治療ワクチンにより子宮頸部の前がん病変の一部が消失したことが臨床試験で示される
ジョンズホプキンス大学
要点
・ある臨床試験において、遺伝子操作を行った治療ワクチンを用いたところ、治療ワクチンを投与した女性のほぼ半数で高グレードの子宮頸部前がん病変を消失させることに成功した。
・この治療ワクチンは、免疫系細胞が、前がん状態の細胞やがん性細胞を認識するように遺伝子操作されたものである。
・研究者らは、子宮頸部組織のどの病変が持続性で、やがてがんに進行するかを予想するバイオマーカーの同定に取り組んでいる。
ある臨床試験において、遺伝子操作を行った治療ワクチンを用いたところ、ワクチンを投与した女性のほぼ半数で高グレードの子宮頸部前がん病変を消失させることに成功した。研究者らは、HPVによる前がん病変の治療として、手術に頼らない方法を見つけることを目的としていた。
「前がん病変を有する女性の治療選択肢は全て、子宮頸部の一部を損傷するもので、特に妊娠適齢期の女性に問題となります。弱くなった子宮が原因で、その後早産のリスクの可能性がでてくるのです」と、ジョンズ・ホプキンス医科大学の病理学、腫瘍科学、産婦人科学教授で、Lancet誌に新たに掲載された記事(9月17日)の筆頭著者でもあるCornelia Trimble医師は述べる。「前がん病変が治癒するワクチンは、侵襲的で妊よう性にも影響する手術を避けられる一つの選択肢となる可能性があります」
ジョンズ・ホプキンス大学のKelly Gynecologic Oncology Serviceおよびシドニーキンメル総合がんセンターに所属のTrimble氏によると、CIN2/3と呼ばれる高グレードの子宮頸部病変は、40歳以下の女性に最もよくみられる。この高グレードの子宮頸部病変は、子宮頸がんへ進展する可能性があるため、通常は手術、凍結療法、またはレーザー照射で取り除く。この治療で約80%の女性において前がん病変を取り除くことに成功する、とTrimble氏は言う。それらと比較して進行度が低い病変は低グレード異形成と呼ばれるが、がんに進行するリスクが少なく大抵自然に退行するため、ただちに取り除くことはせず、通常は医師による経過観察となる。
試験で用いた治療ワクチンは、ペンシルバニア大学のDavid Weiner博士によって最初に開発され、免疫細胞が、前がん状態の細胞やがん性細胞を認識するように操作したものである。これらの細胞は、子宮頸がんの原因となるHPV16型、18型の感染に関与するタンパク質で覆われている。腕に投与して用いるこのワクチンは、本試験に資金提供を行ったイノビオ・ファーマシューティカルズが製造した。今回の記事のTrimble氏の共同著者には同社の社員もいる。
2011年から2013年までの間、子宮頸部に高グレードの前がん病変を有すると新たに診断された、18歳から55歳までの女性167人が試験に参加し、ワクチン3回投与の群か、食塩水注射の群に無作為に割り付けられた。米国および他6カ国の、大学病院や民間病院の婦人科など36カ所の医療施設にて、12週間治療を行った。
投与後、投与部位に小さな電気パルスを毎回与えた。電気パルスを受けた近くの細胞に孔が開き、ワクチンが免疫細胞に取り込まれやすくなる、とTrimbleは述べる。
1回以上ワクチンを受けた女性114人のうち、55人(48.2%)に前がん病変の退行、つまり病変の消失か、低グレード病変への変化がみられた。食塩水投与の群で同様の変化がみられたのは40人中12人(30%)であった。114人のうち全3回のワクチンを受けたのは107人で、そのうち53人(49.5%)に病変退行がみられた。食塩水投与群40人のうち、全3回の投与を行ったのは36人で、そのうち11人(30.6%)に病変退行がみられた。13人が試験参加後に脱落した。
患者2人は投与部位の痛みのため、治療を中断した。食塩水群に比べるとワクチン群に発赤が多くみられた。
3回投与を完遂した女性のうち、ワクチンを受けた107人中56人でHPVは消失していた。食塩水群では35人のうち9人にとどまった。
「この多くの女性達において、今回のワクチンはただ病変を消失させただけではなく、子宮からウイルスを除去したのです」とTrimble氏は言う。「ワクチンを接種していない患者さんはほとんどの場合、病変が消失してもウイルスは存在し、低グレードの病変に罹患したままなのです」。
Trimble氏は、HPVの持続感染が子宮頸部病変再発の主な危険因子であることから、ウイルス除去はワクチン投与による「重要なボーナスである」と言う。
12週間後に、退行していない病変を手術により切除し、それぞれ試験患者の子宮頸部から生検用に組織を採取した。手術で切除した病変からは、ワクチンを接種した女性2人に微小ながんが見つかった。Trimble氏によると、これら微小浸潤がんは生検により診断されるのはまれで、手術標本から見つかるという。
治療により病変が完全に退行した患者の生検標本では、T細胞と呼ばれる免疫細胞が組織内により多くみられた。Trimble氏は、「HPVを認識できるT細胞が子宮頸部にとどまり、感染の再発を防いでいるということは重要です」と述べる。
「これは大きな一歩です」と、Trimble氏は言う。「免疫システムがもともと正常に連携していない、また、免疫システムがなんらかの原因によって阻害され病変が発生した患者さんにおいて、ワクチンが免疫応答を機能させることを私達は明らかにしました」。
Trimble氏によると、前がん病変は、ワクチン治療の期間はがんに進行しにくく、妊娠中の女性に対しては高グレード病変に対し経過観察が行われる。Trimble氏は、「一般的に、前がん病変ががんになるのには10年以上かかるので、この間に非外科的アプローチによる介入によりウイルス性のがんの進行を逆転する機会があるのです」と述べる。
現在Trimble氏と研究チームは、子宮頸部組織のどの病変が持続性で、やがてがんに進行するかを予想するバイオマーカーの同定に取り組んでいる。同チームは今後、試験に参加した最初の群を観察し、ワクチンを投与した患者は、非投与の患者よりも再発が少なくなるかどうかを調べていく。Trimble氏は、高グレード子宮頸部病変の、がんへの進行を防ぐ他のワクチンについても研究を進めている。
Trimble氏はイノビオ・ファーマシューティカルズから無制限の助成金を受けたが、同社に対し、他の資金やコンサルタント関係の取り決めは行っていない。
Trimble氏の他に本研究へ貢献したのは以下の通りである。Lance Edwards(Suffolk Obstetrics and Gynecology、ポート・ジェファーソン、ニューヨーク)、R. Lamar Parker(Lyndhurst Gynecologic Associates、ウィンストン・セーラム、ノースカロライナ)、Lynette Denny(ケープタウン大学Groote Schuur病院、南アフリカ)、David B. Weiner(ペンシルバニア大学)と、イノビオ・ファーマシューティカルズより、Matthew P. Morrow、Kimberly A. Kraynyak、Xuefei Shen、Michael Dallas、Jian Yan、Mary Giffear、Ami Shah Brown、Kathleen Marcozzi-Pierce、Divya Shah、Anna M. Slager、Albert J. Sylvester、Amir Khan、Kate E. Broderick、Robert J. Juba、Timothy A. Herring、Jean Boyer、Jessica Lee、Niranjan Y. Sardesai、David B. Weiner、Mark L Bagarazzi。
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