前立腺癌、肺癌、大腸癌、卵巣癌(PLCO)スクリーニング試験による卵巣癌研究結果

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前立腺癌、肺癌、大腸癌、卵巣癌スクリーニング試験、すなわちPLCO試験は大規模な臨床試験で、特定の癌の検診を実施することによって癌による死亡が減少するかどうかを確認します。PLCOでは、以下の検査を使用して前立腺癌、肺癌、大腸癌、卵巣癌の早期発見の有効性を検証しています。前立腺癌には直腸内触診および血中前立腺特異抗原(PSA)検査を、肺癌には胸部レントゲン、大腸癌には軟性S状結腸鏡検査、卵巣癌には経膣超音波(TVU)および癌抗原(CA)-125血液検査を実施します。癌検診を実施することによって医者が病気を早期発見し、順調に治療ができ、死亡が回避できる可能性があります。数々の疫学研究およびその他臨床試験も本研究の一部です。


PLCOスクリーニング試験は、米国立癌研究所のDivision of Cancer Prevention(癌予防部門)によって出資・運営されており、全米10カ所の検診センターで実施されています。その10カ所は、アラバマ州バーミンガム、コロラド州デンバー、ワシントンDC、ハワイ州ホノルル、ミシガン州デトロイト、ミネソタ州ミネアポリス、ミズーリ州セントルイス、ペンシルバニア州ピッツバーグ、ユタ州ソルトレイク、ウィスコンシン州のマーシュフィールドです。

臨床試験が開始された1993年から登録が完了した2001年の間、55歳から74歳の男女154,942人がPLCOに参加しました。参加者の検診は2006年まで継続されます。癌検診の有益性または有害性を明らにかにするため、さらに少なくとも10年間の追跡継続が行われます。

PLCOスクリーニング試験ではまた、米国立癌研究所のDivision of Cancer Epidemiology and Genetics(癌疫学および遺伝学部門)と共同で、癌(PLCOおよびその他の癌)の遺伝的環境的要因を研究し、また癌の早期発見の新しい手法を検証します。

前立腺癌、肺癌、大腸癌、卵巣癌を併せると、米国で診断された全癌の42%、また全癌死亡のほぼ半分(47%)を占めます。2005年には、266,360人が前立腺癌、肺癌、大腸癌、卵巣癌で死亡すると推定されています。

卵巣癌の背景

米国では2005年、22,220人の女性が卵巣癌と診断され、その結果16,200人が死亡すると推定されています。卵巣癌は、女性の癌による死亡の原因の第4位となっています。卵巣癌は、女性に発症する全癌の約4%を占めていますが、進行した病期に診断される場合が多いため、全婦人科癌の中で最も死亡率の高い癌となっています。これは、初期の段階では症状が現われず、実績のある検診が不足しているためです。長期に生存している患者は1/3未満です。

現行の検診では、双手触診、CA-125およびTVUが実施されています。骨盤内診察で卵巣を触診する手法は幅広く用いられていますが、早期癌を発見できるほど感度が高くありません。CA-125は、癌抗原125(血中糖蛋白質の一種)のレベルを測定する検査です。この蛋白質は、細胞の炎症または破壊が生じた場合、頻繁に放出されます。CA-125レベルの上昇は癌の兆候かもしれません。TVUは、音波を使って膣、子宮、卵管、卵巣および膀胱の異常の有無を検査する手法です。

PLCOの患者集団数、試験計画およびデータ収集

PLCOは、ランダム化対照臨床試験で、登録時に55歳から74歳の150,000人が2つの試験群に割り当てられ、半数が癌検診(介入群)を受け、もう半数が通常の健康管理活動(対照群)を継続しました。両群は年に1度、自分の健康に関するアンケートに回答します。1回目の卵巣癌検診は、1993年11月15日に最初の参加者に対して実施されました。

介入群の女性39,115例は、年に1回のCA-125が計6回、TVUが計4回の卵巣癌検診を受けます。当初、健康診断時の卵巣触診は、臨床試験実施計画書に含まれていましたが、卵巣触診のみでは卵巣癌は発見されていないことを示したデータを検討した後、卵巣触診は1998年に廃止されました。PLCOスクリーニング試験の卵巣部門の第一の目的は、登録時に55歳から74歳の女性について、CA-125およびTVUによる検診で卵巣癌による死亡が減少するかどうかを確認することです。

