2012/09/04号◆特集記事「ゲノム研究により示されたハイリスク小児白血病の治療」
NCI Cancer Bulletin2012年9月4日号(Volume 9 / Number 17)
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◇◆◇ 特集記事 ◇◆◇
ゲノム研究により示されたハイリスク小児白血病の治療
ゲノム解析ツールを用いて、一部小児で再発するタイプの白血病の遺伝子変化が明らかにされた。先月Cancer Cell誌で報告されたこの知見によれば、これらの若年患者の一部は、現在入手可能であるが、この特定の白血病には用いられていない分子標的薬が有効である可能性がある。
この研究は、急性リンパ球性白血病(ALL)の亜型であるフィラデルフィア染色体様(Philadelphia chromosome-like)ALLを対象とした。このタイプの白血病小児は、他のハイリスクALL小児に比べて化学療法後の再発率が高く、長期生存率が低い。
この亜型が2009年に初めて報告(こちらとこちら)されて以来、それらの約半数を説明しうる遺伝子変化が同定されてきた。この研究に基づき、 聖ジュード小児研究病院のDr. Charles Mulighan氏が主導するチームは、この亜型の患者15人のRNAを分析し、2人のゲノムを解析した。
同氏によると、この結果は「特筆すべき」である。彼のチームは癌と関連する、DNA変異や染色体再編成などの、一群の遺伝子変化を発見した。しかし、これらの変化による生物学的影響は、細胞の成長と増殖に関わる主に2つのシグナル伝達経路に集中するようである。
利用可能な薬剤の活用
「われわれは多様な遺伝子融合を発見しましたが、それらは限られた経路に収束しました」と、この研究の筆者の1人であり、聖ジュード病院のDr. Kathryn Roberts氏は述べた。これらの経路にはABL1、PDGFRB、JAK2等のタンパクが含まれ、細胞成長において役割を果たす。
実験において、これらの経路において成長促進シグナルを阻害するいくつかの薬剤―イマチニブ(グリベック)、ダサチニブ(スプリセル)、ruxolitinib(ルクソリチニブ:Jakafi)など―は、フィラデルフィア染色体様ALLのモデルに対して抗癌作用を示した。
「これらの小児はしばしば予後が非常に悪いので、この知見は重要です」とMullighan氏は述べた。 これらの経路に影響を及ぼす遺伝子変異がある患者が、化学療法と併用して分子標的薬を投与する候補となるかどうかについて今後研究が可能である、と同氏は付け加えた。
全体でみると、ハイリスクALL小児患者は標準治療によって80%以上が治癒する可能性があるが、フィラデルフィア染色体様ALL小児患者が5年後に生存していて、癌がない可能性は約60%である。この亜型は小児ALLの約15%を占め、フィラデルフィア染色体陽性ALLと同様の遺伝子活性パターンを示すが、BCR-ABL1融合遺伝子を持たない。
よりよい診断検査が必要
この新しい結果はTARGETイニシアチブによるものである。TARGETイニシアチブはNCIが助成するプロジェクトで、小児癌やゲノム分析の専門家が集まり、新規もしくは既存の薬剤の標的となりうる遺伝子変化を同定することを目的としている。
「まさにこのような結果を生み出すために、このイニシアチブは設立されました」と、NCIの癌治療評価プログラムに従事し、TARGETイニシアチブのNCIのリーダーであるDr. Malcolm Smith氏は述べた。
「現時点で、これらの知見をどのように広く応用するかについての事例があります」と、Smith氏は続けた。将来必要なことは、特定の分子変化を検出する診断検査の改善と、各変化に適した治療法の開発であると同氏は述べた。
聖ジュード病院において、Roberts氏は診断時にこの亜型のALLを検出する2つの方法を研究中である。1つ目は白血病細胞中で活性化している経路を分析する方法であり、2つ目は遺伝子活性の特徴的パターンを探す方法である。
付随論説を書いた英国のニューキャッスル大学のDr. Christine Harrison氏によれば、これらの検査はフィラデルフィア染色体様ALLの初期検査として活用し、その後この疾患に特異的な遺伝子変異の検査を行えばよいとのことである。
この研究により、フィラデルフィア染色体様ALLは、その遺伝的特徴が定義され、細胞成長に関わる一群のタンパクに影響を与える特徴的な遺伝子変化を持った疾患であることが示されたことを同氏は称賛した。
またこの研究は、癌研究者のゲノム解析ツール利用が増えている中で、その1つの方法を示していると、共著者でコロラド大学所属であり、小児癌グループALL委員会(Children’s Oncology Group ALL Disease Committee)の委員長であるDr. Stephen Hunger氏は述べた。
「最初のステップは、特定の癌の発生を促進する異常を同定することです」と同氏は説明した。「次に、単独もしくは化学療法と併用でその異常に対応した治療を行い、最も少ない副作用で治療結果を向上させるのです」。
「フィラデルフィア染色体様ALLにおける分子学的変化の一部に対する分子標的薬は既に知られていますが、他の変化に対する薬剤も見つけなくてはいけません」とSmith氏は付け加えた。
フィラデルフィア染色体様ALLに対するより完全な理解が必要だと、Mullighan氏は同意した。同氏のチームが分析対象を400人以上の患者まで広げた場合、症例の20%において決定的な病変部位は不明であった。
「その変化が何であるのかを知る必要があり、1つの分析方法だけでは全ての遺伝子変化を拾い上げることはできないでしょう」と同氏は述べた。
小児のフィラデルフィア染色体様ALL研究から得られた知識は、青年や若年成人にも役立てることが可能だろう。この亜型は年齢とともに増えると考えられ、また予後も年齢とともに悪くなる可能性がある。
この研究が公表されて以来、Mullighan氏のもとには、自分の患者がこの新しい方法の候補ではないか知りたい医師からの問い合わせが続いている。研究筆者たちにとって、このことは臨床的に認められた検査法の開発の重要性を強調している。
「われわれは診断時にこれらの患者を同定できる診断検査を開発して、患者が最も適切な標的治療を受けられるようにする必要が本当にあります」と、Roberts氏は述べた。
— Edward R. Winstead
関連記事:「ゲノム研究による小児白血病に対する新たな洞察」(原文)
Roberts氏が知見について語る動画はこちら。
【上段写真下キャプション訳】
ゲノム解析ツールにより癌患者は適切な分子標的薬治療を受けられるようになる。(写真提供:聖ジュード小児研究病院、BMC、Joshua Stokes氏)
【中段写真下キャプション訳】
Dr. Charles Mullighan氏らのチームは、ハイリスク白血病の患者に既存の分子標的治療が有効である可能性を示した。(写真提供:聖ジュード小児研究病院、BMC) [画像原文参照]
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野長瀬祥兼 訳
吉原 哲 (血液内科・造血幹細胞移植/兵庫医科大学病院) 監修
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