肺がん生存期間への禁煙の効果、再発卵巣がんの維持療法―ASCO20

2020年5月13日、Leslie Fannon Zhang、ASCOスタッフ

今月は、世界中から何千人ものがん専門家がバーチャルに集まり、がん患者の治療とケアにおける最新研究について学ぶ。ASCO(米国臨床腫瘍学会)20バーチャル科学プログラムは、5月29日(金)から31日(日)までオンラインで開催され、この分野の専門家による250を超える発表が行われる。

ASCO20バーチャル科学プログラムでは、患者ケアを変える可能性のある有望な研究に焦点を当てる。本日、一部の研究ハイライトの事前発表が行われる。

・肺がん患者では、禁煙は、いずれの時点に開始しても(たとえ診断直前でも)生存を延長する。

・BRCA遺伝子変異がある再発卵巣がん患者は、オラパリブの維持療法によって生存が1年延長する。

・高齢者評価を用いた個別化ケアは、高齢がん患者にいくつかのメリットをもたらす。

・ACA(医療費負担適正化法、通称オバマケア)下でメディケイドを拡大した州では、がんによる死亡数の減少幅が最大に。

・ビデオ会議によるアプローチは遠距離介護者の不安や苦痛の軽減に役立つ。

肺がん患者では、禁煙は、いずれの時点に開始しても(たとえ診断直前でも)生存を延長する。

国際的なデータを用いた大規模研究によって、禁煙した人は、それが肺がん診断前2年未満以内であっても、診断後に長生きできる可能性が高いことが示された。禁煙のメリットはよく知られており、 禁煙はどの時点でも有効である可能性がある。この研究では以下が明らかになった。

・禁煙開始が診断前2年未満以内の患者は、死亡リスクが12%低下した。

・禁煙開始が診断前2~5年以内の患者は、死亡リスクが16%低下した。

・禁煙開始が診断前5年を超える患者は、死亡リスクが20%低下した。

この研究では、肺がん研究者の国際グループである国際肺がんコンソーシアムから得た17件の試験のデータを使用した。データに含まれる肺がん患者35,428人のうち、診断時における現喫煙者が47%超、既喫煙者が30%、非喫煙者が22%超であった。

このデータから、すべての既喫煙者について、あらゆる原因による死亡リスクが低下する傾向が明らかになった。さらにこの研究では、特に長期のヘビースモーカーと現喫煙者のデータを比較した。ヘビースモーカーは、30 パック年以上喫煙した人と定義される。1パック年とは、毎日20本(標準的なタバコ1箱の大きさ)を1年間吸ったときの喫煙量と定義される。30パック年を超える量を過去に喫煙していたヘビースモーカーについて、この研究は以下の点を明らかにした。

禁煙開始が診断前2年未満以内の人は、現喫煙者と比較して死亡リスクが14%低かった。

禁煙開始が診断前2~5年の人は、現喫煙者と比較して死亡リスクが17%低かった。

禁煙開始が診断前5年を超える人は、現喫煙者と比較して死亡リスクが22%低かった。

これは何を意味するのか?禁煙は、いつでも開始できる最高の健康法の一つである。禁煙開始後すぐに肺がんと診断された人でも、長生きできる可能性は高くなる。

「この研究では、喫煙者であっても禁煙すれば、その開始時期がいつであっても、喫煙を続けている人に比べて肺がん診断後の生存可能性が高いことが示されています。この研究のメッセージはシンプルです。今すぐ禁煙しましょう」

主執筆者Aline Fusco Fares医師、プリンセスマーガレットがんセンター(カナダ、トロント)

本研究は、アブストラクトNo.1512であり、本研究のアブストラクトと著者らの全開示事項はASCOウェブサイトを参照のこと。

BRCA遺伝子変異がある再発卵巣がん患者は、オラパリブの維持療法によって生存が1年延長する

ランダム化第III相臨床試験SOLO2では、分子標的薬オラパリブ(販売名:リムパーザ)による維持療法により、BRCA遺伝子変異を有するプラチナ化学療法感受性再発卵巣がん患者の生存期間が約13カ月間延長されることが示された。

卵巣がんの維持療法の目的は、がんの成長を遅らせて生存期間を延ばすことであり、必ずしもがんの根治を目指すことではない。オラパリブはPARP阻害薬で、特定の酵素に結合することでBRCA遺伝子変異によって生じる損傷を抑止する効果がある。 維持療法中に増殖が始まったり他部位に転移したりする卵巣がんは再発がんと呼ばれ、治療が困難である。

この試験では、再発卵巣がん患者295人が対象で、全員BRCA遺伝子変異を有し、過去に2回以上の化学療法を受けたことがあり、がんがプラチナ製剤による化学療法に反応した。そのうち196人がオラパリブによる追加治療を受け、99人がプラセボを投与された。中央値65ヵ月の追跡期間後、生存し追加治療を必要としなかったのは、オラパリブ投与群の患者では28%超であるのに対し、プラセボ群では約13%であった。中央値は中間点であり、半数の患者の追跡期間が65ヵ月未満、半数の患者が65ヵ月以上だったことを意味している。オラパリブ投与群の患者では、死亡リスクが26%低下した。オラパリブ治療の効果が非常に高かったため、プラセボ群の38%強の患者がオラパリブ投与群に切り替えられた。

これは何を意味するのか?/この試験は、オラパリブがBRCA遺伝子変異を有する再発卵巣がんに対する維持療法として重要な役割を果たしていることを明らかにしている。

「卵巣がんで約13カ月という全生存期間中央値の延長は素晴らしく、私たちの患者に強力なメリットをもたらします。全生存期間のデータの追加によって、本試験は、この治療困難ながんを有する女性患者に対する個別化医療の新しい時代を切り開く一助となります」。

主執筆者 Andrés Poveda医師、キロンサルード病院 Initia Oncology(スペイン、バレンシア)

本研究はアブストラクトNo.6002であり、本研究のアブストラクトと著者らの全開示事項はASCOウェブサイトを参照。

翻訳担当者 粟木 瑞穂

監修 稲尾 崇(呼吸器内科/神鋼記念病院)

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