参加者が検診で陽性の結果であった場合、参加者およびかかりつけの医師に検診結果が伝えられるか、適切な医師への紹介を行います。追跡調査情報の収集は行うが、PLCOスクリーニング試験計画には必要な追跡調査の種類が指定されていません。介入群および対照群の参加者は、試験に参加してから少なくとも13年間経過が観察されます。

結果/発表

次の卵巣癌に関するPLCO分析は、最初に記載された最新の試験とともに発表されています。

スクリーニングおよび関連臨床試験

◆ PLCOスクリーニング試験の1年目の検診では、CA-125およびTVUで初期、末期両方の卵巣癌を発見することができましたが、これらの試験が病気の有無を正確に予見する能力は比較的低いです。PLCOの集団の死亡率に対する卵巣癌検診の効果は未だ明らかではなく、長期の追跡調査が必要です。

本文書では、ベースライン検診、すなわち患者が本スクリーニング試験に初めて登録された際に実施した最初の検査から得た初期データをまとめています。検診を受けた女性28,816例のうち、腫瘍が29個検出されました。そのうち20個が浸潤性で、9個が低悪性腫瘍でした。TVUで陽性だった女性1,338例、CA-125で陽性だった女性402例から腫瘍が検出されました。

CA-125異常値の、浸潤性癌に対する陽性的中率は、陽性が3.7%、TVU異常が1%で、両検査とも異常である場合には23.5%でした。医師達は、US Preventive Services Task Force(米国予防医療研究班)の現行の卵巣癌検診ガイドラインに変更を加えないことを奨励しました。このガイドラインには、1996年から「超音波や、血清腫瘍マーカーの測定または骨盤内診察による卵巣癌の定期検診は奨励しない」と記載しています。この勧告は本スクリ-ニング試験の初年度データから得たデータのみに基づいているため、さらに追跡調査を実施することによって、卵巣癌による死亡を防止するための検診の効果に関するより多くの情報がもたらされるでしょう。

参考文献:Buys SS, Partridge E, et al. 「Ovarian Cancer Screening in the Prostate, Lung, Colorectal and Ovarian (PLCO) Cancer Screening Trial: Findings from the Initial Screen of a Randomized Trial.」 American Journal of Obstetrics and Gynecology, 2005年11月15日

癌の要因の研究

◆ 閉経後の女性において、複数の分画を持つ複雑な卵巣嚢胞は、卵巣癌の直接の前駆病変とは考えられません。また、これらの嚢胞は卵巣癌の危険要因つまり卵巣癌または乳癌の家族歴とは関係ありません。

卵巣癌の前駆病変は、まだ明らかになっていませんが、可能性のある候補としては、症状がない閉経後の女性にTVUで検出される嚢胞のような悪性でない卵巣異常です。このような卵巣異常が癌の前駆病変というのであれば、確定した卵巣癌の危険因子を持った女性の間で卵巣異常が頻繁に検出されているでしょう。

医師達は、閉経後の女性20,000例から得たTVU結果とPLCO検診に登録した際に回答したアンケートから集計された危険因子のデータを比較しました。医師達は、複雑な卵巣嚢胞が子供の多い女性の間で有病率は低く、また経口避妊薬の使用と関連がないことを確認しました。子供の多さと経口避妊薬の使用は卵巣癌の強い保護因子です。嚢胞の有病率は、女性の年齢または癌の家族歴(双方とも卵巣癌の大きな危険因子)と関連がありませんでした。本臨床試験は、閉経後の女性において複雑な卵巣嚢胞は卵巣癌の前駆病変ではないこと示唆しています。

参照文献:Hartge P, Hayes R, et al.「Complex ovarian cysts in postmenopausal women are not associated with ovarian cancer risk factors.」American Journal of Obstetrics and Gynecology. 183(5):1232-1237. 2000年11月

癌に関する詳細情報は、米国立癌研究所のウェブサイトhttp://www.cancer.govまたは同研究所のCancer Information Service(癌情報サービス)1-800-4 CANCER(1-800-422-6237)にお問い合わせ下さい。

(ポメラニアン 訳・Dr.榎本 裕(泌尿器科) 監修 )  キーワード:卵巣癌、スクリーニング試験

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