トラスツズマブ併用で子宮漿液性がんの生存期間が延長

ジョンズホプキンス大学

2018年4月10日

標準化学療法レジメンにトラスツズマブを追加することで、まれなタイプの子宮がん女性の生存期間が延長する。

今回の臨床第2相試験で、HER2/neu変異が子宮がんの個別化治療を導いている。

モノクローナル抗体薬のトラスツズマブ(すでに特定の乳がんを治療するのに使われている薬剤)を、まれなタイプの子宮がん女性の化学療法レジメンに追加すると、腫瘍の成長をより長い期間抑えることができることを、この新しいレジメンの安全性と有益性を調べる小規模臨床第2相試験を実施するジョンズホプキンス病院の研究者らが明らかにした。

この試験の結果は、3月27日の電子版Journal of Clinical Oncology誌にて、印刷版にさきがけ発表された。それによれば、7年間にわたる臨床試験の結果、トラスツズマブによって、腫瘍が進行するまでの期間が4〜8カ月延長した。研究者らによると、この結果は子宮漿液性がんという組織型の新たな国内治療ガイドラインの策定につながる可能性があるという。

子宮漿液性がんは、毎年米国で診断されるすべての子宮内膜がんの10%未満にすぎないが、子宮内膜がんによって亡くなる年間1万人の死因のうち、3分の1以上を占める。このがんは進行が速く、全身に転移を始めるまで症状が出ないことが多い。そのため、標準の化学療法と外科治療によって腫瘍の成長や転移を防ぐことができる期間(無増悪生存期間)の平均はわずか8カ月となっている。

「この腫瘍は急速に大きくなるだけでなく、かなり早い時期にリンパ節や他の臓器に転移する傾向があり、これは女性にとって二重苦になります」とジョンズホプキンス医科大学産婦人科の准教授で、本研究の筆頭著者であるAmanda Fader医師は言う。

Fader医師らは、子宮漿液性がん全体の約30%がHER2/neu陽性であることを見いだした。HER2/neuとは受容体タンパク質のことで、すべての乳がんの約10%で過剰に発現している。トラスツズマブは、HER2/neuに結合してブロックし、腫瘍の成長を抑制し、いわゆる「HER2陽性乳がん」に有効であることが示されている。

Fader医師やエール大学産婦人科教授のAlessandro Santin医師、米国のがん治療センター11機関の共同研究者らは、2011年8月から2017年3月までに参加機関を受診した61人の子宮漿液性がん女性を、標準化学療法レジメン(カルボプラチンとパクリタキセルの併用)を受けるグループか、標準化学療法レジメンに追加でトラスツズマブの投与を受けるグループのいずれかに無作為に割り付けた。41人はステージ3または4の進行がんで、17人は再発がんであった。そして全員がHER2/neu受容体陽性であった。

すべての患者で無増悪生存期間を比較すると、標準のカルボプラチンとパクリタキセルの投与だけを受けた28人で平均8カ月であったところ、トラスツズマブを追加した30人では平均12.6カ月であった。しかし、その差は進行がん患者の41人でより顕著で、トラスツズマブ追加によって、無増悪生存期間の平均が9.3カ月から17.9カ月へと延長した。

「数カ月の改善だとしても、このがんを患う女性にはとても意味のあることかもしれません」とジョンズホプキンスのシドニーキンメル総合がんセンターでの勤務も兼ねるFader医師は言う。

再発した患者では、(トラスツズマブの追加により)無増悪生存期間の平均が6カ月から9.2カ月に延びた。Fader医師の話では、再発した患者は前治療歴が多く、全般的な健康状態が悪いことが多く、腫瘍が変異したり多様性に富んでいたりHER2の発現レベルが異なる場合がより多いことから、進行がんと再発がんの違いに至ったのではないかという。

研究者らによると、生存している女性(現在35人)の追跡調査が継続中で、トラスツズマブが全生存期間に及ぼす影響を増悪後も記録している。一方で、今回の試験結果は米国内の標準治療計画の設定を指揮する組織である全米総合がんセンターネットワーク(NCCN)で採用されるのに十分値するものだと研究者らは続けた。

