再発卵巣がん患者の一部で手術が適切な選択肢となる可能性

卵巣がん患者では10人中7人以上の割合で、初回治療後にがんが再発する。卵巣がんが再発した場合、患者は化学療法を再開する前に、がんをできる限り多く取り除くために追加の手術を受けることがある。

しかし、この追加の二次手術に延命効果があるかどうかは、これまではっきりしていなかった。この疑問を解決するために、複数の大規模な研究が始まっている。今のところ、そのうち2つの研究は異なる結論に達している。

一つ目の臨床試験は主に米国とアジアで実施されたもので、二次手術によって全生存期間あるいは無増悪生存期間が改善しなかったと、2019年に研究者が報告している。このGOG-0213試験の結果によって、一部の専門家は二次手術の効果に強い疑問を呈するようになった。

二つ目の大規模臨床試験であるDESKTOP IIIの結果では、厳密な基準を満たした患者において、二次手術の後に化学療法を行なう場合、化学療法だけを行なう場合と比較して生存を改善できることが示されている。

三つ目の臨床試験SOC-1は中国で実施され、その初期結果から、二次手術を受けた人は手術を受けなかった人に比べて、無増悪生存期間が長いことが示された。研究者らがSOC-1試験の最終結果を待っているところである。

しかし、3つの試験に参加した患者集団はそれぞれ大きく異なっていた。

主にヨーロッパで実施されたDESKTOP IIIの適格基準は、再発時に二次手術で利益を得る可能性が最も高い患者を医師が識別できるように定められたものであると、Yovanni Casablanca医師(ウォルターリード国立軍事医療センター、婦人科腫瘍医)は説明した。利益を得る可能性が最も高い患者とは、二次手術で目に見える病変をすべて取り除くことができる患者である、とCasablanca医師は言う。同医師は上述の試験のいずれにも関与していない。

「これらの試験でわかった最重要ポイントは、再発卵巣がんの治療には万能な画一的アプローチはないということです」と、婦人科腫瘍医Sarah Temkin医師は述べる。同医師はNIHの女性健康研究オフィス臨床研究部門副ディレクターで、上述の試験のいずれにも関与していない。

2021年12月2日にNew England Journal of Medicine誌に掲載されたDESKTOP III試験の結果は、再発卵巣がんの「一部の患者群においては手術が治療の重要部分として再び検討されるようになる」ことを意味すると、Casablanca医師は述べている。

厳密な基準を満たした患者に対しては、「手術を検討することもある、あるいは検討するべきですが、それは経験豊かで熟練した外科医による手術を受けられる場合に限ります」と、Elise Kohn医師(NCIがん治療評価プログラム婦人科がん治療部長。上述の研究には関与していない)は言う。なぜなら、がんが広範囲に広がっている場合、二次手術は困難となる可能性があるからである。

患者を担当する医療チームが、二次手術によってがんの病巣をすべて取り除くことができそうにないと感じた場合には、「有害となる可能性がある外科治療を患者に受けさせるべきではない」と、DESKTOP III試験の研究者らは記述している。同試験は、ドイツのKliniken Essen-Mitteがんセンターの婦人科腫瘍医Philipp Harter医学博士が筆頭研究者である。

二次手術が奏効する可能性が最も高い患者の特定

卵巣がんが再発した場合、腫瘍がどのように、どこで、増殖し広がるかは患者それぞれで大きく異なる、とGinger Gardner医師(スローンケタリング記念がんセンター婦人科腫瘍医。上記3研究のいずれにも関与していない)は述べる。「そのため、最も適切に腫瘍を排除または制御できる戦略をできるだけ多く備える必要があります」。

がんは1~2カ所に局在することもあるが、複数の臓器にわたり散らばっていることもあり、その場合は、長時間で複雑な手術が必要になる、とGardner医師は述べる。

再発卵巣がん患者のほとんどは、最初のがん診断時に手術と化学療法を受けているはずである。患者は二次手術に身体的に耐えられるのか、がんは外科医が処置できる1カ所または複数の部位にあるのかという問題が出てくる、と同医師は続ける。

DESKTOP III臨床試験には407人の再発卵巣がん患者が登録され、ほぼ全員が最初の診断後に化学療法を受けていた。この試験に参加するためには、患者は少なくとも6カ月間寛解状態にあり、化学療法を受けていないことが必要であった。

さらに、試験参加者は、二次手術が成功する可能性を最大化するべく定められた3つの基準を満たす必要があった。第一に、がんの初回治療において手術で目に見える病変がすべて取り除かれていること。第二に、完全に活動的で、制限なく日常生活を送ることができること。そして第三に、腹部に体液がほとんどあるいはまったく溜まっていないこと、である。この腹水と呼ばれる体液が大量に溜まっていることは、がんがより広範囲に広がっている徴候であるとCasablanca医師は説明する。

参加者は全員、卵巣がん患者に数多くの手術を行なっている専門医療機関で治療を受けた。手術後に化学療法を受ける群(手術群)と、化学療法のみを受ける群(非手術群)に無作為に割り付けられた。

手術群では、治療開始後の生存期間の中央値が約54カ月であったのに対し、非手術群では46カ月であった。また、手術群は非手術群と比較して無増悪生存期間も長かった。

外科医は、手術を受けた患者の75%で目に見える病変を完全に取り除くことができた。このような患者の生存期間中央値は、がんをすべて除去できなかった患者の2倍以上であった(62カ月対28カ月)。

