骨盤領域への放射線治療はより多くの副作用をもたらす
子宮頸がんや子宮体がんの放射線治療を受けている女性は、重篤な副作用の発生率がこれまでの認識よりもはるかに高いことが新規臨床試験の結果から分かった。患者と担当医にとって術後療法によってもたらされるであろう利益と有害性についてより正確に評価するために、この情報は有用であるようだ、と研究を主導しているリーダー達は述べている。
本臨床試験はPRO-CTCAE(患者が治療中に経験する副作用の報告に使用できるシステム)が使用された。NCIが開発したPRO-CTCAEは、がん治療において高頻度で認められる78の副作用、すなわち、医学的検査でのみ発見できる副作用ではなく、患者自身が副作用とわかる症状(これらは自己報告しやすい)が捉えられる。PRO-CTCAEにより、患者は副作用の頻度と重症度、ならびに、こうした副作用が日常生活に支障を来す程度を申告できる。
Journal of Clinical Oncology誌2020年2月19日号に掲載された本臨床試験は、骨盤部の放射線治療を受けた患者はオンライン版のPRO-CTCAEを使用して、医療従事者による問診による副作用報告(有害事象共通用語規準 〔CTCAE〕臨床医版に記録される)よりもはるかに高い頻度で副作用を報告していた。実例として、PRO-CTCAEで捉えられた便失禁の発生率は臨床医が記録したものと比較して15倍も高かった。
「PRO-CTCAEもCTCAEも特定のがん治療で発生した有害事象を捕捉するように設計されているため、問題は2つの副作用検出方法のいずれが正当か、という対立的なものではありません」とSandra Mitchell認定診療看護博士(NCIがん管理・集団科学部門、PRO-CTCAEの開発を指揮したが、本臨床試験には不参加)は述べた。
「本臨床試験が示すことは、PRO-CTCAEが患者の症状に関する重要な情報を捕捉し、副作用の重症度決定を行う患者と医療者側の意思疎通の改善に使用できることです」とMitchell氏は述べた。
担当医との話し合いでなかなか言い出せない症状があります。その場合、担当医は『この症状はない』と思ってしまいます」とAnamaria Yeung医師(フロリダ大学、本臨床試験を主導)は述べた。
「患者が特定の治療を受けた際に経験した副作用に関する情報が多くあれば、臨床医はより的確にあらかじめ患者にその準備させることができ、症例によっては予防的な支持療法を提供できます」とMitchell氏は解説した。
「患者の立場でも、何が正常か、何が異常か、また、何が時間とともに快方に向かうのかが分かると、医療に対する信頼がさらに厚くなり、症状に関する恐怖心が軽減できます」とMitchell氏は述べた。
個人のリスク・利益評価
子宮頸がんや子宮体がんの外科手術後、がん再発リスクが高い女性の一部は、骨盤部に対する放射線治療を受けることもある。「放射線治療を受けるかどうかの決断は極めて個人的なものであることが多く、こうした決断の際、患者は治療の副作用の心配事と治療を受けなければ再発するかもしれないということを秤に掛ける必要があります」とYeung氏は解説した。
「このような場合、私が患者に助言することは次のようなことです。放射線治療は癌再発の可能性を低くしますが、放射線治療自身があなたにとって害となる可能性があります。したがって、あなたが決定しなくてはなりません。リスクと利益の双方を考えるのです」とYeung氏は述べた。「しかし、患者は十分な説明を受けた上で選択するために、実際の副作用リスクを知る必要があります」と言い添えた。
骨盤照射を受けた患者が実際に経験する障害をより詳しく理解するために、Yeung氏らは臨床試験を実施した。本臨床試験で、Yeung氏らは子宮体がんや子宮頸がんの再発リスクが高い女性患者250人超を、骨盤に対する強度変調放射線治療(IMRT)群と標準的放射線治療群にランダムに割り付けた。
本臨床試験の主要目的は、5週間の治療期間中に両群の患者が報告した消化管での副作用の比較であった。副次目的は、治療期間中と治療後最長5年間の一定間隔における、患者が報告した副作用と臨床医が報告した副作用の比較であった。
Yeung氏らはPRO-CTCAEを使用して、骨盤照射によって起こり得るいくつかの副作用(腹痛、下痢、便失禁など)に関する参加患者の経験を追跡調査した。医療従事者に対して、ほぼ同じ間隔で追跡調査来院時にCTCAEを使用して、同じ副作用に関する情報を捕捉するよう依頼した。参加患者234人のデータが使用可能であった。
報告における大きな相違
臨床医から収集したデータと直接的自己申告により患者から収集したデータから、IMRT群は標準的放射線治療群と比較して、治療中の疼痛、下痢、および便失禁が少ないことが分かった。症状によるが、両群患者の差は約6週間~3年間で縮小または消失した。
