MDA研究ハイライト2022/5/4:プラチナ耐性卵巣がん、進行腎細胞がん、KEAP1変異肺がん他

細胞療法の進歩、新しい免疫療法と標的療法の組み合わせ、肺がんの新しい治療標的、乳がん診断の格差などを特集

テキサス大学MDアンダーソンがんセンターの研究ハイライトでは、MDアンダーソンの専門家によるがんの基礎研究、トランスレーショナル研究、臨床研究の中から最近発表された研究を紹介している。研究内容には、プラチナ耐性卵巣がんにおける血管新生を標的とした新しい併用療法や腎臓がんに対する有望な免疫療法の併用といった臨床的進歩に加え、特定の肺がんにおけるフェロトーシス(訳注:鉄依存性細胞死)の標的化、芽球性形質細胞性樹状細胞腫瘍に対するCAR-T細胞療法の開発、乳がんの早期発見における人種・民族間格差を明確化、といったことに着目した基礎実験ベースの研究などが含まれている。

1.プラチナ耐性卵巣がんに対し、血管新生に関わるリガンドを標的とした併用療法が持続的な臨床活性を示す

プラチナ耐性は、過去にプラチナベースの化学療法による治療を受けた進行上皮性卵巣がん患者に発生することが多く、しばしば転帰不良につながる。デルタ様リガンド4(DLL4)など血管新生を促進する因子を標的とすることで、血管内皮増殖因子(VEGF)阻害薬への応答が向上し、プラチナ耐性卵巣がん(PROC)患者の予後が改善される可能性がある。Siqing Fu医学博士と研究者らは、過去にプラチナベースの化学療法を受けたグレード2/3の再発PROC患者44人を対象に、VEGFとDLL4の両方を阻害するナビシキズマブ(Navicixizumab)とパクリタキセルを併用したときの安全性と有効性を評価した。この併用療法はベバシズマブ(販売名:アバスチン)による治療歴のある患者と未使用患者の両方に有望な臨床活性を示し、毒性はコントロール可能だった。全奏効率(ORR)は、ベバシズマブ治療歴のある患者で43.2%、ベバシズマブ未使用の患者で64.3%、高度の血管新生または免疫抑制的腫瘍微小環境のあるサブタイプの患者で62%だった。PARP阻害薬による治療歴のある患者のORRは45%、奏効期間の中央値は6カ月だった。PROCに対する持続的な臨床活性が得られたことから、ベバシズマブを含む他の治療法を使い尽くした後でも、ナビシキズマブが臨床的利益をもたらす可能性が示唆された。ナビシキズマブについてはさらに第3相試験が予定されている。詳細はJournal of Clinical Oncology誌を参照。

2.シトラバチニブとニボルマブの併用は進行淡明細胞型腎細胞がんに有望

免疫チェックポイント阻害薬は、進行淡明細胞型腎細胞がん(ccRCC)の患者の一部に臨床的な利益をもたらしているが、多くの患者の場合、この治療に対する反応は限定的である。Pavlos Msaouel医学博士とNizar Tannir医師が主導したこの第1/2相試験では、血管新生阻害薬による治療後にがんが進行し、その後に免疫療法を受けていない患者42人を対象に、チロシンキナーゼ阻害薬(TKI)であるシトラバチニブ(Sitravatinib)と抗PD-1免疫療法薬ニボルマブ(販売名:オブジーボ)の併用療法の評価を行った。本試験における免疫モニタリングは、Sangeeta Goswami医学博士とPadmanee Sharma医学博士によってデザイン、実施、解析された。 シトラバチニブは腫瘍微小環境内の骨髄由来免疫抑制細胞を減少させ、奏効率は35.7%、無増悪生存期間中央値は11.7カ月だった。この併用療法による予期せぬ毒性は認められず、追跡期間の中央値である18.7カ月後に80.1%の患者が生存していた。さらに、肝転移のある患者においても、肝転移のない患者と同等の持続的な奏効が認められた。今回の結果は、この併用療法をさらに研究することで、進行淡明細胞型腎細胞がんに対する抗PD-1療法の治療成績の向上が期待できることを示唆している。詳細はScience Translational Medicine誌を参照。