「DESKTOP IIIの試験分担医師たちは非常に難しい手術を行ない、良い結果を出した」とCasablanca医師は指摘した。手術に伴う合併症はほとんどみられず、全体として手術の質が高かったことを示している。また、全体的なQOLは手術群と非手術群の間で同様であった。

再発卵巣がんの治療に万能な方法はない

すべての人が二次手術に耐え、利益を得ることができるわけではないが、DESKTOP IIIの結果は「手術は患者に最良の結果をもたらすために用意しておく選択肢の一つであるべき」ことを示しているとGardner医師は述べている。

Gardner医師とDennis Chi医師(スローンケタリング記念がんセンター婦人科外科医)は、DESKTOP III試験結果に付随する論説で「われわれは、内科的および外科的選択肢から精密な選択を行ない、適切な患者に適切な治療を行なわなければならない」と記述している。

3つの臨床試験で結果が異なる理由を説明できるいくつかの要因が考えられるとGardner医師らは言う。1つの重要な違いは、DESKTOP IIIとSOC-1の試験分担医師が試験参加者の選定に標準化された基準を用いたのに対し、「GOG-0213の患者選定基準ははるかに流動的だった」とGardner医師は述べている。GOG-0213では、患者への手術実施の可否は、患者のがんが外科的に完全に除去できるかどうかの外科医個人の判断に基づいていた。

3試験の違いから直接比較することは難しいが、「DESKTOP試験とSOC-1試験の結果は、手術が有用である基準を明確にし、広範な状況で手術を実施しないよう警告するものです」とKohn医師は述べている。

「卵巣がんの再発が初めてみつかった場合、われわれは一旦立ち止まって、DESKTOP IIIでおおまかに示される選択基準に合致するかどうか確認する必要があります」とCasablanca医師は強調する。こうした判断は、手術と薬物療法の両方による卵巣がん治療の修練を積んだ専門家である婦人科腫瘍医が行うべきであると、Casablanca医師ら専門家は述べている。

知見はすべての状況にあてはまるとは限らない

もし手術が本当に選択肢の一つであるならば、その手術をどこで誰が行なうかを慎重に考えるべきであるとCasablanca医師は言う。

「手術の質が同一レベルにならないのであれば、地域医療において(二次手術で)得られる結果は同一にならないかもしれない」とCasablanca医師は警告している。

Temkin医師によれば、実際、米国の卵巣がん患者のうち、再発卵巣がんの手術を数多く行なっている病院や医療センターで治療を受けている人は少ない。また、専門的診療科への受診が難しいため、診断時も含めて婦人科腫瘍医に診てもらったことが一度もない人は多い。その結果「DESKTOP III試験の結果が当てはまるのは、米国の卵巣がん患者のうちごく少数だと思います」とTemkin医師は述べている。

最後に同医師によれば、ここ数十年で卵巣がんの生存率で格差が広がっているが、質の高い医療を受けられないことが主な原因であるという。「新しい治療法や新薬のおかげで、白人の卵巣がん患者の生存率は、ここ数十年で著しく向上しています。ところが、黒人や地方在住の卵巣がん患者の生存率はあまり向上していません」と述べている。

翻訳担当者 山田登志子

監修 喜多川 亮(産婦人科/総合守谷第一病院 産婦人科)

原文を見る

原文掲載日 

【免責事項】
当サイトの記事は情報提供を目的として掲載しています。
翻訳内容や治療を特定の人に推奨または保証するものではありません。
ボランティア翻訳ならびに自動翻訳による誤訳により発生した結果について一切責任はとれません。
ご自身の疾患に適用されるかどうかは必ず主治医にご相談ください。

卵巣がんに関連する記事

一般的な卵巣がんに対する特殊なナチュラルキラー細胞の有効性が非臨床で示されるの画像

一般的な卵巣がんに対する特殊なナチュラルキラー細胞の有効性が非臨床で示される

研究タイトルメソセリンの膜近位領域を標的とするCARメモリー様NK細胞が卵巣がんに有望な活性を示す掲載誌Science Advances誌著者(ダナファ...
一部の早期婦人科がんにペムブロリズマブ+化学放射線や抗Claudin6抗体薬物複合体が有益の画像

一部の早期婦人科がんにペムブロリズマブ+化学放射線や抗Claudin6抗体薬物複合体が有益

ESMO 2024で報告された研究により、現在の標準治療に免疫療法を追加することで臨床的に意味のある利益が得られる早期の子宮体がん(子宮内膜がん)(1)および子宮頸がん(2)の新たな患...
【ASCO2024年次総会】進行卵巣がんにリンパ節郭清が不要である可能性の画像

【ASCO2024年次総会】進行卵巣がんにリンパ節郭清が不要である可能性

ASCOの見解(引用)「このランダム化第3相臨床試験は、進行卵巣がんの手術を受ける患者が、原発巣からの転移がないと思われるリンパ節の追加切除を安全に回避できる可能性を示していま...
デリケートゾーン用タルクの使用は卵巣がんリスク上昇と関連の画像

デリケートゾーン用タルクの使用は卵巣がんリスク上昇と関連

ASCOの見解「本研究は、インティメイトケア製品、特にデリケートゾーン用タルクに関連する潜在的リスクを強調している。このような製品が、特に頻繁に使用する人や20代や30代で使用...