キザルチニブが高齢者を含む白血病(AML)の治療選択肢に加わる

米国国立がん研究所(NCI) がん研究ブログ

悪性度の高い血液腫瘍である急性骨髄性白血病(AML)患者に対する治療選択肢が、米国食品医薬品局(FDA)の新たな承認によってさらに広がった。

 7月20日、FDAはFLT3と呼ばれる遺伝子に特定の変異を有するAML患者の一次治療の一環として、キザルチニブ(製品名:ヴァンフリタ)を化学療法と併用することを承認した。
 
FLT3の遺伝子変異は、AMLと診断された人にはよくみられる。今回の承認の対象となったFLT3遺伝子の変異は、遺伝子内縦列重複(ITD)として知られるもので、AMLと診断された患者の約4分の1に認められる。

FDAの承認は、QuANTUM-Firstと呼ばれる大規模臨床試験の結果に基づいている。この試験には、この特定のタイプのAML患者500人以上が登録され、キザルチニブと標準化学療法を併用した参加者は、標準治療のみを受けた参加者の2倍以上長く生存した(中央値32カ月対15カ月)。試験結果は5月にLancet誌で発表された。
 
また、FDAはFLT3 ITD変異を有する患者を識別するための血液検査も承認した。このような検査はコンパニオン診断と呼ばれる。

 キザルチニブは、まれに致命的な心機能の変化を引き起こす可能性がある。そのため、今回の承認では、リスク評価・緩和戦略(REMS)と呼ばれる、FDAの特別な安全プログラムに則してキザルチニブを処方することが求められている。

 FDAの決定により、キザルチニブはAML患者の一次治療薬として承認された2番目のFLT3標的薬となる。最初の薬剤であるミドスタウリン(Rydapt)は2017年に承認された。3番目の薬剤であるギルテリチニブ(ゾスパタ)もAMLの治療薬として承認されているが、最初の治療後にがんが再発した患者の二次治療にのみ適応となっている。

 AMLの専門家たちは、キザルチニブの承認により、FLT3のITD変異を有するがん患者に重要な新しい選択肢が加わったということで、概ね見解が一致している。今回の試験結果には60歳を超えた参加者が多く含まれており、特に注目に値すると指摘する専門家もいる。AMLと診断される人の半数以上はこの年齢層である。

 対照的に、ミドスタウリンの承認は59歳を超えた患者を含まない試験に基づいている。

 今回の試験の臨床試験責任医師の一人であるデューク大学がん研究所のHarry Erba医師は、高齢の患者を含むFLT3 ITD変異患者にとって今回の承認は「大きな前進です」と述べる。

 治療に含まれる強力化学療法を受けられる十分な健康状態である限り、キザルチニブの追加は「FLT3 ITD陽性AML患者の標準治療になるはずです」と同医師は述べている。

FLT3遺伝子変異を有するAMLを攻撃する

 急性骨髄性白血病(AML)は、非常に悪性度の高い白血病の一種である。FLT3に特定の遺伝子変異があるAMLの場合はさらに困難で、一次治療後にがんが再発する可能性が高くなり、他の治療が効きにくくなる。
 
2017年のミドスタウリンの承認(化学療法との併用)や、早い段階での幹細胞移植により、FLT3遺伝子変異を有するAML患者はかつてよりはるかに長く生存できるようになったと、Amanda Przespolewski医師とElizabeth Griffiths医師は、試験結果に付随するLancetの論説において述べている。
 
FDAによるミドスタウリンの承認には年齢制限がなかった。しかし、60歳以上の使用に関するデータが限られていることから、「ほとんどの患者はこの効果的な追加療法を受けることができないかもしれない」とPrzespolewski医師とGriffiths医師は述べている。

 ミドスタウリンもキザルチニブもFLT3変異を有するがん細胞を標的とするが、キザルチニブはFLT3のITD変異を有するAML細胞を特異的に標的とするよう設計された。一方、ミドスタウリンとギルテリチニブは、TKDと呼ばれるFLT3の別の変異も標的とする。 

キザルチニブの追加により全生存期間が2倍に

キザルチニブを製造する第一三共が資金提供したQuANTUM-First試験には、18歳から75歳までの成人539人が登録された。参加者の約40%は60歳以上であった。多くの参加者は別の遺伝子NPM1にも変異を持っていた。FLT3 ITD変異による悪影響は、患者がNPM1変異も有する場合に最も顕著であるとErba医師は述べている。
 
Przespolewski医師とGriffiths医師は、今回の臨床試験の主任研究者がAML患者を対象とした他の試験と比べて「より現実的な患者集団」を登録したことを賞賛した。

 キザルチニブ群に無作為に割り付けられた試験参加者は、標準的な2段階の治療プロセスの一部として、化学療法とともにキザルチニブを投与された。第1段階は寛解導入療法と呼ばれ、AMLを寛解に導くことを目的とし、第2段階は地固め療法と呼ばれ、寛解を持続させることを目的としている。プラセボ群の参加者には同じスケジュールで化学療法とプラセボを投与した。
 
AML患者の地固め療法では同種幹細胞移植を行う場合がある。FLT3 ITD遺伝子変異を有する患者では、移植を受けるのに十分な健康状態であれば、このような移植は地固め療法としては標準的なものであるとErba医師は述べた。キザルチニブ群でもプラセボ群でも、ほぼ同数の参加者が地固め療法として移植を受けた。

