BRCA1、BRCA2遺伝子:がんリスクと遺伝子検査

米国国立がん研究所(NCI) ファクトシート

■ BRCA1、BRCA2とは何ですか?

BRCA1、BRCA2とはがん抑制タンパク質を生成する遺伝子です。この遺伝子が産生するタンパク質には傷ついたDNAを修復する働きがあり、細胞の遺伝物質の安定性を確保する役割を持っています。これらの遺伝子のどちらかに変異や組み替えが生じると、このタンパク質が作られなかったり正常な機能が失われたりして、DNA損傷が適切に修復されないことがあります。そうなると、細胞はさらなる遺伝子変異を起こしやすくなり、その結果としてがんを引き起こす可能性があるのです。

BRCA1、BRCA2における特定の遺伝子変異は女性の乳がんと卵巣がんのリスクを特に著しく高め、さらにその他のタイプのがんのリスク増加とも関連しています。遺伝的にBRCA1、2に変異のある人は、ない人と比較して若い年代で乳がんおよび卵巣がんを発症する傾向にあります。

BRCA1またはBRCA2変異は両親のどちらかから受け継ぐことが考えられます。いずれかの遺伝子に変異のある親から生まれた子供には、50%の確率(2回に1回の確率)でその変異を受け継ぐ可能性があります。BRCA1、BRCA2遺伝子に変異がある場合、二本鎖のもう片方の遺伝子が正常であっても、変異の影響を受けます。

■ BRCA1またはBRCA2遺伝子に変異があると、乳がん、卵巣がんリスクはどのぐらい増加しますか?

有害なBRCA1、BRCA2変異を受け継いだ女性では、乳がんや卵巣がん、あるいはその両方を一生のうちに発症するリスクは大幅に高くなります。

乳がん:一般集団の女性の約12%が一生のうちに乳がんを発症します(1)。一方、最近実施された大規模な研究では有害なBRCA1変異を受け継いだ女性の約72%、BRCA2の約69%が80歳までに乳がんを発症すると推定されています(2)。

一般集団の女性と同様、有害なBRCA1、2変異のある女性は乳がんの診断を受けてから何年かのうちに原発性対側乳がんを発症するリスクも高く、最初に乳がんと診断されて20年以内にもう片方に乳がんが発症するのはBRCA1変異の女性が約40%、BRCA2では約26%と推定されています(2)。

卵巣がん:一般集団の女性の約1.3%が一生のうちに卵巣がんを発症します(1)。一方、有害なBRCA1変異を受け継ぐ女性の約44%、BRCA2の約17%が80歳までに卵巣がんを発症すると推計されています(2)。

■ BRCA1、BRCA2遺伝子変異と他のがんとの関連はあるのですか?

有害なBRCA1、2変異を有すると、乳がんと卵巣がんのほかにも、卵管がん(3、4)と腹膜がん(5)などいくつかのがんのリスクが高まります。男性もBRCA2変異や、頻度は少ないがBRCA1変異を有すると乳がん(6)や前立腺がん(7)のリスクが増大します。BRCA1、2変異を有する男女では膵臓がんのリスクが高くなる可能性があります(8、9)。

(FANCD1としても知られる)ある種のBRCA2変異は、両方の親から受け継いだ場合、小児の固形がんや急性骨髄性白血病の発症に関連するファンコニー貧血の一種(FA-D1)を引き起こす原因となる可能性があります(10、11)。同様に、(FANCSとしても知られる)ある種のBRCA1変異は、両方の親から受け継いだ場合、別のファンコニー貧血を引き起こす可能性があります(12)。

■ BRCA1/2変異は特定の人種や民族に多く発生するのですか?

はい。その一例として、米国ではアシュケナージ系ユダヤ人の子孫の有害なBRCA1、2変異率が他の民族と比べて高く、このほかにも世界では、ノルウェー人、オランダ人、アイスランド人などが特定のBRCA1、2変異を高い割合で有しています。

さらに、米国ではアフリカ系、ヒスパニック系、アジア系、非ヒスパニック系白人など個々の人種や民族によって、特定の有害なBRCA1/2変異を有する割合はさまざまであることが限られたデータにより示されています(13、14)。

この質問については、人種や民族に特有の変異が確認できればBRCA1、2変異の遺伝子検査が大いに簡素化できるため遺伝子の集中的な研究が行われています。

■ BRCA1、BRCA2変異を検出するための遺伝子検査を受けられますか?

