再発した白血病、リンパ腫にネムタブルチニブが有望
オハイオ州立大学総合がんセンター
オハイオ州立大学総合がんセンター・アーサーG.ジェイムズがん病院リチャードJ.ソロベ研究所(OSUCCC – James)の研究者らが研究している新しい分子標的薬が、標準治療が効かなくなった慢性リンパ性白血病(CLL)や非ホジキンリンパ腫(NHL)などの血液腫瘍患者の新しい治療選択肢となるかもしれない。
Nemtabrutinib[ネムタブルチニブ]は、ヒトで初めて実施される本臨床試験に参加したがん患者の4分の3に奏効し、重度の副作用は認められなかった。この試験結果はCancer Discovery誌に発表された。
血液専門医でこの研究の責任者のJennifer Woyach医師は、こうしたB細胞腫瘍の治療に使うことができる薬剤は6種類ほどあるという。これらの薬剤は初めはほとんどの患者に奏効するが、時間の経過とともに増悪する患者が多い。
「一次治療後に再発した血液腫瘍は治療が困難になることがあり、有効な治療法を使っても、標準治療の選択肢を使い果たしてしまう患者もいます。本試験によるとネムタブルチニブは、他の治療後に増悪した血液腫瘍患者に対して高い期待がもてそうです」と、OSUCCC – Jamesの白血病研究プログラムの共同責任者であるWoyach氏は語った。
この薬物療法の作用機序
ウイルスや細菌などの抗原が血流中に入り込むと、B細胞で一連のシグナルが発生して抗体が作られる。Woyach氏によると、このプロセスが正常に機能しなくなる人がいるという。B細胞は感染症と戦わずに無制限に分裂しはじめ、がんになる。B細胞腫瘍に対する薬物は、ブルトン型チロシンキナーゼ(BTK)という主要酵素に結合して効果を発揮する。この酵素はシグナル伝達過程に関与する。この薬物がBTK酵素の活性を阻害し、その結果、異常なB細胞が死滅する。
利用可能な薬物を用いても、多くの患者でこの効果は一時的である。時間の経過とともに、それらの薬物が結合したBTK酵素は変異して、薬物が酵素の活性を抑えることができなくなる。そうするとすぐに腫瘍が再発する。ネムタブルチニブは、他のBTK阻害薬の作用を抑える一般的な変異があってもBTKに結合するようにデザインされた。さらに、BTK以外のB細胞腫瘍に重要なたくさんのタンパク質に結合する。この2つの特性があるため、この薬剤はこの患者集団で試験を行う上で非常に魅力的なものとなった。
研究方法および結果
血液腫瘍に対する治療を2ライン以上受けた患者47人に対してこの新薬の試験を行った。被験者の半数以上は再発した慢性リンパ性白血病(CLL)で、それ以外は非ホジキンリンパ腫(NHL)であった。試験期間中、これらの患者にさまざまな用量のネムタブルチニブを毎日1錠投与した。この薬剤に対する患者の反応を観察し、副作用を監視した。
この試験では、この薬剤は75%を超える再発CLL患者で奏効し、最適用量は65 mgであることが明らかになった。この患者の中にはBTK変異がある患者も含まれた。試験中、ほとんどの患者が無がん状態を16カ月以上維持した。患者は全員、化学療法薬によくみられる副作用を経験したが、多くは軽度でコントロール可能であり、この薬剤は安全性も高いことが証明された。
「この薬剤は、より大規模で信頼性が高い試験に移行中です。そうした試験では、他の標準治療薬との比較や、他の有効な薬物療法との併用が検討されるでしょう」とWoyach氏は語った。
米国では、9分間に1人が血液腫瘍で亡くなり、3分間に1人が血液腫瘍と診断される。本試験の対象とした血液腫瘍は、抗体を作ったり感染症と戦ったりするときに働く白血球の一種、Bリンパ球の疾患である。慢性リンパ性白血病(CLL)は最も多い白血病で、成人の白血病の4分の1を占める。また、非ホジキンリンパ腫は米国の全がんの4%を占める。
この臨床試験はMerck & Co.社の100%子会社 Arqule Inc.社の支援を受けた。本試験に参加した他の研究者は、OSUCCC - James のSeema Bhat、Sean Reiff、Elizabeth Muhowski、Lyndsey Szuszkiewicz、Huntsman Cancer InstituteのDeborah Stephens、Sarah Cannon Research InstituteのIan Flinn、ArQule, Inc.社のRonald Savage、Brian Schwartz、Sudharshan Eathiraj、Lindsey Granlund、Feng Chai、Veristat LLCのWayne Wang、Merck & Co.社のRazi Ghori およびMohammed Farooqui、シンシナチ大学医学部のJohn C. Byrdであった。
OSUCCC – Jamesの血液腫瘍の治療および臨床試験について詳しくはこちら。
- 監訳 吉原哲(血液内科・細胞治療/兵庫医科大学)
- 翻訳担当者 粟木瑞穂
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- 原文掲載日 2023/11/06
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