【NCIニュース】抗がん剤腹腔内(IP)投与で進行卵巣癌患者の生存を1年以上延長

米国国立がん研究所(NCI) 臨床報告ニュース

米国国立衛生研究所(NIH)に所属する米国国立癌研究所(NCI)は本日、手術後の進行卵巣癌患者に2つの方法を用いた抗癌剤治療を推奨する報告を発行しました。薬剤の静脈投与と腹部直接投与を組み合わせて施行すれば卵巣癌患者の全生存期間を約1年間延長することができます。

卵巣癌患者の治療にあたる外科医およびその他の医療関係従事者に向けたこの臨床報告(Clinical Anouncement)は、6の学会および支持団体の協力を得て行われました。これと同じ時に、腫瘍医でメリーランド州ボルチモアのジョンズ・ホプキンスKimmelがんセンター助教授のDeborah Armstrong医師およびGynecologic Oncology Group (GOG)というNCI協賛の研究ネットワークの同医師の同僚らによる大規模な臨床試験の結果がNew England Journal of Medicine (NEJM)に発表されました。これは卵巣癌治療として腹部に注入する化学療法の有用性を評価した8つ目の試験です。これらの試験によって進行卵巣癌患者の生存期間が有意に改善することが分かりました。

これら2つの治療法は化学療法剤を静脈に投与するIVおよび腹腔に投与するIPと呼ばれています。Armstrong医師の試験には腫瘍を取り除く手術が成功した後、化学療法を受けるステージⅢの卵巣癌患者429名が参加し、IVパクリタキセル後IVシスプラチン投与の群(1)IVパクリタキセル後IPシスプラチン、続いてIPパクリキセル投与群(2)の2つの治療法を比較しました。

「米国人はNCI、そしてすべてのNIH付属機関に対し公正な研究試験や適切な助言を期待しています。この臨床報告はその期待に添おうとする努力を証明するものです。」とNIH所長Elias A. Zerhouni医師は述べています。

「NCIとしては、生存の延長をもたらす癌治療法が多くの人に利用してもらえるよう、臨床試験結果が医療提供者と患者の両方に迅速かつ確実に知れ渡って欲しいと思います。」とNCI所長 Andrew C. von Eschenbach医師は述べています。

「IP療法は新しい治療アプローチではありませんが、卵巣癌患者に標準的治療として広く認められてはいませんでした。」とArmstrong医師は言います。「IP療法は古い着想で、手術や化学療法には技術と経験を要しIV化学療法よりも複雑であったため、卵巣癌のIP療法に対する偏見がありました。しかし、腫瘍の大部分を取り除く手術が成功した進行卵巣癌患者のほとんどには、IP療法とIV療法を組み合わせて適応すべきであることを示す確実なデータが今はあります。」

卵巣癌ステージⅢ患者のこれまでの標準治療は、手術で腫瘍を取り除いた(デバルキング)後、シスプラチンやカルボプラチンのようなプラチナ製剤やパクリタキセルのようなタキサン系薬剤を用いた6〜8コースのIV化学療法を3週間ごとに実施するというものでした。新しいNCI臨床報告は、腫瘍のデバルキング手術が成功した進行卵巣癌患者にIV化学療法とIP化学療法を組み合わせて受けるよう推奨しています。IP化学療法では薬剤をより多く、より頻繁に投与することができ、卵巣癌が最初に転移したり再発したりしやすい腹腔の癌細胞を殺すのにより効果的だと思われます。

「この試験で、一部IP経路で化学療法剤の投与を受けた女性の生存期間中央値は、IV化学療法のみを受けた女性よりも16カ月延びました。」とArmstrong医師は述べています。IP経路で治療を受けた205名の患者のほとんどは、6回の予定された治療のうちのいくつかを受けなかったにもかかわらずIVのみの患者よりも良い結果が出ました。6つのIP治療すべてを終了した患者がわずか86名であった原因のほとんどは、IP化学療法に使われた腹腔カテーテルによる合併症です。副作用はIP化学療法を受けた患者の方が、IV化学療法のみを受けた患者より多く出ましたが、ほとんどの副作用は一時的で容易に抑えることができました。治療から1年後、両試験群のQOLは等しいことが報告されました。

今回の最も新しい試験を含む、ランダム化された多施設臨床試験は、進行卵巣癌患者の生存期間延長というIP化学療法の価値を明確に示しています、とGOGの代表、Philip Disaia医師は述べています。

「腫瘍の切除手術が成功し、腫瘍の大きさが1センチ未満になった患者のほとんどは、化学療法を腹部に直接行うことで生存期間を最大限に延長できることが分かりました。」とSociety of Gynecologic Oncologists会長および、カリフォルニア州ロサンゼルスにあるCedars-Sinai医療センターのGynecologic Oncology and the Gilda Radner Ovarian Cancer Program(婦人科癌とGilda Radner卵巣癌プログラム)の代表を務めるBeth Karlan医師は言います。

この発表を受け、Ovarian Cancer National AllianceはこのIP療法に関わる事実を患者コミュニティーに広めるつもりであると前代表のGinger Ackermanとexecutive directorのSherry Salway Black氏は述べています。「生存の延長を示したこの新しい試験の結果は我々にとってありがたいものです」とSalway Black氏は述べています。

「女性はIP化学療法を検討すべき時期についての事実を知ることが大切です。」Gynecologic Cancer Foundation (GCF)(婦人科癌基金)委員会の委員長で、ミネソタ州ローチェスターのメイヨー・クリニックの産婦人科教授のKarl Podratz医学博士は言います。「GCFはこの非常に重要な臨床試験結果と、それが進行卵巣癌患者にとって意味することを女性に知ってもらうため、NCIや卵巣癌学会と協力していきたいと思います。」

正看護師、看護学理学修士でOncology Nursing Society(癌看護協会)会長のKaren Stanley氏と、正看護師でSociety of Gynecologic Nurse Oncologists(婦人科看護師腫瘍医協会)会長のSusan Vogt Temple氏は、彼女らの学会には腫瘍看護師や卵巣癌患者にIP化学療法の安全かつ確実な実施方法を教育する環境が整えられていますと述べました。

最良のIP薬剤レジメンとIP治療の最適な回数を決めるにはさらに試験をする必要があります。今後の試験で、IP投与に関連する毒性の軽減方法にも取り組むことになるでしょう。

NCIは卵巣癌治療改善のための継続した研究に加え、病気をより早期に発見・治療できるよう、卵巣癌のマーカーの同定やより良い検診技術の開発のための試験に資金提供をしています。米国では2005年、推定で22,220名の女性が卵巣癌と診断されました。米国の女性生殖系の癌の中で卵巣癌は死亡例が最も多く、2005年には推定16,210名が亡くなっています。最新の統計によると、卵巣癌診断後の5年間生存率はわずか45パーセントですが、転移前に診断されたときの同生存率は94パーセントに上がることが分かりました。しかし、卵巣癌の症状は進行するまで出ないか、出ても極めて穏やかです。よって早期の、局所に限局しているステージで見つかる卵巣癌はわずか19パーセントです。

(Chihiro 訳・林 正樹(血液・腫瘍科) 監修 )

翻訳担当者 Chihiro 

監修 林 正樹(血液・腫瘍科)

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