はい。受けられる検査にはいくつかの種類があり、家族の誰かが遺伝子変異を持っているとわかっている場合などには、特定の遺伝子変異を見つける検査や、1対両方の遺伝子で考えられる変異すべてを調べる検査などがあります。多遺伝子(パネル)検査では次世代シーケンシングを用いて多数の遺伝子から乳がんや卵巣がんのリスクを高めるBRCA1、2変異を含む変異を同時に検出します。

変異を調べるには、通常DNAを血液や唾液から採取する必要があります。サンプルは分析のため検査機関へ送られ、検査結果がわかるまで通常1カ月ほどかかります。

■ BRCA1、BRCA2変異を調べる遺伝子検査を受けるのはどのような人ですか?

有害なBRCA1、2変異を持つ人は全体的に見ても比較的まれであるため、がんではない人を対象に検査を行うのは、本人または家族にBRCA1、2変異の存在が疑われる場合に限るというのが専門家の間でほぼ一致した見解です。

米国予防医学専門委員会(USPSTF)は、乳がん、卵巣がん、卵管がん、腹膜がんを発症した家族がいる女性は、いずれかの遺伝子に変異を有するリスクが高いと考えられる家族歴を有しているかを調べるために診察を受けることを推奨しています(15)。

現在、医療従事者がこの評価を行う上で有用な検査ツールはいくつかあります(15)。以下を含む有害なBRCA1、2変異の可能性が高い家族歴要因を評価します。

50歳までの乳がん診断
 同一女性で両乳房にがんを発症
 同一女性または同一家族のいずれかで乳がんと卵巣がんの両方を発症
 多発性乳がん
 家族のうち1人にBRCA1またはBRCA2に関連した原発性がんを2つ以上発症
 男性で乳がんを発症
 アシュケナージ系ユダヤ人

BRCA1、BRCA2変異の存在が疑われる家族歴を有する場合、がんを発症した家族が存命中で検査の意向を示した場合に、まずその家族当人を検査するのがもっとも有益であるとされます。対象となる家族が有害なBRCA1、2変異を有していると判明した場合、他の家族についても可能性のあるリスクやBRCA1、2変異の遺伝子検査が適当であるかを相談する遺伝カウンセリングを検討してください。

がん患者である家族に有害なBRCA1、2変異が確認できない場合でも、その遺伝子の変異を疑う家族歴があれば、可能な検査について遺伝カウンセリングを検討するとよいでしょう。

生まれたときに養子に出されたなど、家族歴がわからない場合もあります。家族歴不明の女性が乳がんや卵巣がんを早期に発症したり、家族歴不明の男性が乳がんと診断されたりした場合は、本人のBRCA1、2変異について遺伝カウンセリングや遺伝子検査を検討するとよいでしょう。

18歳未満の場合、有害なBRCA1、2変異を疑う家族歴がある場合であっても、遺伝子検査を実施することは専門家の間では推奨されていません。その理由は、小児用のリスク低減策がなく、小児がBRCA1、2変異に関連したがんを発症するリスクは極めて低いためです。

■ BRCA1、BRCA2変異を調べる遺伝子検査を受ける場合は遺伝カウンセラーと面談すべきですか?

