HPVワクチン接種後の流産リスクは上昇しないことが長期観察研究で示される

米国国立がん研究所(NCI)/ブログ~がん研究の動向~

原文掲載日 :2015年10月20日

ヒトパピローマウイルス(HPV)ワクチン接種後に妊娠した女性の流産リスクが、接種しなかった場合を上回らないことが判明した。コスタリカで実施された臨床試験データを新たに解析して得られた知見である。

コスタリカの研究者および米国国立がん研究所(NCI)所属の研究者が主導した観察研究の結果British Medical Journal誌の9月7日号に掲載された。

今回の臨床試験では、グラクソ・スミスクライン社製のサーバリックス(Cervarix)として販売中の、HPVワクチンの有効性評価が実施された。本ワクチンは2価ワクチンで、16型および18型の2種類のHPVの感染を防ぐ。16型および18型のHPVは、子宮頸がんの大部分(約70%)と、その他の肛門性器がんおよび頭頚部がんの原因となる。

米国食品医薬品局(FDA)は、発がん性のHPVの感染を予防する3種類のワクチンを承認している。これらのワクチンを妊娠可能年齢の女性に接種する可能性があることから、出産予定日までの妊娠継続に対するHPVワクチンによるさまざまな影響が懸念されている。

今回の解析では、NCIコスタリカHPVワクチン臨床試験および、その後の追跡調査に参加した約1万人の若齢成人女性を対象として、流産のリスクを評価した。臨床試験では約7,500人の女性に対して2価HPVワクチン、もしくは対照となるA型肝炎ウイルスワクチンが無作為に接種された。また、ワクチン未接種でランダム化比較試験に不参加の2,800人以上の妊娠婦人についての転帰も調査された。

これまでの知見を検証する

今回の解析では、接種後90日以内の妊娠に注目して検証した。別の臨床試験からの情報に基づいて臨床試験データ安全性監視委員会が2010年に提起した懸念を払拭することを目的としていた。2種類の臨床試験からのデータを統合して解析したところ、2価HPVワクチンの接種後少なくとも90日が経過して成立した妊娠の場合には、流産リスクの上昇を示す証拠はなかった。

しかしながら、HPVワクチン接種後90日以内の妊娠では流産のリスクが、対照群をわずかに上回っていた。この結果は統計学的に有意ではなかったが、ワクチン接種の3カ月以内の妊娠の場合に若干のリスク上昇がある可能性を否定できなかった。

今回実施された臨床試験データの統計解析から、HPVワクチン接種から90日以内の妊娠が流産に至るリスクは、ワクチン未接種の場合のリスクを上回らないことが明らかになった。同様に、HPVワクチン接種後、いずれの時期の妊娠でも流産リスクが、未接種の場合の妊娠に比べて高くはなかった。

しかしながら、サブグループでの解析では妊娠中期にワクチン接種を受けた女性が流産する絶対リスクにわずかな(1%以下の)上昇が認められた。

「サブグループからの知見を説明するには、病態生理学的な機序が存在しないので、このような軽微な上昇は統計解析上の偶然性による可能性があります」と、本論文の筆頭著者であり、NCIのがん疫学遺伝学部門に所属するOrestis Panagiotou医学博士は語り、現在までこのような関連性を報告した文献はないことを付け加えた。しかしながら、この関連性が真実である可能性を完全に否定することは不可能であり、著者らはこの知見について更に試験を実施する検証が必要であるとした。

安心を得るために

今回の知見が、2価ワクチン以外のHPVワクチンにもあてはまるわけではないことは、研究者も認識している。妊娠女性に対してHPVワクチンを使用することは、通常推奨されていない。

NCI臨床試験の統計解析主任として2010年の最初の安全性解析を主導したSholom Wacholder博士は、逝去する数週間前に受けたインタビューの中で、今回の結果は、2価HPVワクチンに付随する流産のリスクが皆無であることについて「強力な証拠を提示し、安心をもたらした」と、語っている。

「今回の結果はまた、米国疾病予防管理センター(CDC)の予防接種実施諮問委員会(ACIP)、世界保健機関(WHO)、各国の政策決定機関が推奨している、安全性が保証されたうえでのHPVワクチン接種プログラムの継続という方針を支持している」と、Wacholder氏は続けた。

原文

翻訳担当者 三谷有理 

監修 辻村信一(獣医学/農学博士、メディカルライター/株式会社メディア総合研究所)

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