2012/12/11号◆特別リポート「薬剤抵抗性の白血病に期待される治験薬ポナチニブ」
NCI Cancer Bulletin2012年12月11日号(Volume 9 / Number 24)
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◇◆◇ 特別リポート ◇◆◇
薬剤抵抗性の白血病に期待される治験薬ポナチニブ/【ASH】
ポナチニブ[ponatinib]という治験薬が、他の薬剤に抵抗性になった慢性骨髄性白血病(CML)患者の新しい治療選択肢となるかもしれないと、アトランタで行われた米国血液学会(ASH)年次総会で日曜日に発表された。現在の治療に抵抗性の、一部の急性リンパ性白血病(ALL)患者にもポナチニブが有効である可能性がある。
ポナチニブは変異を持たないBCR-ABL融合タンパクだけでなく、薬剤抵抗性に関わる変異をもつ多くの種類のBCR-ABLタンパクも阻害するように設計された。このタンパクはフィラデルフィア染色体という遺伝子異常により作られ、CMLの特徴である白血球の過剰産生を促進する。
「ポナチニブは薬剤抵抗性のために治療選択肢がなくなった患者に対する治療として非常に良いでしょう」と試験責任医師の一人であり、テキサス大学MDアンダーソンがんセンターのDr. Jorge Cortes氏は述べた。「われわれの試験において、この薬剤は常に高い奏効率を示しました。その中には強力な前治療を受けた患者も含まれます」。
この知見は、再発あるいは治療抵抗性CMLまたはBCR-ABLを発現するフィラデルフィア染色体陽性ALL患者約500人が参加する現在進行中の第2相臨床試験から得られたものである。患者の90%は以前に少なくとも2種類のBCR-ABL阻害剤(イマチニブ[グリベック]、ダサチニブ[スプリセル]、ニロチニブ[タシグナ]など)を投与されていた。
これらの薬剤に対する抵抗性はしばしばBCR-ABLタンパクの変異に起因している。ポナチニブは化学的構造の特徴により、CML患者の約20%で認められるT315Iを含む既知のBCR-ABLの変異全てに対して効果があるようである。
一致する結果
全体でみれば、この新たな結果は同じ研究者らによって最近行われた第1相試験結果と矛盾しないものであった。その試験はNew England Journal of Medicine(NEJM)誌11月29日号で発表されたが、65人のCML患者と5人のフィラデルフィア染色体陽性ALL患者を含む81人の治療抵抗性の血液癌患者が参加した。
両試験において、1日1錠服用するポナチニブによる治療中は、完全な血液学的効果(全ての血球数が正常)を認めた。さらに重要なことに、多くの患者で完全な細胞遺伝学的効果(フィラデルフィア染色体を持つ細胞が検出されない)が認められたと研究者らは述べた。
「第1相試験の間、現在使用できるどの治療でも病気が進行する患者において効果がみられることに興奮しました。治療困難な患者におけるこの薬剤の効果は本当に特筆すべきことです」と共著者でありユタ大学ハンツマン癌研究所のDr. Michael Deininger氏は述べた。
ポナチニブによる副作用には用量依存性の膵臓の炎症があるが、ほとんどの症例でコントロール可能であると研究者らは述べた。他の副作用として発疹があるが、これも多くの場合コントロール可能である。
この結果は「非常に有望」であると、インペリアルカレッジロンドンのDr. John M. Goldman氏はNEJM誌の付随論説においてコメントしている。同氏によればポナチニブは「CMLを治療する最もよい手段になる可能性がある」第3世代チロシンキナーゼ阻害剤である。
新しい治療が必要
米国食品医薬品局(FDA)は現在の治療に抵抗性のCMLまたはフィラデルフィア染色体陽性ALLに対する治療薬としてポナチニブを審査し、2012年12月14日、この適応でポタチニブを承認した。
「CMLに対する現在の治療はとても効果的であるが、長期的には悪化する患者もいる」とCortes氏は述べた。
CML患者の約25%は、イマチニブが無効もしくは抵抗性を示すようになる。抵抗性の多くはBCR-ABLタンパクにおける変異によるものであり、イマチニブが結合できなくなる。これらの患者の約半数は第2世代BCR-ABL阻害剤であるダサチニブやニロチニブで効果が認められる。しかし、導入時にはこれらの阻害剤が有効であった多くの患者は、最終的にはこれらの薬剤に対しても抵抗性になる。
ポナチニブはこれらの弱点を克服するように分子学的にデザインされていたので、臨床的に評価することが魅力的な薬剤でした、とCortes氏は説明した。「この薬剤はわれわれが期待したとおりに作用し、とても効果的でした」。
さらに研究を行い、ポナチニブの効果がどれくらい長く続くのか、また長期使用時に毒性があるのかなどを調べる必要がある。一次治療としてのポナチニブの使用に関するデータはない。しかし慢性期CMLと新しく診断された患者において、ポナチニブとイマチニブを比較する試験が開始されている。
「ポナチニブが認可されれば、ダサチニブやニロチニブによる治療が奏効しなかった患者に対する非常に効果的な治療がすぐにできるようになるかもしれません」とDeininger氏は述べた。
ポナチニブは他にも適応疾患があるかもしれない。この薬剤はBCR-ABLに加えKIT、PDGFRA、FGFR1、FLT3などの多くのチロシンキナーゼを標的とし、これらのタンパクの遺伝子に変異がある腫瘍の治療に役立つかもしれないとGoldman氏は述べた。
「ポナチニブによって、癌に対する分子標的薬を用いた治療の成功に一歩近づくことになるかもしれません」と同氏は結論した。
— Edward R. Winstead
この研究の一部は米国国立衛生研究所により助成を受けている(CA016672)。
【図キャプション訳】
パネルA:ポナチニブ(青色と黄色の球)が標的タンパク(メッシュで表示)の隙間の結合部位にはまり込んでいる。
パネルB:三つ組の結合部(黄色)はポナチニブ(青色)特有の構造であり、これにより他のBCR-ABL阻害剤の限界を克服できる。 [図提供:New England Journal of Medicine誌] 【画像原文参照】
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野長瀬祥兼 訳
吉原 哲 (血液内科・造血幹細胞移植/兵庫医科大学病院) 監修
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