一般的に、どの遺伝性がん症候群の遺伝子検査の場合でも、検査の前後には、遺伝カウンセリングを受けることが推奨されています。カウンセリングはがん遺伝学を専門とする医療従事者が行います。通常、遺伝カウンセリングでは検査についていろいろな側面から説明を受けることができます。

本人と家族の病歴にもとづいた遺伝性がんリスク評価については、次のことを話し合います。

遺伝子検査の適切性
 陽性の検査結果と陰性の検査結果の医学的意味
 検査が有益でない、すなわちがんリスクに影響を及ぼす変化が不明である可能性
 検査結果による心理的なリスクと利点
 子供への変異の遺伝リスク
 行われる検査と検査の精度に関する説明

■ BRCA1、BRCA2変異の検査は米国では健康保険に適用されますか。(*米国の保険事情です)

BRCA1、2変異検査を検討している人は検査を受ける前に遺伝子検査の保険内容について確認しておくのがよいでしょう。

医療費負担適正化法(Affordable Care Act)では、すでにBRCA1、2変異に関連するがんと診断されている女性や米国予防医療専門委員会(USPSTF)の検査に対する推奨を満たしている女性については、遺伝カウンセリングおよびBRCA1、2変異の検査を保険適用の予防医療とみなしています。

メディケア(*米国公的保険の一つ)は、乳がんや卵巣がん、その他のがんの徴候および症状が現れている女性についてBRCA1、2変異の検査を保険適用していますが、そうでない女性については適用されません。

BRCA1、2変異の遺伝子検査を販売する企業には、保険未加入で経済的および医学的要件を満たしている特定の患者に対して、無料で検査を実施しているところもあります。

■ BRCA1、BRCA2遺伝子検査結果の意味は?

BRCA1、2遺伝子検査では、陽性、陰性、曖昧または不確実という結果が出ます。

陽性:結果が陽性である場合は、BRCA1またはBRCA2にすでに特定されている有害な変異を遺伝的に有しており、特定のがんを発症するリスクが高まることを意味しています。しかし、この結果では実際にがんを発症するどうか、発症時期がいつであるかはわかりません。例えば、BRCA1やBRCA2に変異を有していても乳がんや卵巣がんを発症しない女性もいます。

検査結果が陽性ということは、生まれてくる次世代も含め家族にとっても健康上および社会的に重要な意味を持つことになります。

有害なBRCA1、2変異を有する場合、男女とも本人のがん発症の有無にかかわらず、その子供たちの世代が変異を受け継ぐことが考えられます。いずれかの親が有する変異を受け継ぐ可能性は子供1人につき50%の確率です。

有害なBRCA1、2変異を受け継いでいるとわかれば、その兄弟姉妹もみなそれぞれが50%の確率で変異を受け継いでいることになります。

陰性:検査結果が陰性である場合は、陽性の場合よりも解釈が難しいことがあります。その理由は、家族歴やBRCA1、2変異を有する血縁者の有無が結果を決める要因になるからです。

検査を受けた本人の近親者(1等親または2等親)が有害なBRCA1またはBRCA2変異を有することがわかっていて、検査結果が陰性であった場合は、本人が家族性がんの原因となる変異を持っていないことを意味しており、変異が子供へ遺伝することもありません。このような検査結果を真陰性と言います。真陰性であった場合、がんを発症するリスクは一般の人と同じであると現在では考えられています。

検査を受けた本人に有害なBRCA1、2変異の可能性が疑われる家族歴がある場合で、正しい遺伝子検査で家族にそのような変異が認められない場合は、明らかな陰性とは言えないという結果になります。遺伝子検査が既知の有害なBRCA1/2変異を見逃した可能性は非常に低いですがゼロではありません。さらに、現在もBRCA1、2遺伝子に新たな変異が発見され続けており、有害な影響を及ぼす可能性のある変異はまだすべて特定されていません。ゆえに、この場合、「陰性」の検査結果が出ても実際にはまだ特定されていない未知の有害なBRCA1/2変異を有している可能性もあるのです。

また、BRCA1、2以外の遺伝子にがんリスクを高める変異が起きている可能性もありますが、BRCA1、2の遺伝子検査では見つけられません。BRCA1、2変異を調べる遺伝子検査を検討している人はこのような検査の曖昧な部分について、検査を受ける前に遺伝カウンセラーと話し合っておきましょう。