 キザルチニブ群の患者は、さらなる段階の維持療法として、最長3年間薬剤の服用を継続し、がんの再発を予防した。

キザルチニブ群は全生存期間が2倍であったが、この群の中で生存期間の改善が最も顕著であったのは60歳未満の患者であった。
 
しかし、キザルチニブによる治療には他にも臨床的に重要な利益があったと、Erba医師は言う。

 例えば、寛解導入療法と地固め療法後の完全寛解率は両群とも同程度であったが、キザルチニブ投与群では寛解期間が大幅に長かった(中央値38.6カ月と12.4カ月)。
 
また、キザルチニブで治療することで、幹細胞移植の有無にかかわらず、より長く生存することができた。

 最後に、次世代シーケンシングと呼ばれる高度な技術を用いて、完全寛解に至った患者の骨髄中にFLT3 ITD変異を有する白血病細胞がまだ検出可能かどうかを評価した。
 
このような細胞が検出されない場合を微小残存病変(MRD)陰性という。
 
どの治療を受けたとしても、MRD陰性の患者はMRD陰性でない患者に比べて全体的に生存期間が長かった。しかし、MRD陽性群の全生存期間中央値は約27カ月であったのに対し、MRD陰性群では全生存期間中央値を求めるだけの死亡者数が十分でなかったため、どの程度長く生存したかは不明である。
 
この結果は、寛解導入療法後のMRDの状態が、今後の治療方針の決定に役立つ可能性を示唆しているとErba医師は語った。

 テキサス大学MDアンダーソンがんセンターでAMLの治療を専門とするFarhad Ravandi医師(この試験には参加していない)も賛同し、「高感度次世代シーケンサーによるMRD評価は、AMLや他の種類の白血病においてますます重要になってきています」と述べた。

副作用とREMS

キザルチニブ群では化学療法単独群よりも重篤な治療関連の副作用が発症しやすく、特に白血球数の大幅な減少が多かった。また、キザルチニブを投与された患者では、治療開始後2カ月間に死亡した人がわずかに多かった。死亡のほとんどは感染症によるものであった。
 
ミドスタウリンは吐き気や下痢などの消化器系の副作用を引き起こす傾向がある。しかし、QuANTUM-First試験では、キザルチニブによる治療を受けた患者におけるこれらの副作用の発生率は非常に低かったとErba医師は説明した。

 QT間隔延長と呼ばれる心臓に関連する副作用の頻度が、キザルチニブを投与された患者でより高かったため、FDAはがん専門医に、REMSプロセスを経てこの薬剤を処方することを求めている。この副作用は、心臓の電気系統に変化が起こることで、これにより正常な拍動に影響を及ぼす可能性がある。ごく一部の人では、この問題は致命的となる場合がある。

 今回の試験では、重度な状態を呈した患者がキザルチニブ投与群では約2%であったのに対し、化学療法単独群では1%であった。
 
Erba医師は、キザルチニブに関する先行研究では、高用量のキザルチニブを投与された一部の患者でQT間隔の延長がみられたが、QuANTUM-First試験で使用され、FDAに承認された低用量では、このような問題が起こる頻度は低く、起こったとしても、通常はそれほど重度のものではないと述べた。

 REMSプロセスを経ることは「がん専門医がキザルチニブを処方する際の障害になるかもしれません」とErba医師は認める。「しかし、キザルチニブの利益は大きく、REMSの要件を満たすために追加の手順が必要であるとしても、それを凌駕するはずだと確信しています」としている。

どのFLT3標的薬を使うべきか

現在、がん専門医にとっての課題は、どの患者にどのFLT3標的薬を使用するかを判断することである。

 キザルチニブは、腫瘍にFLT3 ITD変異を有する患者の一次治療にのみ承認されている。そして、ミドスタウリンはITDまたはTKDのどちらの変異を有する患者にも使用可能であるが、Ravandi医師によると、日頃AMLを治療しているがん専門医の多くは、ITD変異を有する患者の一次治療としてはキザルチニブを優先的に使用するのではないかとのことである。

 Erba医師は、キザルチニブがITD変異を特異的に標的とすることに加えて、ミドスタウリンよりもキザルチニブが選ばれるもう一つの重要な理由をあげた。それは、ITD変異のある患者が再発する場合、TKD変異の発現が原因であることが多いからである。

二次治療に限定して承認されているギルテリチニブは、TKD変異が原因で再発した場合に留保しておき、「キザルチニブを最初に使用するのは理にかなっています」。

 また、患者がキザルチニブによる維持療法を3年間続ける必要があるかどうかという問題もある。臨床試験において、参加者がキザルチニブの投与を継続した期間の中央値はわずか16カ月であり、そのほとんどは副作用のために中止した。

 Ravandi医師は、維持療法にかかる費用と副作用への対処が「懸念されうる」ことを認めつつも、可能であればキザルチニブを全治療期間継続することを推奨している。

しかし、同医師は、より多くの研究がなされるにつれて「MRD評価が決定要因になるかもしれない」とも述べている。

  • 監訳 佐々木裕哉(血液内科/筑波大学血液内科)
  • 翻訳担当者 成宮眞由美
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  • 原文掲載日 2023/08/15

【この記事は、米国国立がん研究所 (NCI)の了承を得て翻訳を掲載していますが、NCIが翻訳の内容を保証するものではありません。NCI はいかなる翻訳をもサポートしていません。“The National Cancer Institute (NCI) does not endorse this translation and no endorsement by NCI should be inferred.”】

 

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