【米国血液学会(ASH24)特別版】ーMDアンダーソン研究ハイライト
MDS、白血病、リンパ腫の新しい治療法や研究成果、有望な長期試験データ、貧血克服のための潜在的標的を特集する
テキサス大学MDアンダーソンがんセンターの研究ハイライトでは、がんの治療、研究、予防における最新のブレークスルーを紹介する。これらの進歩は、世界をリードするMDアンダーソンの臨床医と研究者のシームレスな連携によって可能となり、研究から臨床へ、そしてまた研究へと発見がもたらされる。
本特集では、第66回米国血液学会(ASH)年次総会・学術集会でMDアンダーソンの研究者が行う口頭発表を特集し、血液の悪性腫瘍および疾患に関する新たな知見や進歩を提供する。MDアンダーソンによるASHの全コンテンツはMDAnderson.org/ASHに掲載する。
MDS-RSおよび鎌状赤血球症の前臨床モデルにおいて貧血を克服する新規薬剤(アブストラクト:153)
環状鉄芽球を伴う骨髄異形成症候群(MDS-RS)や鎌状赤血球症などの血液疾患患者は、ヘム制御インヒビター(HRI)経路を含むストレス応答機構を有している。この経路は、ヘモグロビンの基本部分であるヘムが少なくなると活性化される。特に、MDS-RS患者は、赤血球の産生と機能に影響を及ぼす変異を有する可能性があり、貧血を引き起こし、輸血が必要となる。Simona Colla博士とVera Adema博士が率いる研究チームは、バーチャルスクリーニングプラットフォームを用いて、特に強力で選択的な2つの阻害剤を含む、200種類以上のHRI阻害剤を設計・創製した。MDS-RSと鎌状赤血球症の実験モデルにおいて、これらの化合物は赤血球の発達を改善し、貧血を減少させ、ヘモグロビン産生を増加させた。これらの知見は、貧血を克服し、MDS-RSや鎌状赤血球症の患者における輸血の必要性を減らすための、HRI経路を標的とする治療の可能性を示すものである。Adema氏は12月7日にこの研究結果を発表する予定である。
三剤併用療法は高齢のFLT3変異AML患者の生存期間を改善する(アブストラクト:220)
FLT3阻害剤とメチル化阻害剤(HMA)およびベネトクラクス(販売名:ベネクレクスタ)を併用することで、高リスクのサブタイプであるFLT3変異型急性骨髄性白血病(AML)の新規診断高齢患者の予後が改善する可能性が、小規模試験で示された。Nicholas Short医師が主導した臨床試験ではこの3剤併用療法は有望な奏効を示し、92%の患者が完全寛解または不完全寛解に達した。全生存期間(mOS)中央値は28.1ヵ月、3年生存率は46%であり、有望な長期成績であった。RAS経路変異を有する患者の生存率はより低く、再発患者の20%で新たなRAS変異が出現した。全体として、三剤併用療法は、これまで全生存期間中央値がわずか10ヵ月であったFLT3変異AMLの高齢者において、標準治療と比較して優れた転帰を示した。この研究は、この高リスクAML集団の生存率を改善するための実行可能な選択肢として、この治療法を強調している。Short氏は12月7日に最新の知見を発表する予定である。
ルスパテルセプトは低リスクMDSにおいて長期的なベネフィットをもたらす(アブストラクト:350)
COMMANDS試験では、ルスパテルセプト(販売名:レブロジル)投与により、低リスクの骨髄異形成症候群(MDS)のほとんどの患者において、定期的な輸血の必要性が有意に減少することが示された。Guillermo Garcia-Manero医師が主導した本試験の長期解析では、エポエチンアルファ投与群では27.6%であったのに対し、ルスパテルセプト投与群では44.5%が少なくとも1年間輸血を必要としなかったと報告された。特筆すべきは、ルスパテルセプトを投与された患者の30.2%が18ヵ月以上輸血依存性の解消を維持したことである。これらの結果は、環状鉄芽球陰性の患者やベースラインのエリスロポエチン濃度が低い患者を含むサブグループで一貫していた。高リスクのMDSまたは急性骨髄性白血病への進行はまれであり、治療群間で同等であった。これらの結果から、ルスパテルセプトは、エポエチンアルファ非投与の輸血依存性低リスクMDS患者にとって、耐久性があり有効な選択肢であると位置づけられる。Garcia-Manero氏はこの結果を12月7日に発表する予定である。