曖昧または不確実:遺伝子検査では、ときどき、これまでにがんと関連があると確認されていないBRCA1、2変化が検出されます。このような具体的な遺伝子変化ががんの発症リスクに影響するかどうかは不明であるため、この種の検査結果は「曖昧」や「意義不明の変異」と表現されることがあります。ある研究では、BRCA1、2遺伝子検査を受けた女性の10%がこの曖昧な結果であったことが判明しました(16)。

研究が進み、BRCA1、2遺伝子検査を受ける人が増えるにつれ、このような遺伝子の変化とがんのリスクについてより多くのことが明らかになるでしょう。BRCA1、2の中で起きている曖昧な変化ががんのリスクにとって意味することについては、遺伝カウンセリングを受けるとよく理解できます。時とともに、意義不明の変異に関するさらなる研究が進み、変異が有害か明らかに有害でないかのどちらかに再分類されることも考えられます。

■ 検査結果が陽性であった場合、どのようにがんリスクをコントロールできるのですか?

すでに知られている有害なBRCA1、2変異を有している場合、がんのリスク管理を行う方法として検診の強化、予防的(リスク軽減)切除手術、化学予防などいくつかあります。

検診の強化:遺伝子検査でBRCA1/2変異が陽性の女性は乳がんリスクが平均的な女性よりも早い年齢でがん検診を開始したり、より頻回に検診を受けたりする場合もあります。例えば、有害なBRCA1、2変異のある女性は25~35歳で乳がん検診を受け始めることが推奨される場合もあります(17)。25~35歳を初回として、毎年マンモグラフィを受けることを推奨する専門家の意見もあります。

検診を強化することで、治療が奏効する可能性が高くなる早期のステージで乳がんを発見できる確率が高くなります。

最近の研究では、特に乳がんのリスクが高い女性についてマンモグラフィよりもMRIのほうが腫瘍を検出できることが示されています(18、19)。しかし、マンモグラフィはMRIでは検知できない乳がんを発見できることがあり(20)、またMRIはマンモグラフィよりも特異度が低いのです(偽陽性がより多い)。

アメリカがん協会(ACS)や全米総合がん情報ネットワーク(NCCN)などでは、現在、乳がんリスクの高い女性に対し、マンモグラフィとMRIによる年一回のスクリーニングを推奨しています。

BRCA1、2変異の検査結果が陽性の女性は、医療者に放射線を伴う診断検査(マンモグラフィまたはX線)により引き起こされる可能性のある有害性について相談するべきです。

卵巣がんについては、現在有効な検診はありません。有害なBRCA1、2変異のある女性には、卵巣がんスクリーニングとして、経膣エコー、CA-125抗原を調べる血液検査、診察が推奨されていますが、どれも卵巣がんによる死亡リスクを低減できる早期ステージで卵巣がんを検知できる方法ではないとみられます(21)。有効とされる検診は、対象疾患による死亡率をその方法で減らせることが実証されなければなりません。この基準を満たす卵巣がん検診はまだありません。

BRCA1、2変異を有する男性が、乳がんや他のがんについて検診を受ける利点は明らかではありませんが、変異を有するとわかっている男性に対して、前立腺がん検査に加え、定期的にマンモグラフィを受けることを推奨する専門家の意見もあります。

予防的(リスク軽減)切除術については、予防手術は「がん化するリスクのある」組織をできるだけ取り除くという方法です。乳がんのリスクを減らすために両乳房を除去する選択をする女性もいます(予防的両側乳房切除術)。卵巣と卵管を切除する手術(予防的両側卵管卵巣摘出術)は卵巣がんのリスクを低減する効果があります。(卵巣がんは卵管から発生することがあり、卵巣と一緒に卵管を摘出することが不可欠です。)また卵巣は特定のタイプの乳がんの増殖を促すホルモンを分泌しており、その卵巣を切除することで閉経前女性の乳がんリスクも低減します。

有害なBRCA1、2変異または乳がんの家族歴のある男性が予防的両側乳房切除術により乳がんリスクを低減できるかどうかは不明です。そのため乳がんリスクの高い男性の予防的両側乳房切除術は試験的な手法とされており、通常保険でカバーされません。

