卵巣がん死亡率低下に脂溶性スタチンが関連

脂溶性スタチンは、血中コレステロールを下げるために一般的に処方される薬の一種である。この薬剤が卵巣がんの患者の死亡率低下と関連することが、6月22日から24日までオンラインで開催された第二回米国がん学会(AACR)年次総会で発表された研究で明らかになった。

卵巣がんは希少ながんであり、米国で年間に診断されるがん症例の約1.2%を占めるにすぎない。診断が難しいこともあり、5年生存率は50%未満である。

「このがんは検診による予防戦略が確立していないため、一般的に進行期で診断され、この時期には手術が選択肢とならないことがよくあります」と、ジョンズホプキンス・ブルームバーグ公衆衛生大学院およびシドニーキンメルがんセンター(ボルチモア)疫学・腫瘍学教授のKala Visvanathan医師(医学士、健康科学修士)は言う。

米国では、40歳以上の成人の約28%がコレステロールのコントロールのためにスタチンを日常的に服用している。Visvanathan医師によれば、他国においても同剤は広く使用されているという。卵巣がん患者のスタチンと死亡率を評価したこれまでの小規模研究で一貫した結果は示されていない。本研究では、卵巣がん女性10,000人以上を対象とした大規模なサンプルサイズにより、異なるスタチンの種類およびそれらが異なる卵巣がんのサブタイプへ及ぼす影響を評価することができた。

研究者らは、フィンランドの全国がん登録から得られたデータを、1995年から2015年の間に卵巣がんと診断された女性10,062人の処方箋請求と結びつけ、診断前後のスタチン使用と卵巣がん死亡率との関連性を検討した。10,062人の患者のうち、2,621人がスタチン系薬剤を服用しており、そのうち80%が脂溶性スタチンを服用していた。診断時年齢の中央値は全体で62歳、スタチン服用者では67歳であった。

スタチンは溶解性によって分類され、シンバスタチン(リポバス)やロバスタチン(メバコール)などは脂溶性スタチン、プラバスタチン(メバロチン)やロスバスタチン(クレストール)などは水溶性スタチンである。いずれかのスタチン系薬剤を使用した患者では、スタチン系薬剤を使用しなかった患者と比較すると卵巣がんの死亡率が40%低かった。特に脂溶性スタチンの服用者においては、卵巣がんの死亡率が43%低かった。

すべての種類の卵巣がんの症例で死亡率の低下がみられたものの、低下の程度にばらつきがあった。死亡率の低下が最も大きかったのは、高異型度漿液性卵巣がん(死亡率は40%低下)と卵巣類内膜腺がん(死亡率は50%低下)であった。Visvanathan医師は、すべての卵巣がんのタイプで生存率が改善されることが有望視されるが、より希少な卵巣がんに対するデータはあまり安定性がないと指摘した。卵巣がんの診断を受けた後に脂溶性スタチンの服用を開始した女性もおり、その女性たちにおいても死亡率の低下がみられた。

「この研究結果から、卵巣がん治療の一部としての脂溶性スタチンの臨床的評価を裏づけるさらなる証拠がもたらされました」と Visvanathan医師は述べている。「これらの薬は、広く使われており、安価で、ほとんどの患者において忍容性の高い薬である点が大きな魅力です。スタチンによる、あるいは、脂溶性スタチンによる卵巣がんの死亡率低下は期待できるものです」。

標準的治療となるまでには、ランダム化比較試験で結果を確認し、他の集団でも試験を行う必要があるとVisvanathan氏は述べる。また、卵巣がんは生存率が低く、長期の研究で検討することが難しいとも付け加えた。本研究の結果が得られたのは、質の高いデータと長年にわたって収集されたデータを評価できたことによる。

この研究は、米国国防総省およびBreast Cancer Research Foundationから資金提供を受けて行なわれた。

共著者は次のとおりである:Shari Modur, PhD; Brenna Hogan, MPH; Betty May, MS; Miia Artama, PhD; and Teemu Murtola, MD, PhD.

研究者らは、利益相反がないことを宣言している。

翻訳担当者 白濱紀子

監修 斎藤千恵子(薬学、毒性学/ロズウェルパ―クがんセンター 免疫療法部門)

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