試験的スクリーニング検査により子宮内膜がんと卵巣がんの検出が可能
試験的スクリーニング検査により、一部の子宮内膜がんおよび卵巣がんを、早期により治療可能な段階で検出できることが研究で明らかになった。PapSEEK(パップシーク)というリキッド・バイオプシー(液体生検)の一種は、がんに関連するDNAの変化を、通常のパップテスト(細胞診)で採取された体液から得られたDNAで検出できる検査である。
がんの診断を既に受けた患者からパップテストで採取した検体を用いたところ、PapSEEKにより、子宮内膜がん患者のほとんどと、卵巣がん患者の3分の1で、がんが正確に検出されたことが、米国国立がん研究所(NCI)の資金提供による本試験で示された。がんを正確に同定する能力(感度)は、血液や他の組織から採取したDNAの検査を組み合わせた場合に改善された。
この知見は、早期子宮内膜がんと卵巣がんに対する有効なスクリーニング検査を開発するための「優秀なスター」であり、「将来の研究の礎となるだろう」と、NCIがん予防部門のSudhir Srivastava博士・公衆衛生学修士は述べた。同博士はこの試験に関わっていない。
この後ろ向き試験は3月21日のScience Translational Medicine誌に掲載された。未診断のがんをPapSEEKが正確に同定できるか否かの判断には、さらに前向き試験が必要であると、研究者らは付け加えた。
卵巣がんおよび子宮内膜がんのスクリーニング検査
無症状の早期子宮内膜がん・卵巣がんの検出において最適でかつ信頼性のある方法を開発するために、長年、研究の努力が重ねられてきた。現在のところ、侵襲性のない方法で検出でき、有効性が臨床的に確認されたバイオマーカー(生物学的指標)は、いずれのがんに対しても見つかっていない。
しかし、ジョンズホプキンス大学医学部のNickolas Papadopoulos博士らによる先行研究で、パップテストの検体に存在する子宮内膜がん・卵巣がん由来の微量のDNAを検出できることがわかった。パップテストでは、パップブラシという器具で子宮頸部の表面をこすり、細胞とDNAの検体を採取する。検体中のDNAは、ほとんどが子宮頸部細胞由来のものであるが、子宮内膜がんと卵巣がんの腫瘍からもDNAが遊離し、子宮頚部にまで到達することがある。
これらの知見に基づき、研究チームはPapSEEKを開発した。この検査は、パップテストの検体を解析し、子宮内膜がんおよび卵巣がんでよくみられるDNA変異の有無を調べる。また、この検査では、異数性(細胞の染色体数に異常が認められる、がん関連の遺伝子変化)も検出される。
パップテストでがん患者から採取した検体を、PapSEEKを用い解析したところ、子宮内膜がんは81%の患者に、また、卵巣がんは33%の患者に、がん関連の変化が特定された。変化は、子宮内膜がんは早期がんよりも進行がんで多く検出され、卵巣がんは、早期がんと進行がんとでほぼ同等の比率で検出された。
また、PapSEEK検査の疑陽性結果は、がんを発症していない女性でわずか1.4%であり、「PapSEEKは特異度が高い」ことが示されたと、研究者らにより報告された。
PapSEEKの感度を高める
検査の感度を上げるため、研究者らは、子宮内膜がん・卵巣がん部位により近い位置で検体を採取するようにした。米国食品医薬品局により承認された子宮内膜がん診断用器具タオブラシを用い、子宮内膜から体液検体を採取し解析した。
その結果、子宮内膜がん患者からタオブラシで採取した検体の93%(進行子宮内膜がんでは98%)で、また、卵巣がんでは45%で、がん関連の変化が認められた。
がんを発症していない患者からタオブラシで採取した検体からは、がん関連の変化は検出されなかった。これはスクリーニング検査として「理想的」な特性であるとSrivastava博士は述べた。
卵巣がんと子宮内膜がんは、腫瘍の位置が子宮頸部よりも子宮体部により近いため、タオブラシでの検体のほうがパップブラシでの検体よりも検出感度が高かったのかもしれないとPapadopoulos博士は述べた。同博士によると、事実、タオブラシでの検体のほうがパップブラシでの検体よりも子宮内膜腫瘍・卵巣腫瘍のDNAが多く含まれることが明らかになっている。
腫瘍から遊離したDNAやがん細胞は、血流内にも入る。卵巣がん患者の血液検体でのPapSEEKの感度は43%であった。しかし、同一患者の血液検体でのPapSEEK検査結果とパップテストでのPapSEEK検査結果を組み合わせた場合の感度は、63%まで上昇した。
全体的にPapSEEKの感度が子宮内膜がんよりも卵巣がんで低いのは、いくつかの理由が推定できると、Papadopoulos博士は述べた。
限界として、PapSEEK検査項目のセットに含まれる検出対象の遺伝子変異が、「卵巣がんよりも子宮内膜がんによくみられるものだった」ことがあげられると、Srivastava博士は述べた。事実、子宮内膜がんでは検体の97%で変異が同定されたが、卵巣がんでは80%でしか同定なかった。
ほかに考えられる問題として、体液の種類によっては、すべての腫瘍からDNAが遊離し体液に入るわけではないことがあげられる。パップブラシおよびタオブラシで採取した検体に含まれる腫瘍DNA量の測定では、卵巣がんよりも、子宮内膜がん由来のDNAのほうが多かった。これは、腫瘍の位置によるもの(卵巣がんは、パップブラシ・タオブラシでの検体採取位置からさらに奥に位置している)、あるいは卵巣腫瘍の生物学的特性によるものかもしれないとPapadopoulos博士は述べた。
「考え方を切り替える必要がある。スクリーニング検査の感度が100%未満だからといって価値がないわけではない。重要なのは、がんの早期発見に取り組み、がんであることに気付かずに何もせず手遅れになる人を減らすことだ」とPapadopoulos博士は述べた。
Srivastava博士は、卵巣がんのスクリーニング検査の必要性が大きいことを認めた上で、低感度の検査は「がん発見の機会を逃すことに等しい」と指摘した。さらに疑陽性の結果は、「そこから発生する追加検査のために、過度の身体的・精神的・財政的負担が強いられる。これは考慮すべきことである」と述べた。とは言え、PapSEEKでは疑陽性結果は極めて少ない。
一からのやり直しではない
PapSEEK検査の実用化が検討されるまでには、さらに研究が必要であるが、診療で使用する可能性については、いくつかの理論的利点があるとPapadopoulos博士は述べた。低コスト、非侵襲性、施行が容易な点などである。
「婦人科ではパップスメアが既に実施されており、これと同じ材料を使用するので、新たな種類の検査を導入しようとしているわけではない。検体採取のための器具や手法を新たに作ろうとは考えなかった」と同博士は付け加えた。
Srivastava博士は、PapSEEK検査の将来性を、「十分に実行可能であり、診療にも適している。子宮頸がんのパップテストと同時に検査が可能である」と述べた。
さまざまな体液で行ったPapSEEKテストの結果を組み合わせることで、卵巣がんに対する検査の感度を上げることが可能か否か、臨床試験医師らは引き続き調査する予定である。
Papadopoulos博士らは、別途、CancerSEEK(キャンサーシーク)と呼ばれるリキッド・バイオプシーを開発している。この検査は、血液検体を調べ、8種のがんで発生する遺伝子変異とタンパク質の組み合わせを検出する。
同様の後ろ向き試験でCancerSEEKは卵巣がんに対して98%の感度、1%未満の疑陽性率を示した。PapSEEKと同様に、CancerSEEKが無症状のがんを同定できるか否かを見極めるには、さらに前向き試験が必要である。
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