予防的切除手術はがんを発症しないと確実に保証できるものではありません。なぜならがん化のリスクのある組織をすべて手術で取り除くことはできないからです。そのためこのような外科手術は「予防的」ではなく「リスク軽減」と表現されることが多いです。リスク軽減手術を受けた後でも、乳がん、卵巣がん、あるいは原発性腹膜がん(卵巣がんに似たタイプのがん)を発症する場合もあります。とはいえ、この手術により死亡率が低下することは事実です。調査によると予防的両側卵巣卵管摘出術を受けた女性の卵巣がんによる死亡リスクは約80%、乳がんによる死亡リスクは56%(22)、全死因による死亡リスクは77%減少しました(23)。

卵巣と卵管切除により乳がんや卵巣がんのリスクが低減するのはBRCA1変異保有者とBRCA2の変異保有者ともに共通しているとされています(23)。

化学予防:化学予防とは、薬剤を用いてがんのリスクを低下させようとする方法です。乳がんリスクの高い女性のリスクを低下させることを目的として、米国食品医薬品局(FDA)は、二種類の化学予防薬(タモキシフェンとラロキシフェン)を承認していますが、BRCA1、2変異保有女性におけるこれらの薬剤の効果はまだ明らかではありません。しかし、外科手術を選択しない、または外科手術を受けられない女性が選択できる治療法となる可能性があります。

3つの研究データから、タモキシフェンが有害なBRCA2変異を持つ女性の乳がんリスクを下げる可能性があることが示唆されていますが(24)、これまでに乳がんと診断されたBRCA1、2変異保有患者のもう一方の乳房にがんが発症するリスクを低減する可能性についても言及しています(25、26)。BRCA1、2変異保有者のラロキシフェンの有効性については特に検討されていません。

経口避妊薬は一般女性とBRCA1/2変異女性の両方で卵巣がんリスクをおよそ50%低減できると考えられています(27)。

■ 乳がんと卵巣がんのリスクを遺伝子検査で調べる利点は何ですか?

検査結果が陽性か陰性かにかかわらず、遺伝子検査を受ける利点はあります。

結果が真陰性であった場合、子供が家族性がんを発症するというリスクがないことがわかることで、将来に対する安心感を得られ、特別な検診や検査、予防的手術を受ける必要がないなどがあります。

結果が陽性であった場合、将来のがんリスクに対する曖昧さを解消することで安心感を得られ、リスクを減らすための予防策を講じるなど、将来について情報を得た上でどう行動するかを決めることができます。さらに、結果が陽性であった場合、医学研究に参加して、結果的に遺伝性乳がんや卵巣がんによる死亡を減らすことに役立てている人もいます。

■ BRCA遺伝子変異の遺伝子検査を受ける上でのリスクはどのようなことが考えられますか?

遺伝子検査を受けるにあたっての直接的な医学的リスクはごくわずかですが、検査結果を知ることは、本人の気持ちや社会関係、経済面や医学的な選択に悪影響を及ぼす可能性があると考えられます。

検査結果が陽性と告げられた人は不安、抑うつ、憤りを感じることもあります。BRCAの変異があることがわかった場合、予防的手術を受けるか、またどのような手術を受けるかなど選択できないこともあります。

検査結果が陰性だった人は、愛する人に発症してしまう病気に自分はそのリスクが高くないことを知ることで「生存者罪悪感」を抱くこともあります。

遺伝子検査は複数の家族にかかわる情報を明らかにするため、検査結果によって生じる感情は家族内に緊張をもたらすことがあります。また、仕事のキャリアや結婚、子供を持つことなど個人の人生の選択にも影響を与えうるものです。

遺伝子検査を受けることでプライバシーや秘密が侵害されるというリスクもあります。しかし、米国では「医療保険の携行性と責任に関する法律」やさまざまな州法により個人の遺伝情報が守られています。さらに、多くの州法に加え「遺伝情報差別禁止法」では、健康保険加入や就労に際して、生命保険や障害者保険、長期介護保険がカバーしていなくても、遺伝情報による差別を禁じています。

最後に、検査結果は正確ではない可能性も少なからずあり、誤った結果に基づいた判断をしてしまうことにもなりかねません。誤った検査結果が出る可能性は低いですが、懸念がある場合は遺伝カウンセリング時に尋ねておきましょう。

■ BRCA1、BRCA2遺伝子変異は、乳がんや卵巣がんの予後や治療にどのような意味を持つのですか?