Fader医師は、今回の知見を確認し、生存期間をさらに延長するためには、今回のトラスツズマブの追加やその他の薬剤の組み合わせについて大規模な試験を行なう必要がある、と注意を促す。そして、トラスツズマブを用いて選択的にHER2/neu陽性の子宮漿液性がんを治療することは、腫瘍や患者の分子的・遺伝的な構成に基づく個別化治療[高精度医療(precision medicine)]というツールを利用する、ジョンズホプキンスや他のがんセンターでの大きな方向性の1つである、と付け加えた。

本論文に関するその他の共著者は以下のとおりである。Dana M. Roque of the University of Maryland; Paul Celano of Greater Baltimore Medical Center; William Lowery of Walter Reed Medical Center; Eric Siegel of the University of Arkansas for Medical Sciences; Natalia Buza, Pei Hui, Osama Abdelghany, Stefania Bellone, Masoud Azodi, Babak Litkouhi, Elena Ratner, Dan-Arin Silasi, Peter E. Schwartz and Alessandro D. Santin of the Yale University School of Medicine; Setsuko K. Chambers of the University of Arizona; Angeles Alvarez Secord and Laura Havrilesky of Duke University School of Medicine; David M. O’Malley and Floor Backes of The Ohio State University School of Medicine; Nicole Nevadunsky of Montefiore Medical Center; Babak Edraki of John Muir Medical Center; Dirk Pikaart of the Penrose Cancer Center–St Francis; and Karim S. ElSahwi of Meridian Health.

本臨床試験はGenentech-Roche社から資金提供を受けた。また、本研究で使用されたトラスツズマブはGenentech-Roche社から提供され、Genentech-Roche社はトラスツズマブ製剤を製造する企業の1つである。

利益相反:Amanda Fader医師は、HERher2阻害薬を製造する別の企業、Merck社の相談役もしくは顧問であったことを公表している。Fader医師は現在、その職位から外れている。

翻訳担当者 筧 貴行

監修 喜多川 亮(東北医科薬科大学病院 産婦人科)

原文を見る

原文掲載日 

【免責事項】
当サイトの記事は情報提供を目的として掲載しています。
翻訳内容や治療を特定の人に推奨または保証するものではありません。
ボランティア翻訳ならびに自動翻訳による誤訳により発生した結果について一切責任はとれません。
ご自身の疾患に適用されるかどうかは必ず主治医にご相談ください。

子宮がんに関連する記事

リンチ症候群患者のためのがん予防ワクチン開発始まるの画像

リンチ症候群患者のためのがん予防ワクチン開発始まる

私たちの資金援助により、オックスフォード大学の研究者らは、リンチ症候群の人々のがんを予防するワクチンの研究を始めている。

リンチ症候群は、家族で遺伝するまれな遺伝的疾患で、大腸がん、子宮...
一部の早期婦人科がんにペムブロリズマブ+化学放射線や抗Claudin6抗体薬物複合体が有益の画像

一部の早期婦人科がんにペムブロリズマブ+化学放射線や抗Claudin6抗体薬物複合体が有益

ESMO 2024で報告された研究により、現在の標準治療に免疫療法を追加することで臨床的に意味のある利益が得られる早期の子宮体がん(子宮内膜がん)(1)および子宮頸がん(2)の新たな患...
子宮内膜がんに対する免疫療法薬(イミフィンジ、キイトルーダ、Jemperli)の選択肢が増えるの画像

子宮内膜がんに対する免疫療法薬(イミフィンジ、キイトルーダ、Jemperli)の選択肢が増える

食品医薬品局(FDA)は、進行子宮内膜がん患者に対する3つの免疫療法薬を新たに承認した。承認されたのは免疫チェックポイント阻害薬と呼ばれる薬剤である。

6月14日に発表された1つ...
子宮頸がん検診のHPV検査は、現行ガイドライン推奨よりも長間隔で安全の画像

子宮頸がん検診のHPV検査は、現行ガイドライン推奨よりも長間隔で安全

HPV検診で陰性の場合、推奨されている5年後ではなく、8年後の検査でも、標準的な細胞診検診と同程度であることが判明した。ヒトパピローマウイルス(HPV)検診の陰性判定から8年後...