治療期間の延長と新規薬剤の追加が高リスク白血病患者に有益である可能性(アブストラクト:506)
高リスクの急性骨髄性白血病(AML)および骨髄異形成症候群(MDS)患者は、一般に、幹細胞移植(SCT)後でも予後不良である。ブスルファンベースの治療はSCTの移植前治療としては有効であるが、患者は依然として再発する可能性があり、より効果的な戦略の必要性が強調されている。前臨床研究では、ブスルファン(販売名:ブスルフェクス)とフルダラビン(販売名:フルダラ)にクラドリビン(販売名:ロイスタチン)、ベネトクラクス、チオテパ(販売名:リサイオ)などの追加薬剤を併用することで、白血病細胞を破壊できることが示唆されている。Uday Popat医師が主導した第2相試験では、研究者らはこの併用療法の有効性を調査し、投与期間を数日から3週間に延長した。高リスクのAMLまたはMDS患者49人を対象としたこの試験では、主要評価項目が達成され、超高リスク患者の2年無増悪生存率は61%という有望な結果が得られた。この結果は、本プロトコールがさらなる研究の価値があることを示唆している。Popat氏は12月8日に研究結果を発表する予定である。
単一細胞マルチオミクスプロファイリングによりBCMA標的治療反応に関連する因子を同定(アブストラクト:767)
B細胞成熟抗原(BCMA)を標的とした治療により、再発または難治性骨髄腫患者の状況は変化し ているが、治療法のより適切な順番の決定や、治療反応性を予測するためには、さらなる洞察が必要である。Minghao Dang博士と Robert Orlowski医学博士が主導した研究で、研究者らは 54人の患者から採取した89検体の単一細胞RNAおよびT/B 細胞受容体の塩基配列決定を行い、腫瘍微小環境の細胞および分子特性を明らかにした。その結果、BCMA標的治療への反応に関連する明確なプロファイルが見出された。例えば、奏効例では単球と従来型樹状細胞がより多く存在し、非奏効例ではインターフェロン誘導遺伝子のアップレギュレーションが認められた。これらの観察結果は、治療反応性のメカニズムに関する貴重な洞察を提供し、患者の転帰をよりよく予測するのに役立つ可能性がある。本研究はまた、BCMA標的治療に反応しなかった患者の免疫抑制的微小環境を克服する潜在的標的を浮き彫りにした。Dang氏はこの研究結果を12月9日に発表する予定である。
NPM1変異を伴わない特異的FLT3変異はAMLの生存率低下と関連する(アブストラクト:841)
FLT3チロシンキナーゼドメイン(FLT3-TKD)変異は、新たに急性骨髄性白血病(AML)と診断された患者の8〜10%に認められるが、これらの患者の転帰や予後は不明である。潜在的なリスク因子を明らかにするため、Sankalp Arora医師とNaval Daver医師を中心とする研究者らは、NPM1変異を伴うFLT3-TKD遺伝子変異AML患者とNPM1変異を伴わないFLT3-TKD遺伝子変異AML患者を比較した。NPM1遺伝子変異を合併していない患者の転帰は不良で、全生存期間中央値(mOS)は強力化学療法群で13.8ヵ月、低度強力療法群で4.4ヵ月であった。NPM1遺伝子変異を併発した患者の予後は改善し、強力化学療法によるmOSは未到達(3年全生存率71%)であり、低度強力療法によるmOSは22.9ヵ月であった。同種幹細胞移植は、NPM1遺伝子変異のないFLT3-TKD遺伝子変異AMLの生存期間を改善したが、NPM1遺伝子変異がある場合には明確な生存期間改善効果は示さなかった。 Arora氏はこの結果を12月9日に発表する予定である。
