低異型度漿液性卵巣がん再発患者にトラメチニブは新たな標準治療となる可能性

トラメチニブは疾患または死亡のリスクを低減し、無増悪生存期間を有意に向上させることが示された。

低異型度漿液性卵巣がんの治療において、MEK阻害薬であるトラメチニブ(販売名:メキニスト)は原病の増悪または死亡のリスクを標準治療と比べて52%低下させたことが、テキサス大学MDアンダーソンがんセンターの研究者らによる試験で報告された。

婦人科腫瘍学・生殖医療学教授のDavid Gershenson医師が主導した国際多施設共同臨床第2/3相試験は、卵巣がんの中でもまれであり研究が進んでいない低異型度漿液性がんの治療法を対象とした前向きランダム化比較試験であり、無増悪生存期間(PFS)および奏効率の有意な改善を示した初の試験である。

トラメチニブ投与群のPFS中央値は13カ月であり、標準治療群のPFS中央値は7.2カ月であった。トラメチニブ群の奏効率は26%で、56%は少なくとも8週間以上の間で病勢が安定していた。奏効期間中央値は、トラメチニブ群が13.6カ月、標準治療群が5.9カ月であった。全生存期間中央値は、トラメチニブ群が37.6カ月、標準治療群が29.2カ月であった。

「低異型度漿液性がんは、発生経路、分子的生態、臨床的挙動がはっきりと異なる分類の卵巣がんであるにもかかわらず、この疾患の患者に対するこれまでの推奨治療内容は、よくみられる高異型度漿液性がんに焦点を当てた試験に基づくものだった。今回の試験により、このまれな患者群に対する有望なデータが得られた」とGershenson医師は述べている。「本試験の結果から、トラメチニブは、進行または再発低異型度漿液性がんの女性患者に対する新たな標準治療の選択肢として考慮すべきことが示された」。

低異型度漿液性がんは、上皮性卵巣がんの全症例の約5%を占め、若年者に病期が進行した状態で診断されることが多く、再発率は70%以上である。一次治療では通常、化学療法を実施した後にアロマターゼ阻害薬を投与する。しかし、このまれなタイプの卵巣がんは、プラチナ製剤系の化学療法に対して比較的耐性があり、効果的な標的治療を見つけることが依然として臨床上の課題である。

低異型度漿液性がんは、MEKタンパク質を含むMAPKシグナル伝達経路に活性化突然変異が高率にみられることから、トラメチニブが同疾患の新規治療法として登場してきた。本剤は、切除不能または転移性メラノーマ、非小細胞肺がん、未分化甲状腺がんなど、さまざまなBRAFV600変異陽性がんの治療薬として、BRAF阻害薬ダブラフェニブ(販売名:タフィンラー)と併用する用途で米国食品医薬品局により承認されている。

本試験では、2014年2月から2018年4月にかけて、米国および英国の84の病院で卵巣または腹膜原発の再発低異型度漿液性がんの18歳以上の患者260人を登録し、ランダムに割り付けた。半数にトラメチニブを1日1回経口投与し、残りの半数には、5種類の標準治療薬(パクリタキセル、ドキソルビシンリポソーム製剤、トポテカン、レトロゾール、タモキシフェン)から一つを選択して投与した。参加者の人種内訳は、白人229人(88%)、黒人またはアフリカ系アメリカ人9人(3%)、アジア人7人(3%)、ハワイ出身者または太平洋諸島の住民1人(0.4%)、未公表14人(5%)であり、年齢の中央値はトラメチニブ群で56.6歳、標準治療群で55.3歳であった。

トラメチニブに関連して最も高頻度で認められたグレード3または4の有害事象は、発疹(13%)、貧血(13%)、高血圧(12%)、下痢(10%)、吐き気(9%)および疲労(8%)であった。標準治療群で最も高頻度に認められたグレード3または4の有害事象は、腹痛(17%)、吐き気(11%)、貧血(10%)および嘔吐(8%)であった。治療に関連する死亡は認められなかった。

腫瘍が進行してトラメチニブに切り替えた標準治療群の患者の無増悪生存期間中央値は、10.8カ月、奏効率は15%であった。トラメチニブに切り替えた後に進行または死亡した標準治療群の患者66人のうち、43人(65%)は、標準治療中よりも治療変更後のトラメチニブ治療中の方が腫瘍進行までの期間が長かった。

「この試験で得られた知見は、今後の研究の仮説を生み出し、重要な手掛かりを与える」とGershenson医師は述べている。「本試験の結果は、このまれな卵巣および腹膜がんサブタイプの女性患者の治療において大きな進歩となる一方で、新たな薬剤または治療法の開発に向けた取り組みを加速させる必要がある。現在、内分泌療法とCDK4/6阻害薬の併用、および、MAPKシグナル伝達経路を標的とする薬剤と他の標的薬剤との併用に関する試験が実施されている」。

本試験は、NRG Oncology、Cancer Research UK、Target Ovarian CancerおよびNovatris社から資金提供を受けて実施された。共著者の一覧および開示情報は論文に掲載されている。

翻訳担当者 渡邉純子

監修 喜多川 亮(産婦人科/総合守谷第一病院)

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