リンチ症候群患者のためのがん予防ワクチン開発始まる

私たちの資金援助により、オックスフォード大学の研究者らは、リンチ症候群の人々のがんを予防するワクチンの研究を始めている。

リンチ症候群は、家族で遺伝するまれな遺伝的疾患で、大腸がん、子宮がん(子宮内膜がん、または子宮体がん)、その他いくつかのがん種のリスクを高める。LynchVaxワクチン(*以下、「リンチワクチン」)は、これらのがんの発生を阻止するよう人々の免疫システムを訓練する方法となるかもしれない。

オックスフォード大学分子遺伝学教授のSimon Leedham氏は、リンチワクチン研究チームの共同リーダーである。

「リンチ症候群の人は、大腸がん、子宮がん、その他のがんを発症するリスクが非常に高いため、英国ではリンチ症候群でない人々に比べて若い年齢で大腸検診を受けるよう勧められています」とLeedham氏は言う。

「リンチワクチンはそのリスクを減らす可能性があります。私たちの研究はまだ始まったばかりですが、リンチ症候群の人に一般的に発生する複数のがん種を予防し、生存を目に見える形で改善するために使用できる可能性のあるワクチンの見通しに大いに期待しています。」

リンチ症候群に関する事実

私たちの身体は何百万もの細胞からできており、それぞれの細胞にはDNA、つまり私たち一人ひとりが成長し機能するために必要なすべての遺伝子(よくある比喩を使えば、すべての指示)が含まれている。リンチ症候群は、細胞がDNAの損傷を修復する方法を制御する一握りの遺伝子のうちの一つに変化が生じることによって引き起こされる。一部の細胞では、このような変化によってDNA損傷が蓄積し、成長を制御する他の遺伝子に影響を及ぼすようになり、がんのリスクが高まる可能性がある。

英国では約400人に1人(約175,000〜200,000人)がリンチ症候群であると推定されている。そのうちの5%未満(約10,000人)が診断を受けている。

リンチ症候群は、英国では年間約1,300例の大腸がんを引き起こすと推定されており、これは全体のおよそ3%にあたる。この症状を持つ人の10人に7人が大腸がんを発症し、その多くは50歳になる前に発症する。

リンチ症候群の人は、さまざまながんの中でも子宮内膜がん、卵巣がん、胃がん、胆嚢がん、前立腺がん、尿路がんの発症リスクも平均以上である。

ワクチンへの第一歩

私たちはLeedham氏のチームに最大55万ポンドの資金を提供し、これによって、リンチ症候群の人々においてがんにつながる異常な細胞変化を詳細に研究することができる。研究者たちは、これらの前がん細胞を分析することで、ワクチンがどのように免疫システムにそれらを認識し破壊するよう訓練するか特定したいと考えている。

「私たちの研究では、ワクチン接種によってこれらのがんを予防できるようにするための初期の基礎を築き、生涯でがんを発症する可能性がはるかに高い人々からがんの恐怖を取り除ければよいと思っています」と、リンチワクチンチームのもう一人の共同リーダーであるDavid Church准教授(オックスフォード大学、キャンサーリサーチUK上級臨床医科学フェロー)は語った。

LynchVaxチームはワクチン開発の第一歩を踏み出したばかりで、この技術が臨床試験で検証されるまでには数年かかりそうだが、リンチ症候群の人々はすでにこのプロジェクトに貢献している。研究が進むにつれて、彼らの密接な関わりは続くだろう。

科学的な研究と並行して、研究チームは多数のリンチ症候群患者を対象に、がん予防のためのワクチン接種についての意見を聞く予定である。「これは将来の臨床試験を準備する上で重要なステップです」と、リンチワクチン患者・市民参加グループのメンバーであるHelen White氏は言う。

リンチワクチンは、私たちが予防研究戦略を通じて資金を提供している複数のプロジェクトのひとつであり、予防研究戦略の目的は研究室での発見を利用して、がんを予防するためのより正確な方法を見つけることである。これには肺がんを予防するワクチン(LungVax)の研究も含まれる。

リンチ症候群の検査、がんの予防と治療

2017年からの英国国立医療技術評価機構(National Institute for Health and Care Excellence, NICE)ガイドラインに沿って、NHS(英国民保険サービス)は大腸がんまたは子宮内膜がんと診断されたすべての人にリンチ症候群のゲノム検査を行っている。この過程でリンチ症候群であることが判明した場合、その親族にも検査を提案する。

大腸がんと診断されたリンチ症候群の人は、免疫療法薬に反応しやすい腫瘍である傾向がみられるため、この検査は成功の可能性が最も高い治療法を医師が提案する上でも役立つ。

NHSの大腸がん検診プログラムの一環として、リンチ症候群の人は2年に1度、大腸内視鏡検診を受けるよう勧められる。これは、前がん細胞の変化を明らかにして大腸がんになる前に対処できるようにしたり、治療が成功しやすい初期の段階で医師ががんを診断できるようにすることで、がんの予防と治療に役立つ。

NICEはまた、リンチ症候群の人は、少なくとも2年間、毎日アスピリンを服用することで、大腸がんの発症リスクを下げることができると助言している。これは、私たちが資金援助したCAPP2、CAPP3研究結果に基づいている。とはいえ、アスピリンは副作用を引き起こす可能性があり、すべての人に適しているわけではないので、服用する前にかかりつけの医師や専門医らに相談する必要がある。

今年初め、英国の研究者たちは、全国における検診と治療の調整、そして研究支援に役立てるため、初の全国リンチ症候群患者登録を開始した。

  • 監修 中村能章(消化管悪性腫瘍/国立がん研究センター東病院)
  • 記事担当者 山田登志子
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  • 原文掲載日 2024/09/10

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