ASCOが子宮頸がん検診の受診向上のための世界的推奨を発表

米国臨床腫瘍学会(ASCO)は本日、世界中の女性のがんによる主な死因の1つである子宮頸がんの検診に関する新たな世界的ガイドラインを発表した。本ガイドラインには、世界各国における、検診、陽性の検診結果に対する経過観察、子宮頸がんの前がん病変を認めた女性への治療、に関する科学的根拠に基づく推奨事項が盛り込まれている。

ASCOのガイドラインでは、該当する年齢のすべての女性が、低、中、高すべての医療資源レベルにおいて、子宮頸がんの前がん病変に対する検診を受けることを推奨している。特に、医療資源レベルや医療制度の多様な差異を考慮しつつ、国ごとで差がない、検診の最低基準を定めることを目的としている。

本ガイドラインは、酢酸(酢剤)を用いた頸部視診(VIA法とも呼ばれる安価で簡単な検査法)によって、世界の最貧地域での子宮頸がんによる死亡を減少させる可能性のある2013年の画期的な知見を盛り込んだ、初の世界的検診ガイドラインである。しかし、VIA法については、ほぼすべての子宮頸がんの原因であるヒトパピローマウイルス(HPV)に対する検査までの布石としてのみ用いるべきであることを強調している。

「居住地域にかかわらず、すべての女性が生涯のうち1回以上、有効な子宮頸がん検診を受けるべきですが、残念ながら、それとは程遠いのが現状です」と、本ガイドラインを作成したASCO専門家委員会の共同議長で、インドのムンバイにあるTata Memorial Centerの予防腫瘍学教授であるSurendra S. Shastri医師(医学士)は述べた。「このガイドラインによって、環境にかかわらず、すべての女性が質の高い予防ケアを受けられるようにするという目標に近づくことを願っています」。

子宮頸がんはおおむね予防可能ながんであるが、低所得国では、集団検診やHPVワクチン接種計画が実施されていないことが多い。結果として、世界における子宮頸がんの診断またはそれによる死亡の85%以上が、発展途上国で発生している1。子宮頸がんの予防法および治療法は、国家間だけではなく、各国内の地域によっても異なる。

がん治療および予防を世界規模で改善するというASCOの使命に沿い、本学会のガイドラインは、数々の国際的保健機関と患者支援団体、および学術機関から選ばれた専門家からなる委員会によって作成された。本委員会は、4段階の医療資源レベル(最低限度、限定的、高度、最高度)それぞれにおける、子宮頸がん検診の最低基準をまとめた。これらの区分には、国や地域の財源だけでなく、人材、インフラ、医療サービスの利用しやすさを含む医療制度の頑健さも関連している。

「過去10年間、ASCOは世界規模でがん診療を向上させることに大いに尽力してきました。われわれの最新のガイドラインは、子宮頸がんに至る可能性のある病変を早期発見し世界中でより多くの命を救える確信を得る、という目的を達成するための、重要な一歩を示しています」と、ASCO会長のDaniel F. Hayes医師(ASCOフェロー、米国内科学会名誉上級会員)は述べた。

世界保健機関(WHO)は、2013年に最新の世界的子宮頸がん検診ガイドラインを発表した。ASCOのガイドラインは、WHOの推奨事項を踏まえ、各国の現存資源に基づきすべての国々に対し最低基準を示しており、また2013年のVIAを用いた試験およびその他の最新データも盛り込んでいる。

主要なガイドライン推奨事項

●ヒトパピローマウイルス(HPV)DNA検査は、すべての医療資源レベルでの実施を推奨する。VIA法は、最低限度の医療資源レベルにおいて、HPV検査が利用可能になるまでの、医療サービス能力の向上を補完する布石として用いてもよい。HPV検査およびパップスメア検査(子宮頸部の細胞診)を同時に受けることは、最高度の医療資源レベルでは選択肢の一つではあるが、本委員会は、そのような検査の併用による費用の増加を考慮した場合の付加価値は限定的であると判断した。

●HPV検査では自己採取した検体を用いてもよい。

●検診の推奨年齢および推奨頻度は次のとおりである。

  • 最高度の医療資源レベルでは、25~65歳、5年ごと(生涯で9回以上)
  • 高度の医療資源レベルでは、30~65歳、5年ごとの検診で2回連続陰性だった場合、それ以降は10年ごと(生涯で5回以上)
  • 限定的な医療資源レベルでは、30~49歳、10年ごと(生涯で3回以上)
  • 最低限度の医療資源レベルでは、30~49歳の年齢内で1~3回(生涯で1回以上)

