2008/12/16号◆癌研究ハイライト
同号原文|
NCI Cancer Bulletin2008年12月16日号(Volume 5 / Number 25)
~日経BP「癌Experts」にもPDF掲載中~
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◇◆◇癌研究ハイライト◇◆◇
・早期子宮癌の治療には手術単独治療が最も有効かもしれない
・癌死による経済的影響の評価
・メタ解析により進行乳癌治療の進歩が明らかにされる
・リツキシマブ、慢性リンパ性白血病患者の転帰を改善
早期子宮癌の治療には手術単独治療が最も有効かもしれない
子宮癌のほとんどが、癌がまだ子宮体部に限局している初期段階で診断される。子宮および卵巣の摘出手術に加え、局所再発の予防策として、リンパ節郭清(リンパ節の摘出)や外部照射(EBRT)もしくはその両方を施行する医師もいる。しかし、2008年12月13日付けのLancet誌電子版に発表された大規模ランダム化試験で、リンパ節郭清またはEBRTを追加しても生存期間に改善はみられなかったと報告された。
ASTEC国際臨床試験では、女性患者1,408人を手術群または手術+骨盤内リンパ節郭清群に無作為に割り付けた。さらに、両群の再発リスクが中~高い女性をEBRT群と非EBRT群に無作為に割り付けた。
リンパ節郭清群では、標準手術を受けた女性より、中等度または重度の治療関連副作用を報告する女性が多かった。5年生存率は、標準手術群が81%、リンパ節郭清群が80%であった。
5年無再発生存率は、標準手術群が79%で、リンパ節郭清群は73%であった。両群とも同程度の割合の女性が術後放射線治療を受けていた。これらの研究結果から、「早期子宮体癌女性に対する骨盤内リンパ節郭清は、全生存率または無再発生存率において有効性を示すエビデンスは認められなかった。臨床試験以外の場で、治療を目的とする通常の手法として骨盤内リンパ節郭清は推奨されない」と本試験の著者らは結論づけた。
EBRTの有効性を判断するため、ASTECの第2ランダム化試験の結果とカナダで行われた臨床試験(EN.5)の結果(合計905例)を統合した結果、EBRT群も非EBRT群も同程度の割合の女性が小線源治療を受けていた。同治療法は、いくつかの試験参加施設では標準的治療法の1つとして行われていた。
急性毒性および遅発性毒性のいずれもがEBRT群で多く報告された。全生存率に関しては両群間に差異は認められなかった。5年無再発生存率は、EBRT群が84.7%、対照群が85.3%であった。EBRTは局所再発の防止効果はなかったが、局所のみ再発は全体のわずか35%であった。「中または高リスクの早期子宮体癌の女性に対して、生存率の改善を目的とする標準治療の一つとして、術後EBRTは推奨されない」と著者らは結論づけている。
癌死による経済的影響の評価
2008年12月9日付けJournal of the National Cancer Institute(JNCI)誌電子版に発表された新しい研究によると、癌死による年間生産性の喪失額は、2007年度の米国のGDPの約1%に相当すると推定される。癌患者の介護や家事に関連する生産性コストを含めるとその額は約2倍になる。
早期死亡による喪失労働年数を考慮した『人的資本アプローチ』に基づいたモデルを採用し、バージニア州立大学マッセイがんセンターのDr. Cathy J. Bradley氏らおよび米国立癌研究所(NCI)の研究者らは、2000年の癌死による生産性コストの総額を1,158億ドルと推定した。現在の死亡率に基づいて計算すると、2002年までにはその額は1,476億ドルに達することになる。介護や家事の費用をモデルに組み入れると癌死による生産性コストの推定値は2000年に2,324億ドル、2020年に3,080億ドルと上昇した。本研究の著者らはまた、死亡による生産性喪失の観点から最も負担の大きい、つまり生産性の喪失コストが最も高い6つの癌(大腸癌、乳癌、膵臓癌、白血病、脳腫瘍、肺癌)の死亡率を、2010年から1%減少させれば、経済的負担額は、年間約8億1,400万ドル削減されると算定した。
同号のJNCI誌に掲載されている、NCIの癌制御・集団科学部門・医療サービス・経済学支部のDr. Robin Yabroff氏による姉妹研究では、『支払い意志額法』という異なった方法を用いて癌死の経済的影響を評価した。これは、以前発表された寿命を1年延長する治療法に対する支払い意志額15万ドルを基にした方法である。
人的資本アプローチに基づいた推定コストと比較すると、『支払い意志額』モデルの癌死関連の推定コストは極めて高く、2000年で9,607億、2020年までには約1兆5000億ドルになる。