Axi-cel CAR-T細胞療法はリンパ腫において5年間持続する治療成績をもたらす(アブストラクト:864)
ZUMA-5試験では、キメラ抗原受容体(CAR)T細胞療法であるaxi-celが、少なくとも2回の前治療を受けた再発/難治性の濾胞性リンパ腫(FL)および辺縁帯リンパ腫(MZL)患者において、2年後に持続的な奏効を示すことが実証された。Sattva Neelapu医師が主導した第2相試験の長期追跡調査において、研究者らは本治療が5年以上経過した後も持続的な有効性を示したことを明らかにした。無増悪生存期間(PFS)中央値は62.2ヵ月で、50%の患者がPFS中央値60ヵ月に達した。完全奏効を達成した患者のうち、PFS中央値はデータカットオフ時点では未到達であり、58%の患者が寛解を維持していた。60ヵ月時点の全生存率は69%で、半数以上の患者が追加治療を必要としなかった。安全性に関する新たな懸念はなく、4年後にFLで発生した晩期進行イベントは1件のみであった。Neelapu氏は12月9日に結果を発表する予定である。
治療関連骨髄性腫瘍の新しい前臨床モデルにより、潜在的標的が明らかになる(アブストラクト:882)
ある種の化学療法を受けた患者は、時に治療関連骨髄性腫瘍(t-MN)として知られる生命を脅かす合併症を発症することがある。この原因は完全には解明されていないが、TP53変異は症例の25〜40%に認められる。そこで、Rasoul Pourebrahim医学博士率いる研究者らは、t-MNsの生物学的特徴を一貫して再現する新しいTP53変異モデルを開発した。このモデルは、TP53変異を有する造血幹細胞におけるクローン拡大から悪性形質転換への進行を理解するうえで重要なギャップを解決するものである。主な知見としては、染色体欠失の再発、RAS経路遺伝子の変異、DNA修復および細胞周期制御経路のアップレギュレーションなどがある。このモデルはt-MNの発生機序を探求するための重要なツールであり、t-MNを治療または予防するための潜在的な標的に関する洞察を与えてくれる。Pourebrahim博士は12月9日に研究結果を発表する予定である。
Vibecotamabは高リスク白血病および骨髄性疾患に有望性を示した(アブストラクト1007)
芽球細胞(骨髄に存在する異常な血液幹細胞)が関与している白血病やその他の血液がんの患者の多くは、標準治療で初期効果が得られた後に再発する。これまでの研究で、このような芽球細胞のマーカーとしてCD123が同定されており、Daniel Nguyen医学博士、Nicholas Short医師らは、CD123を標的とする新規免疫療法薬であるvibecotamab[ビベコタマブ]を評価した。この第2相試験では、骨髄異形成症候群(MDS)または慢性骨髄単球性白血病(CMML)、および測定可能残存病変(MRD)陽性の急性骨髄性白血病(AML)の2群からなる低芽球性骨髄性疾患患者37人を対象とした。MDS/CMML群では、患者の68%がvibecotamabに反応した。MRD陽性AML患者では、28%がMRD陰性化を達成し、一部の奏効は2年以上継続した。すべての奏効は治療1サイクル目で認められた。今回の結果はvibecotamabの有効性を強調し、このような状況における併用療法の可能性を示すものである。Nguyen氏はこの結果を12月9日に発表する予定である。
- 監修 佐々木裕哉(血液内科/筑波大学血液内科)
- 記事担当者 大澤朋子
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- 原文掲載日 2024/12/ 4
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