●本ガイドラインには、HIV陽性の女性、最近出産した女性、子宮摘出術を受けた女性それぞれに対する検診の推奨事項も盛り込まれている。

●最低限度および限定的な医療資源レベルでは、HPV DNA検査が陽性だった場合、VIA法を精密検査(二次検査)のために使用してもよい。一次検診として使用されたVIA法の結果が異常だった場合は治療を受けるべきである。その他の医療資源レベルでは、HPV遺伝子型判定、細胞診の両者もしくはいずれか一方を精密検査に使用してもよい。

●精密検査の結果が異常だった女性は、最低限度および限定的な医療資源レベルでは、早急に治療を受けるべきであり、その他の全ての医療資源レベルでは、コルポスコピー(腟拡大鏡検査)を受けるべきである。

●前がん病変(前駆病変)が認められた女性に対して推奨される治療選択肢は、LEEP法、または凍結療法もしくは冷凍凝固療法などの病変剥離治療である。すべての医療資源レベルで、治療後12カ月の経過観察を推奨する。

「われわれは、最低限の検診と経過観察ケアを推奨しており、すべての女性はそれを受けるべきです。これはスタート地点であり、医療資源が許す場合にそれ以上のものを行うべきではないというわけではありません」と、本ガイドラインを作成したASCO専門家委員会の運営委員会のメンバーで、ニューヨークのブロンクスにあるアルバート・アインシュタイン大学医学部の疫学および公衆衛生学教授、Philip Castle博士は述べた。「われわれのガイドラインは、世界保健機関の重要なガイドラインだけでなく、北アメリカおよびヨーロッパの現行ガイドラインに則っており、さらにそれらに基づいています」。

本ガイドラインは、ASCOによる一連の医療資源レベル別ガイドライン3種類のうちの2つ目であり、利用可能な医療資源に合わせた推奨事項が盛り込まれている。本ガイドラインは、がん制御、婦人科腫瘍学、腫瘍内科学、疫学、生物統計学、医療経済学、公衆衛生学、放射線治療の、世界的に著名な専門家からなる委員会によって作成された。本委員会は、北アメリカ、ラテンアメリカ、南アジア、南アフリカと東アフリカ、中国、オーストラリア、西ヨーロッパの専門家、ならびにインドの患者代表で構成された。本推奨事項は、現行のガイドライン、文献、臨床経験を根拠として作成された。全ての推奨事項は、専門家の公式合意を反映している。

「これらの推奨事項は、現在検診を利用できない女性、子宮頸がんの前がん病変や子宮頸がんを発症するリスクが最も高い女性に対する適切な戦略を実行するための指針が盛り込まれているため、女性の健康に対し顕著な影響を与える可能性があります」と、本ガイドラインを作成したASCO専門家委員会の共同議長で、ワシントン州シアトルにあるPATH(Program for Appropriate Technology in Health)の女性のがんに対する上級顧問のJose Jeronimo医師は述べた。「このASCOのガイドラインから最大の利益を得るために、医療提供者や政策立案者の教育が重要となるでしょう」。

本委員会は、最低限度の医療資源レベルや集団検診が現在実施されていない医療環境レベルでは、HPV検査、診断および治療のためのインフラを整備する必要があることも強調している。

本ガイドライン「子宮頸がんの二次予防:米国臨床腫瘍学会 医療資源レベル別臨床実践ガイドライン」は、Journal of Global Oncology誌で本日発表され、www.asco.org/rs-cervical-cancer-secondary-prev-guidelineにて補足資料と併せて閲覧可能である。

本ガイドラインは、国際婦人科がん学会(IGCS)および米国コルポスコピー・子宮頸部病理学会(ASCCP)によって承認されている。

別のASCO医療資源レベル別ガイドラインには、浸潤子宮頸がん女性の治療2、およびHPV予防接種または子宮頸がんの一次予防に関する推奨事項が盛り込まれている(近日発表)。

1. 国際がん研究機関: GLOBOCAN 2012 Cervical Cancer: Estimated incidence, mortality and prevalence worldwide in 2012.
2. Chuang LT, Feldman S, Nakisige C, et al. Management and Care of Women With Invasive Cervical Cancer: ASCO Resource-Stratified Clinical Practice Guideline. J Clin Oncol. 2016 Sep 20;34(27):3354-5.

関連するASCOの資料は次のとおり
・米国臨床腫瘍学会(ASCO)による声明:がん予防のためのヒトパピローマウイルスワクチン接種
・子宮頸がんの手引き

がん専門医、開業医、患者からのASCOガイドラインに対するフィードバックは、ASCO Guidelines Wiki (www.asco.org/guidelineswiki)まで。

翻訳担当者 生田亜以子

監修 喜多川 亮(産婦人科/東北医科薬科大学病院)

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原文掲載日 

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