静注で28日間を要する。

中間解析と呼ばれる早期の結果検討により、ブリナツモマブと化学療法の併用群の無病生存率が化学療法単独群よりはるかに良好であったため、これ以上の参加者を化学療法単独に割り当てるべきではないことが示され、試験は早期に中止された。

Rau医師は、2群間の再発率の差は大きいと指摘した。例えば、平均的な再発リスクを有する小児患者の場合、3年以内に再発した割合はブリナツモマブ治療群では約2.5%であったのに対し、化学療法群では約10%であった。高リスク患者の場合、これらの数字はそれぞれ約4%、14%であった。

また、ブリナツモマブは、標準治療への奏効不良に関連する遺伝的特徴など、再発リスクを高める要因がある患者においても非常によく効くようである。Rau医師は、これらの知見から、ブリナツモマブは、高い再発リスクと関連付けられてきた、ALLの分子的特徴の多くを「中和する能力がある」ことが示唆されると述べた。

Smith医師は、この結果を踏まえると、いわゆる予後因子の一部は、化学療法のみが標準治療であった時代に決定されたため、「もはや適用できない可能性がある」と述べた。しかし、どの因子がもはや適用できないのか、また「再発リスクを確実に予測できる新たな因子が出現するかどうか」をより理解するには、さらなる研究が必要である。

ブリナツモマブを投与されたほとんどの小児では、サイトカイン放出症候群(CRS)と呼ばれる、重症化する可能性のある免疫関連副作用を含め、重度の副作用はなかった。

ブリナツモマブによる治療を受けている小児については、特に治療開始から数日間はCRSの発症がないか注意深く観察している、とメリーランド大学小児病院で血液腫瘍治療を専門とするTeresa York医師は説明した。

CRSは「敗血症に似ていることがあるため、非常に恐ろしいものです」とYork医師は述べる。「CRSを制御するための実証済みの治療法はありますが、目標はできるだけ早く CRS をみつけることです」と続けた。

28日間の点滴静注への対応

このように診療に変革をもたらす発見があってもなお、未回答の重要な疑問や対処すべき問題は残っているとRau医師は述べる。

短期的視点で最大の課題の1つは、ほぼ1カ月に及ぶ点滴期間であり、これは地方在住の小児など一部の小児にとっては「大きな障壁」となる可能性がある。そのため、ブリナツモマブ治療を可能な限り受けやすくすることが最優先事項となる。

「今回の結果は本当に素晴らしいものですが、ブリナツモマブが奏効する可能性のある患者全員にそれを届けられなければ、私たちの目標は達成できなかったことになります」と彼女は言う。

York医師は、点滴静注開始から数日後、深刻な副作用がない限り、患児は治療終了までの点滴を自宅ですることができると説明した。場合によっては、訪問医療従事者が点滴を手伝うこともできるが、多くの場合、「私たちは親に点滴の管理方法を指導します」と同医師は述べた。

実際、小児腫瘍グループに所属する病院を対象に最近行われた調査では、ブリナツモマブ治療を受けた小児の大半が7日以内に退院し、残りの治療を自宅で受けたと大多数の病院が報告している。しかし、一部の小規模病院では、この薬を投与された患児全員が28日間ずっと入院していたと報告している。

一方、希望もあり、この長時間の点滴静注がまもなく不要になるかもしれない。Amgen社は注射で投与できる薬剤の製剤を開発しており、初期の研究では安全で、点滴と同等の効果があることが示唆されている。

  • 監修 佐々木裕哉(筑波大学/血液内科)
  • 記事担当者 山田登志子
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  • 原文掲載日 2025/02/13

この記事は、米国国立がん研究所 (NCI)の了承を得て翻訳を掲載していますが、NCIが翻訳の内容を保証するものではありません。NCI はいかなる翻訳をもサポートしていません。“The National Cancer Institute (NCI) does not endorse this translation and no endorsement by NCI should be inferred.”】

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