ストレスは子宮頸がん患者の死亡率を高める

米国がん学会のCancer Research誌に掲載された研究結果によれば、精神的ストレスは、子宮頸がんと診断された女性患者においてがん特異的死亡のリスクを高めるという。

「がんと診断された患者は、うつ、不安、ストレス反応および適応障害など、ストレスに関連したさまざまな精神的障害のリスクが上昇します」とストックホルムのカロリンスカ研究所、疫学・生物統計学科の博士課程修了後研究者で本研究の筆頭著者であるDonghao Lu医学博士は述べた。「実験的研究および疫学的研究両者の新たなエビデンスは、精神的苦痛が多くのがん種の進行に影響する可能性を示しています」。

本研究では、がん特異的死亡率における子宮頸がん患者に対するストレスの影響を調査した。2002年1月1日から2011年12月31日の間に、スウェーデンで子宮頸がんの診断を受けた4,245人の患者の記録を調べた。スウェーデン患者登録簿に繋がる国民識別番号を使用し、全国規模の病院の退院記録や往診の情報を収集した。この登録簿のデータを用いて、臨床的にストレス反応および適応障害、うつ、不安の3つの精神的障害のいずれかを診断された患者を特定した。

研究者らは、家族の死や重篤な病気、離婚、失業など、ストレスの多い生活上の出来事を経験した患者も特定し、これらの出来事は患者の感情的負担をよりよく反映するとLu 博士は説明した。

またスウェーデンの死因登録簿を用い、子宮頸がんや詳細不明の子宮がんが根本的な死因である女性を特定した。経過観察の期間中、1,392人の患者が死亡し、そのうちの1,005人の死因が子宮がんであった。

全体で1,797人の患者が、ストレス関連の障害またはストレスが多い出来事のいずれかを経験していることがわかった。その様な患者は、ストレスを報告しなかった患者よりも33%多く病気で死亡した。ストレス関連の障害を有する患者は、子宮がんで死亡する割合が55%高く、またストレスのかかる生活の出来事を経験している患者では20%高かった。

Lu博士は、腫瘍の特性、診断の方法、治療の種類とは無関係に、ストレスと子宮頸がんによる死亡リスク上昇には関連があると指摘した。この関連性は、人口統計的グループおよび臨床的特性でも一致していた。

Lu博士は、精神的ストレスと子宮頸がん特異的死亡率の関連性について、いくつかの説明が可能であると述べた。1つは精神的障害に苦しむ女性は、治療法を探すことが少なく、病期が進んでから診断される可能性がある。以前の調査では、生物学的に慢性的ストレスは細胞免疫反応を低下させ、子宮頸がんのような感染に関連するがんの進行に影響を及ぼす可能性があることが示されている。さらに同博士らによる以前の研究では、ヒトパピローマウイルスの発がん性感染を通じて、子宮頸がん発症における精神的ストレスの役割を実証した。

スウェーデンでは一般に、地域の小さな施設ではなく、大規模な大学を拠点にした診療所で、患者対象の精神的サポートを受けることができる。しかし一部では、精神的ストレスに対する認識不足から、多くの患者が精神面のサポートを受けていないと、カロリンスカ研究所、医学検査部門プロジェクトコーディネーターで共同著者であるKarin Sundström,医学博士は述べた。

「私たちの知見は、腫瘍医や婦人科医が再訪問して精神状態を積極的に評価し、子宮頸がん患者の身体面だけでなく、心理面も確認することを支援するものです」Sundström博士は述べた。「もし他の集団や他の国々で承認されたら、精神的スクリーニングと対処は子宮頸がんケアの不可欠な要素と考えられる可能性があります」。

Lu博士は、本研究はストレスと子宮頸がんの予後との関連を示唆しているもので、因果関係を示していると解釈されるべきではないと指摘した。

本研究はthe Swedish Cancer Society, the Swedish Research Council for Health, Working Life, and Welfare, およびthe Karolinska Institutetの支援を受けた。著者らは利益相反を宣言していない。

翻訳担当者 白鳥理枝

監修 朝井鈴佳(獣医学・免疫学)

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