子宮頸がん検診のHPV検査は、現行ガイドライン推奨よりも長間隔で安全

HPV検診で陰性の場合、推奨されている5年後ではなく、8年後の検査でも、標準的な細胞診検診と同程度であることが判明した。

ヒトパピローマウイルス(HPV)検診の陰性判定から8年後に子宮頸部前がん状態が発見されるリスクは、細胞診検診の陰性判定から3年後(一般に推奨されている検診間隔)のリスクと同程度であることが、米国癌学会(AACR)の機関誌Cancer Epidemiology, Biomarkers & Preventionで発表された。

過去20年間、米国では子宮頸がん検診を細胞診からHPV検診へと移行してきた。米国予防医療専門委員会(USPSTF)は現在、子宮頸がんの定期検診について、1) 3年毎の細胞診検診、2) 5年毎のHPV検診、または、3) 5年毎にHPV検診と細胞診検診を同時に行う検診、の3つの選択肢のいずれかを推奨している。

ウェイン州立医科大学およびバーバラ・アン・カルマノスがん研究所の助教であり、本研究の筆頭著者であるAnna Gottschlich博士(MPH)は、次のように話す。「現在、細胞診(パップテスト、子宮頸部細胞診)などの従来の子宮頸がん検診法からHPV検診法への移行が世界的に進んでいます。HPV検診の方が、前がん病変を検出する感度が高いからです。しかし、HPV検診の間隔が長くなることで、子宮頸がんの発症リスクが高まるのではないかという懸念の声もあります。今回の知見から、HPV検診に推奨される5年間隔は、細胞診検診の3年間隔よりもむしろ安全であることが確認されました」。

子宮頸がんは、HPV検査のような高性能の検診方法やHPVワクチンがあるため、予防可能性が高い。そのため、世界保健機関(WHO)は2030年までに子宮頸がんを世界から撲滅すること、すなわち、年間10万人当たりの新規患者数を4人以下に減らすことを目標としている。多くの高所得国が細胞診検診プログラムを確立し、罹患率の減少につながったとはいえ、連邦政府の統計で罹患率が10万人当たり7.6人である米国を含め、多くの国が依然としてWHOの撲滅基準値を上回っている。

子宮頸がん撲滅を推進するためにHPV検診プログラムを採用する国が増える中、Gottschlich氏によると、検診の最適な間隔については疑問が残るという。そこで、同氏らは、HPV検診陰性判定後の子宮頸部前がんリスクを、これまで推奨されてきた細胞診による陰性判定後と比較して長期的に調査する研究を計画した。この縦断的研究では、子宮頸部検診経験のある女性の4集団のデータを調査した:

・HPV検診が1回陰性であった5,546人
・4年間隔で2回連続してHPV検診で陰性であった6,624人
・細胞診が1回陰性であった782,297人、
・2~3年間隔で2回連続して細胞診で陰性であった673,778人

Gottschlich氏らは、HPV検診集団に関しては、2008年1月から2016年12月までに実施されたランダム化試験Canadian HPV For Cervical Cancer Prevention(HPV FOCAL)と、その14年間の縦断的追跡調査FOCAL-DECADE研究のデータを使用した。細胞診集団については、同時期に実施されたBritish Columbia Cervix Screening Programのデータを用いた。各集団の参加者は、初回検診時の年齢が25~65歳であった。

各集団について、子宮頸がんの前がん病変である子宮頸部上皮内腫瘍グレード2(CIN2)、3(CIN3)および、それ以上の(CIN2+またはCIN3+と呼ぶ)累積リスクを算出した。HPV検査陰性1回(3.2/1,000人)または2回(2.7/1,000人)から8年後にCIN2+となるリスクは、細胞診陰性1回(3.3/1,000人)または2回(2.5/1,000人)から3年後の同リスクと同様であった。現行ガイドラインが推奨する5年より長い6年後をみると、HPV検査の陰性1回(2.5/1,000)および2回(2.3/1,000)判定後のリスクはともに低かった。CIN3+となるリスクも、8年後のHPV集団は、3年後の細胞診集団と比較して低いか同等であった。

一方、CIN2+となるリスクは、8年以上間隔のHPV検診は、3年後の細胞診に比べて高かったが、研究期間の14年間、HPV検診陰性後の子宮頸部前がん状態検出は低いままで、その期間中、通常の細胞診より有意に低かった。

「HPV検診は細胞診よりも前がん状態の早期発見において優れており、その結果、早期治療が可能となります。今回の研究集団では、HPV検査が一度だけ陰性であった人たちでさえ、陰性判定から数年にわたり子宮頸部前がん状態発症リスクが非常に低いことがわかりました」。

Gottschlich氏は、これらの結果は、子宮頸がん検診ガイドラインの更新に役立つ可能性があるが、それぞれの国や州は、その人口や使える資源を考慮して、適切なガイドラインを決定する必要があると述べた。

「政策担当リーダーは、細胞診よりもHPV検診を優先させる方法を検討する際、その環境における健康上の意思決定における広範な要因を考慮する必要があります」とGottschlich氏は述べた。「最適な実施戦略は、それぞれの特定のプログラムにおける検診の種類と利用可能な資源によって決まります」。 Gottschlich氏は、検診の間隔が長いと、追跡管理ができなくなる可能性があることを考慮することも重要であると指摘した。「検診間隔を長くするに際しては、十分な継続的関わりを確保するよう配慮した医療システムを整え、追跡管理漏れを最小限とすることが必要です」。

しかし、検査間隔を長くすることで、検診を十分に受けていない、あるいはまったく受けていない集団のために資源を配分し、フォローアップを促すことが可能になるとGottschlich氏は付け加えた。「子宮頸がんを撲滅するには、検診だけでは不十分です。検診で異常があった女性が、診断のためのフォローアップを受け、必要であれば治療を受けられるようにする必要があります」。

今後の研究では、今回の集団を継続して追跡調査し、検診開始・終了の適切な年齢やトリアージ管理戦略など、HPV検診の最適な実施戦略をより深く理解する予定である。

本研究の不十分な点としては、HPV FOCALの参加者は試験開始時に無作為に割り付けられたにもかかわらず、脱落率や検診率の違いにより、研究期間中にHPV群の比較可能性が下がった可能性があるが、追跡調査不能率は低かった。さらに、終了時検診では同時検査が行われ、HPV検査では見逃されたCIN2+が細胞診で2例検出された。Gottschlich氏によると、先行研究で細胞診はHPV検診に比べて8倍以上のCIN2+見逃しがあることが判明しているため、これは主要な所見には影響しないという。また、本研究は非常によくスクリーニングされている集団で行われたため、この結果を資源の少ない環境に直接適用することはできない。

本研究は、米国国立衛生研究所(NIH)、カナダ衛生研究所、マイケル・スミス健康研究財団から資金援助を受けている。

  • 監訳 辻村信一(獣医学・農学博士、メディカルライター)
  • 記事担当者 山田登志子
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  • 原文掲載日 2024/05/22

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