しかし全時点で、患者が報告した症状と臨床医が報告した症状の間には著しい差が認められた。CTCAEを使用した臨床医の報告によると全女性患者の36%がいずれかの時点で腹痛を経験したが、PRO-CTCAEでは全女性患者の80%が何らかの腹痛を経験し、70%は通常の活動に少なくとも何らかの支障をきたす疼痛を経験したと記録された。
下痢の発症率は臨床医の報告では75%、患者の報告では87%であった。しかし、重度の下痢に関しては相違が著しく、臨床医の報告では3%未満、患者の報告では43%であった。臨床医が報告した便失禁の発症率は3%であったが、患者が直接報告した発症率は50%超であった。
このようなことを患者が経験しているなどと、放射線腫瘍医であるYeung氏自身は考えてもみなかった。
「これらの患者で便失禁の発症率がこんなに高いことを知らなかったので、定期的に便失禁に関して具体的に尋ねることはありませんでした。しかし、臨床医は便失禁が高頻度で認められる副作用であることを知ると、それに関して尋ねやすくなるでしょう」とYeung氏は述べた。
「自分で感じた症状をそのまま報告する仕方を教えることにより、あるいは恥ずかしいと感じる症状についても医師が患者と率直に話し合うことができるようになるのです」とMitchell氏は解説した。
「患者の報告に性関連症状の類が認められれば、『性関連症状を報告されたようですが、そのことについて私と話をしますか、あるいはここにいる別の人と話をしますか』と伝えればよいだけです。そのようにして、患者は自ら問題を提示することなく、私たち臨床医は会話の糸口を開くことができます」とMitchell氏は述べた。
より良好な意思疎通の活性化
「医療チームは常にがん治療による副作用を記録する上で、重要な役割を担っています。CTCAEの臨床医版は症状の他に、臨床検査で発見された異常と注射部位での皮膚反応などの識別可能な副作用の客観的計測値を捕捉します。こうしたことを、患者自身は評価・重症度判定できません」とYeung氏は解説した。
「また、患者の報告はより正確にある症状を説明できるだろうが、治療中におけるこうした症状の対処法は、患者さんのケアの目標を考慮しながら、患者さんと臨床チームの間で、誠実で率直な意思疎通をとって実施する必要があります」とMitchell氏は解説した。
「患者が副作用について率直に述べることができるようにするためには、副作用のことを報告したからといって治療法が自分の意見も聞き入れられずに決まってしまうことはない、ということを知っておく必要があります」とMitchell氏は述べた。
「患者にこう言われたことがあります。『重度の倦怠感を報告したからといって化学療法薬の量を減らされるのであれば重度の倦怠感については報告しません』。患者の報告内容は意思疎通と意思決定の共有を向上させるはずです。誰であれ、情報がどのように利用されるかを心配するあまり、正直に話すことを抑えなければと感じるべきではありません。」とMitchell氏は続けた。
このような話の内容は個々の患者のケアの目標によって異なり、再発リスクを低減させるということに比較しての生活の質の重要性はそれぞれの立場で異なるでしょう。(本臨床試験で収集した)類の情報は、意思決定過程において自身がより深く関わるために必要な能力を患者に与えると考えます」とYeung氏は述べた。
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患者からの報告の拡大
NCIが主導するPRO-CTCAE™は現在26カ国語で利用可能で、2020年末までに検証済みの40カ国語以上版が利用可能になる。「私たちはPRO-CTCAE評価システムを使用するに当たっての障壁が何なのかをより詳しく理解するように努めています」とMitchell氏は述べた。
こうした障壁には、過去には言語が含まれていた。また、インターネットへのアクセスが含まれることもある。双方向電話システムなどの患者が症状を報告するための、より低級の技術ではあるが、より利用しやすい方法が検討されている。「こうした電話を利用するシステムは、高齢の方や農村部(の方々)に大いに受け入れられています。他のものと同様、人々の志向、さまざまな資源、生活様式に適合した選択肢を私たちは提供する必要があります」とMitchell氏は述べた。
「多くの利用可能な言語、子供やその養護者が自己申告可能な新規モジュール、およびデータ捕捉用の一連の技術により、ほとんどの人々がPRO-CTCAEを使用できます」とMitchell氏は述べた。
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