3.KEAP1変異肺がんにおいてフェロトーシスタンパク質が新しい治療標的となる可能性

フェロトーシスは鉄に依存して制御された細胞死であり、脂肪酸の酸化体である過酸化脂質の有害な蓄積によって引き起こされる。フェロトーシスを標的とすることで新しいがん治療が実現する可能性があるが、フェロトーシスを制御するメカニズムの多くはまだ解明されていない。今回、Pranavi Koppula博士、Guang Lei博士、Boyi Gan博士らの研究グループは、特定の肺がんにおいてフェロトーシスを標的とするための新たなアプローチ法を発見した。KEAP1変異は非小細胞肺がんの約16%に認められ、治療抵抗性と予後不良に関連している。研究チームは、フェロトーシス抑制タンパク質1(FSP1)を、このプロセスにおける重要な制御因子として同定し、このFSP1がKEAP1およびNRF2の下流で抗酸化物質ユビキノン(CoQ)に作用していることを明らかにした。FSP1はKEAP1変異がん細胞においてフェロトーシスおよび放射線治療に対する抵抗性を高める。FSP1-CoQ経路を標的とすることで、KEAP1変異肺がんにフェロトーシスが誘導され、放射線療法への感度が向上したことから、標的療法としての評価のためにさらなる研究が行われることが期待される。詳細はNature Communications誌を参照。

4.同種UCART123細胞がBPDCN前臨床モデルで活性を示す

芽球性形質細胞樹状細胞腫瘍(BPDCN)はまれなタイプの白血病であり、現在の治療法では転帰は不良である。インターロイキン3受容体サブユニットα(CD123)はほぼすべてのBPDCN症例で過剰発現しており、有望な治療標的と目されている。Marina Konopleva医学博士率いる研究チームは、健康なドナー細胞から製造した遺伝子組換え同種T細胞製剤であるUCART123をBPDCN細胞に対して使用する新しい研究を行った。この改変T細胞は遺伝子編集技術により抗CD123キメラ抗原受容体(CAR)を発現させ、TCRa constant(TRAC)遺伝子を不活性化したものである。UCART123は実験室サンプルにおいてBPDCNを消滅させ、患者由来の初代BPDCNモデルのサブセットにおいて長期無病生存をもたらした。これらの結果は同種UCART123細胞が強力な抗BPDCN活性を有することを示し、今後はこの治療法を評価する研究が期待される。詳細はNature Communications誌を参照。

5.早期乳がんの発見と生存には人種・民族間格差が存在する

早期乳がんは治療が容易であるため、乳がん検診と早期発見への取り組みはこの数十年、患者の生存率の向上に寄与してきた。しかし、すべての女性が等しくその恩恵を受けているわけではない。Shine Chang博士とKristin Primm博士が主導した研究では、米国国立がん研究所のSEERプログラム(Surveillance, Epidemiology, and End Results Program)のデータを使用して、2000年から2017年の間に乳がんと診断された841,975人の女性について調査を行った。その結果、黒人、アメリカンインディアン、東南アジア、南アジア、太平洋諸島、ヒスパニックの女性は、白人女性に比べて早期の段階で乳がんと診断される率が低いことが判明した。早期がんの診断を受けた人のうち、ヒスパニック、アメリカンインディアン、太平洋諸島民、黒人の女性は、白人の女性よりも乳がんで死亡する率が高かった。進行がんの場合は黒人女性の格差が最も大きく、死亡率は白人女性より18%高かった。この結果は、乳がん治療における格差を是正するためにさらなる努力が必要であることを強調するものとなった。詳細はCancer Epidemiology, Biomarkers & Prevention誌を参照。

日本語記事監訳:喜多川亮(産婦人科/総合守谷第一病院 産婦人科)、久保谷託也(産婦人科/総合守谷第一病院 産婦人科)

翻訳担当者 岩佐薫子

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