有害なBRCA1、2変異と関連のある乳がんおよび卵巣がんと、これらの変異と関連のないがんとの臨床上の違いについては、多くの研究が行われています。

変異を有する女性は、そうでない女性と比較して、長期にわたって同側(28)あるいは反対側(2)の乳房のどちらかに2度目のがんを発症しやすいことがいくつかのエビデンスにより示されています。そのため、有害なBRCA1、2変異があり片側乳房にがんを発症した女性では、乳房温存手術が可能でも、両側乳房切除術を選択する人もいます。実際、BRCA1、2変異保有者では、二次性乳がんになるリスクが高いため、早期乳がん患者で、遺伝子のどちらかに変異のある家族がいる場合、診断時に遺伝子検査を受けるよう勧める医師もいます。

また、有害なBRCA1変異を有する女性の乳がんは「トリプルネガティブ」というタイプの傾向があります。これは、腫瘍細胞にエストロゲン受容体、プロゲステロン受容体、HER2/neuタンパクの過剰発現が認められない乳がんで、一般的に他のタイプの乳がんよりも予後が悪いとされています。

BRCA1、2の遺伝子産物はDNAの修復機能に関わるため、これらの遺伝子が有害に変異したがん細胞は、シスプラチンなどDNAを損傷することで作用する抗がん剤に対して感受性が高いと考えられています。PARP阻害剤というDNA損傷の修復を阻害する薬剤が、BRCA1、2変異を有するがん細胞の増殖を抑えることがわかっています。オラパリブ(米国商品名:Lynparza)やルカパリブ(商品名Rubraca)などBRCA1、2変異を有する女性の進行卵巣がんの治療として米国食品医薬品局が承認しているPARP阻害剤がいくつかあります。またオラパリブはBRCA1、2変異を有する女性のHER2陰性転移乳がんの治療として承認されています。

■ 他の遺伝子変異でも乳がんや卵巣がんまたはそのどちらも発症するリスクは増加しますか?

はい。乳がん発症者が複数いる家族のおよそ半分、乳がんと卵巣がんの両方を発症した家族の90%が有害なBRCA1、2変異に起因したものですが、乳がんや卵巣がんまたはその両方を発症するリスクは、他の多くの遺伝子の変異とも関連しています(29、30)。これら他の遺伝子には、カウデン症候群やポイツ・ジェガーズ症候群、リ・フラウメニ症候群、ファンコニー貧血など多くのがんのリスクを増加させる遺伝性疾患に関連したものもあります。

これら他の伝子変異で増加する乳がんリスクはBRCA1、2変異によるものよりも小さいですが、PALB2遺伝子変異がBRCA1、2変異と同じぐらい乳がんリスクの増加に関係していることが報告されました(31)。PALB2遺伝子変異を有する女性の33%が70歳までに乳がんを発症すると推定されています。PALB2変異と相関した乳がんの推定リスクは乳がんの家族歴を有する女性ではさらに高く、70歳までに58%が乳がんを発症するとされています。

最近、乳がんリスクを増加させる遺伝子TP53、CDH1、CHEK2の変異および卵巣がんのリスクを増加させる遺伝子RAD51C、RAD51D、STK11(32)など、乳がんや卵巣がんのリスクを増加させるBRCA1、2以外の遺伝子の変異が明らかになりました。このような変異の遺伝子検査は多遺伝子(パネル)検査の一環として受けられます。しかし、誰が試験を受けるべきか、その他高リスクの変異を持つ人の乳がんや卵巣がんのリスク管理について専門家グループによる具体的なガイドラインは作成されていません。

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翻訳担当者 松長 愛美 / 今泉 眞希子

監修 下村 昭彦(腫瘍内科/国立がん研究センター)

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