更年期に入ったばかりの女性では、ホルモン補充療法はリスクより利点の方が多い可能性がある

キャンサーコンサルタンツ

2012年10月、フロリダ州オーランドで開催された第23回北米閉経学会年次総会で発表された調査結果によると、更年期に入ったばかりの女性に対するホルモン補充療法が、かつて思われたほどに危険ではない可能性がある[1] 。実際、研究者らは、(エストロゲンとプロゲステロンの)併用型ホルモン補充療法が更年期に入ったばかりの女性の症状を緩和し、気分や骨密度、および心血管系リスクに関するいくつかのマーカーを改善する、と結論付けている。

ホルモン補充療法(HRT)は、更年期の女性によく用いられる。更年期は女性のライフサイクルの中の自然な一時期であり、その間に卵巣のエストロゲン産生は著しく減少し、排卵は止まり、月経が終わる。更年期はホットフラッシュ、睡眠障害、うつ、気分変動および不安といった不快な症状を多くの女性にもたらす。加えて更年期では尿路感染の増加、失禁、エストロゲンに基づく潤滑作用欠乏による腟不快感、骨密度の低下も付随して起こる可能性がある。

HRTは更年期の女性に広く用いられてきたが、HRTがある種の癌や他の健康問題の発生率上昇に関与する可能性を示したWomen’s Health Initiative(WHI)試験の結果を受けて、注目されるようになった[2] 。併用型HRTは、乳癌、肺癌、心臓疾患、脳卒中および血栓症のリスク上昇と関連していたが、大腸癌および骨折のリスクは低下させていた。研究者らはHRT使用のリスクと利点を判断するため、単剤型HRTおよび併用型HRTについて評価を続けている。

Kronos Early Estrogen Prevention Study(KEEPS)試験は、42歳から58歳までの健康な女性727人が参加した多施設共同ランダム化試験であり、彼女らは皆、試験参加時点で更年期に入って3年以内であった。この試験は参加者が若い—他の試験では参加者の平均年齢が60代であったのに比べ、この試験では52歳である—ことから、WHI試験などHRTに関するこれまでの多くの試験とは異なっている。

KEEPS試験の参加者たちは無作為に、プラセボ群、プロゲステロンと経口エストロゲンの併用群、プロゲステロンとエストロゲン貼付薬の併用群、の3つのグループのどれかに割りつけられた。プラセボ群に比べ、2グループの治療群双方で、ホットフラッシュや寝汗などの更年期症状が緩和され、性機能や骨ミネラル密度が改善された。さらに経口エストロゲンとプロゲステロンの併用が脂質レベルを改善し、エストロゲン貼付薬がインスリン感受性を改善することが示された。どちらの併用群も血圧を上昇させず、粥状硬化症(動脈硬化)の進行を変化させなかった。

このデータは、HRTの使用について警告を促したWHI試験やその他の試験とは明らかに異なっている。ひとつの試験結果からHRTの使用についての判断を下すことは情報として不十分だが、それらを既存の情報に加えることで、女性たちはより豊富な情報に基づいた決断ができるようになる。

WHIは16,000人の女性が参加した大規模で包括的な研究であり、HRTが血圧上昇、および乳癌、痴呆、脳卒中のリスクの上昇に関係していることを示した。しかしながら、この試験にはHRTを長期間受けた高齢女性(60代や70代)が参加していたため、治療の影響が拡大されたのでは、という批判もあった。対照的に、KEEPS試験はHRT投与が短期間である、より若い女性について評価したものであった。

HRTについての結論はまだでておらず、この治療法の安全性についての評価を試みる調査が継続されている限り、議論は続くものと思われる。結論が出るまでは、この他と異なる内容の試験結果は、HRTの短期使用が更年期に入ったばかりの女性に有効である可能性を示している。実際に、更年期症状を緩和し、コレステロールや代謝機能を改善しているようだ。

HRTの使用を考えている女性は、リスクと利点について、医師と話しあうべきである。

参考文献:

[1] Manson JE, et al. New findings from the Kronos early estrogen prevention study (KEEPS) Randomized trial. Presented at the 23rd Annual Meeting of the
North American Menopause Society, Orlando, Florida, October 3-6, 2012.
[2] Nelson HD, Walker M, Zakher B, Mitchell J. Menopausal hormone therapy for the primary prevention of chronic conditions: A systematic review to update the U.S. Preventive Services Task Force Recommendations. Annals of Internal Medicine. 2012; 157(2): 104-113.


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翻訳担当者 井上陽子

監修 喜多川 亮(産婦人科/NTT東日本関東病院)

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