英国NICEが卵巣がんの維持療法としてニラパリブを承認
高悪性度の進行した上皮性卵巣がん、卵管がん、または原発性腹膜がんの成人患者の一部に対し、新たな分子標的療法が英国国立医療技術評価機構(NICE)により推奨された。
ニラパリブ(販売名:セジューラ)は、初回治療の効果を高めたり持続させたりするための維持療法として、抗がん剤基金(Cancer Drugs Fund)を通じて利用が可能になる。この場合、BRCA遺伝子変異の有無にかかわらず、プラチナ製剤による化学療法後にニラパリブが使用される。
「今回の決定は、この種のがん患者さんにとって歓迎すべき素晴らしいニュースです。多くの患者さんにとって、化学療法後の経過観察が唯一可能な選択肢ですが、がんの再発を待つような気分にさせる場合があります」-Kruti Shrotri氏、キャンサーリサーチUK政策立案部長
ニラパリブはどのように作用するのか?
ニラパリブは、PARP阻害薬として知られる分子標的薬の一種である。
1990年代初頭、キャンサーリサーチUKの研究者らは、損傷したDNAを修復する機構を停止してがん細胞を死滅させることを目的としたPARP阻害薬の研究に最も初期の段階から携わっていた。
PARPは細胞内に存在するタンパク質であり、損傷した細胞の自己修復を助ける。がん細胞は、PARPタンパク質などの助けによりがん細胞のDNAを損傷していない状態に保ち、成長と分裂を続けている。
がん治療においてPARPを阻害することは、がん細胞でのPARPの修復機能を停止し、がん細胞を死滅させる。PARP阻害薬を用いて最初に実施された試験は、化学療法などDNA損傷を引き起こす薬剤と併用したもので、治療効果を高めることが目的であった。
しかし研究者らは、BRCAとして知られる遺伝子に変異を有するがんに注目しつつ、損傷した細胞の修復機構に問題があるがんを治療するこうした薬剤の可能性に早期に気づいていた。
通常、BRCA1遺伝子とBRCA2遺伝子は、損傷したDNAの修復を助けるタンパク質を生成するよう細胞に指示を出す。これらの遺伝子の一方または両方に異常があると細胞は適切に自己修復しにくくなるため、BRCA遺伝子に異常を有する人は前立腺がん、乳がん、および卵巣がんのリスクが高い。
BRCA遺伝子に異常を有するがん細胞は修復機構が不十分なため、これらの細胞においてPARP阻害薬でPARPを遮断すると、DNAの損傷を蓄積させ、がん細胞を追い詰める。
臨床試験からわかること
大規模な臨床試験より得られたエビデンスによると、プラチナ製剤を用いた化学療法の初回治療で良好な効果が得られた患者に対してニラパリブを投与することで、がんが再び明らかに大きくなるまでの(無増悪)期間を延長させることができる。
この臨床試験では、がんが大きくならずに生存した平均期間が、ニラパリブ投与群では13.8カ月だったのに対し、プラセボ投与群では8.2カ月であった。
さらに分析を進めると、現在では初期治療後の維持療法をしないBRCA1遺伝子やBRCA2遺伝子に異常がないがん患者に対しても、ニラパリブを投与することで、がんが大きくなるまでの平均時間が延長することが示された。
PRIMA試験では、高悪性度の上皮性卵巣がん、卵管がん、原発性腹膜がんの患者の生存期間を延長できるかどうかを判断するのに十分な観察期間が経過していない。この試験は現在なお進行中である。さらなるデータにより、ニラパリブの長期的な影響について確実性が高まる可能性がある。
今回の結論に協力した臨床専門家らは、進行した卵巣がんに対して初回治療薬を用いた治療後に行う維持療法の選択肢としてのアンメットニーズが高いと説明している。
「臨床試験から得られたエビデンスは、ニラパリブががんの進行を遅らせることを示唆しており、さらなる化学療法の必要性を先送りして生活の質を向上させる可能性があります。ニラパリブは抗がん剤基金を通じて使用が認められているため、長期的な効果に関するエビデンスをさらに多く収集する間も利用可能でしょう」とShrotri氏は述べている。
長期的なメリット
ニラパリブの長期的な治療効果については不確実であるため、現時点では国民保険サービス(National Health Service, NHS)での通常使用は推奨されていない。しかし、国民保険サービスの資源を高い費用対効果で利用できる可能性があるため、ニラパリブは抗がん剤基金を通じて承認された。
抗がん剤基金は、イングランドNHSが長期的な効果に関するデータを収集しながら、人々に新薬を提供することを目的とした基金である。
英国国立医療技術評価機構の決定は通常ウェールズと北アイルランドにも適用されるため、その地域の患者に対しても大きなメリットがあるだろう。なおスコットランドでは、医薬品審査のための手続きが異なる。
参考文献
Gonzalez-Martin, A et al (2019). Niraparib in Patients with Newly Diagnosed Advanced Ovarian Cancer. The New England Journal of Medicine. DOI: 10.1056/NEJMoa1910962
原文掲載日
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