フレッドハッチンソン癌研究センターのDr. Scott D. Ramsey氏は、付随論説でどちらの研究方法も限界があることを指摘した。だが、これら推定値は、政策立案者が研究の優先順位の決定、現在の投資額評価、または保険会社が補填範囲を決定するのに役立つことを認めた。
メタ解析により進行乳癌治療の進歩が明らかにされる
転移性乳癌に対する非ホルモン療法のランダム化臨床試験は小規模なものが多いため、さまざまな化学療法レジメンや標的療法の延命効果を十分に把握するのは困難であった。この知見の不足を補うために、ギリシアのIoannina大学のDr. John Ioannidis氏らは、化学療法、標的療法、またはその両方のうち、少なくとも2つのレジメンを比較した128件のランダム化臨床試験のメタ解析を行った。その研究結果は2008年12月9日発行のJournal of the National Cancer Institute誌に掲載された。
タキサン系抗癌剤(パクリタキセルやドセタキセル等)を新たな化学療法剤トラスツズマブまたは従来の治療薬と併用した場合、死亡率は最も減少することが明らかになった。他のいくつかの薬剤併用療法および新薬単剤治療は、従来の薬剤による単剤療法と比較するとかなりの延命効果が認められたと本研究の著者らは述べた。これらのレジメンのほとんどが、一次治療でも、それ以降の治療でも同様の有効性を示し、生存期間延長を目的として、いくつかを順番に投与することが可能とみられる。
これらの研究結果を受けて、Dr. Philippe Bedard氏とDr. Martine Piccart-Gebhart氏は付随論説において次のように説明した。「アントラサイクリン系抗癌剤、タキサン系抗癌剤、新規非タキサン系抗癌剤、およびトラスツズマブなどの最新の乳癌治療薬の多くは、単剤、併用にかかわらず、従来の単剤より絶対生存期間を明らかに延長させ、標準的単剤治療では余命1年の患者の生存期間を4.2~12.5ヶ月延長させるであろう。」
「これら数種の新しい薬剤を用いたレジメンは有効性が示されており、それらのうちのいずれかにおいてはほぼ治療効果は同程度です」と著者らは述べている。従って、治療法の選択は、既知の副作用や患者の全般的な健康状態を考慮にいれ、一人一人の患者にあわせて行われるべきであると彼らは結論している。
リツキシマブ、慢性リンパ性白血病患者の転帰を改善
先週、サンフランシスコで開催された米国血液学会議(ASH)において発表された2つの国際第3相試験で、フルダラビンとシクロホスファミド(FC)による標準的化学療法に加えてモノクロナール抗体のリツキシマブ(R)を投与された進行慢性リンパ球白血病(CLL)患者は、FCのみを投与された患者より転帰がはるかに良好であったということが示された。
第1試験は、治療歴のない平均年齢61歳の進行CLL患者817人を対象に実施された。FC投与群とFCR投与群に患者を無作為に割り付け、1サイクル28日間の治療で6サイクル投与した。中央値25.5カ月の追跡調査後、FCR群の完全寛解率は52%であり、それに対しFC群は27%であった。無進行生存率においてもFCR群の方が優れており、2年後の無進行生存率はFCR群が76.6%であるのに対しFC群は62.3%であった。
平均年齢63歳の再発性または難治性CLL患者522人を対象にした第2試験では、患者をそれぞれFC投与群とFCR投与群に無作為に割り付け、1サイクル28日間の治療を6サイクル行った。これらの患者のほとんどがアルキル化剤による単剤治療やプリンアナログ療法、または併用化学療法を過去に受けていた。FCR群では無進行期間の中央値が30.6カ月であったのに対し、FC群では20.6カ月だった。FCR群の寛解率はFC群のほぼ2倍で、それぞれ24%、13%だった。
両試験ともリツキシマブを併用した場合の全寛解率はより優れていたが、白血球や好中球の減少といった副作用は、リツキシマブを投与されている患者に多く見られた。これら副作用の発現は、年齢、性別、腎機能、および患者の相対的な健康状態と相関があった。
「これらの試験結果は、リツキシマブをFCと併用すると、寛解率および無進行生存率のいずれもが改善されることを示唆しているが、シクロホスファミドをフルダラビンに追加することが、CLLの治療の標準的化学療法のプラットフォームにすべきかどうかは言及されていない。」とNCIの癌研究センターのリンパ腫治療部門の所長であるDr. Wyndham Wilson氏は注意を促した。「シクロホスファミドに関連する毒性の高さを考慮にいれ、医師はFCR対RFのリスクとベネフィットをよく検討すべきである。」
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Yuko Watanabe 訳
林 正樹 (血液・腫瘍科) 監修
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