PD-L1とTGF-βを標的とするbintrafusp alfaはHPV関連がんに有効

最近の国際学会で報告された第1相試験の結果によれば、開発中の免疫治療薬は進行性ヒトパピローマウイルス(HPV)関連がん患者の腫瘍を縮小させた。

試験中の薬剤である、bintrafusp alfa[ビントラフスアルファ](M7824とも呼ばれる)は、免疫システムによる腫瘍細胞への効果的な攻撃を妨げる2つの標的タンパク質-PD-L1およびTGF-β-に同時に結合するように設計されている。

試験には43人の進行がん患者が登録され、子宮頸がん、肛門がん、頭頸部扁平上皮がんの患者が含まれていた。大部分(36人)の患者の腫瘍はHPV陽性であった。

全ての登録患者のうち、35%の患者で試験中の薬剤への反応が認められた(腫瘍が縮小した)。4月1日にアトランタで開催された米国がん学会(AACR)年次総会において、NCI研究者は、HPV陽性の36人の患者のうち、39%の患者で反応が得られたことを報告した。

4人の治療効果は18カ月を越え持続し、データ解析時には、15人中11人の効果が持続していた。2人の患者は完全奏効した。

43人の全生存期間中央値は16.2カ月であった。この結果は、HPV関連がん患者を対象とするPD-1またはPD-L1を標的とする免疫チェックポイント阻害薬の過去の臨床試験で得られた9~11カ月の生存という結果に「比べて非常に良好であった」と、アトランタで試験結果を報告したNCIがん研究センターのJulius Strauss医師は指摘した。

Strauss医師は、「この薬はHPV関連がん患者にとって有望な治療薬であり、典型的な免疫チェックポイント治療よりも有効である可能性がある」と述べた。

研究者らは、HPV関連がんの大部分の原因となるHPV16とHPV18を含む様々な発がん性HPV型に感染した腫瘍を持つ患者における反応を確認した。反応を示した患者のがん種は様々で、子宮頚部扁平上皮がん、子宮頚部腺がん、肛門扁平上皮がん、頭頸部扁平上皮がんを含んでいた。

本試験を主導したがん研究センター腫瘍内科長のJames Gulley医学博士は、この薬は「患者の忍容性に優れていた」と述べた。最も一般的な副作用は、発疹と歯肉の軽微な出血であった。

2つの情報伝達経路を標的とする

ある種のHPVの長期間の感染は、子宮頚部、咽喉頭、肛門、直腸、陰茎、膣、外陰茎のがんを引き起こす可能性がある。Gulley博士によれば、HPV関連がんの生態学に関する最近の研究ではPD-L1およびTGF-βの両方を標的とする治療戦略が進んでいる。

PD-L1レベルの上昇はHPV関連がんにて認められている。さらにTGF-βはしばしばHPV関連がんの(HPVに関連しない一部のがん種でも)腫瘍微小環境に存在し、腫瘍の増殖、進行、転移に関与している可能性がある。

Gulley博士は、「TGF-βは免疫細胞が腫瘍に浸潤するのを妨げる役割もありそうだ」と述べ、腫瘍微小環境下でTGF-β量を減少させることで、免疫細胞がその役割を発揮して腫瘍細胞を攻撃することが可能となるかもしれない、と付け加えた。

AACRのセッションで試験の議論をしたテキサス州立大学MDアンダーソンがんセンターのMaura L. Gillison医学博士は同意した。彼女は「TGF-βを標的化することがHPV関連がんに対して有効であり、チェックポイントタンパク質を阻害する効果を増大させる可能性があるという期待は理にかなっている」と述べ、本試験の新しい発見はこの見解を支持するものだと指摘した。

本試験の全生存期間の結果は、「非常に有望である」とGillison博士は付け加えた。

Strauss医師によれば、現在進行中の第2相試験では、免疫チェックポイント治療を受けていない患者、またはチェックポイント治療の途中で進行した患者を含む、HPV関連がん患者のより大きな集団で本剤の検証が行われている。

HPVと関連しないがんにおいても、融合タンパク質は検証されている。例えば、肺がん患者の初回治療として、bintrafusp alfa[ビントラフスアルファ]とペンブロリズマブ(キイトルーダ)の直接比較が進行中である。EMD Serono社によって開発された本剤は、結腸直腸がんやトリプルネガティブ乳がんを含む他のがんの治療薬としても試験中である。

HPV関連がんにおける新薬の試験

Bintrafusp alfa[ビントラフスアルファ]は、NCI研究者らが最初に本剤の試験を開始した2015年以来、世界で実施した第1相試験において10種類の腫瘍にわたる約700人の患者に使用されてきた。

初期の試験の中で、本剤に反応を示した患者は、HPV関連がんを持つ患者であった。この知見にもとづき、NCI研究者らは、TGF-βおよびHPV関連がんに関する科学文献の再評価を実施した。

「われわれは、本剤に反応したHPV関連がん患者で認められた事象の科学的根拠を理解したい」とGulley博士は述べた。研究者らは、とりわけTGF-βの発現は、E6やE7のようなHPVの発がん性タンパク質に由来する可能性があることを学んだ。

「TGF-βが発現すると、タンパク質はT細胞と呼ばれる免疫細胞の活性や腫瘍への浸潤を低下させるなど、免疫システムへの有害な変化を引き起こす可能性がある」とGulley博士は述べた。

しかし、AACR総会で発表された第1相試験の患者から得られた血清サンプルを研究者らで検査した結果では、TGF-βのレベルは検出できなかった。「基本的に治療中の患者の血清サンプルにはTGF-βが含まれていない」とGulley博士は述べ、本剤はタンパク質を捕捉して腫瘍微小環境から取り除いているのであろうと指摘した。

「これはPD-L1とTGF-βを標的とする最初の融合タンパク質であり、臨床化を目的としている」とGulley博士は続けた。「そして多くの人々がこの研究に関心を持っている」。

翻訳担当者 沼田理

監修 山崎知子(宮城県立がんセンター/頭頚部内科)

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